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【判例】使用単位へ通知した離職理由と仲裁庭での主張に矛盾がある場合、法的にはどのように裁定されるか?(2023年1月18日)

●案例:

孫氏は2019年5月上海市内の某服装会社へライン工として入社し、2019年5月から2021年4月までの有期労働契約を締結した。契約において会社側は孫氏を上海市の社会保険及び公共住宅積立金に加入させるとしていた。孫氏の毎月の課税前収入は5000元であった。

2021年1月10日、孫氏は会社側へ「故郷へ帰り病気の母親を看病するために離職する」旨を書面にて通知した。会社側は孫氏の退職を認め、同1月18日事前に孫氏の離職手続を済ませた。

2021年5月、孫氏は問い合わせにて会社側が2020年6月から2021年1月までの社会保険金を支払っていないことを知り、会社側へ社会保険料と経済補償金の支払いを求めた。これを受けて会社側は社会保険料を追納したが、経済補償金の支払いには同意しなかった。そこで孫氏は労働人事争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ経済補償金1万元を支払うよう求めた。

●争点:

本案件では、自己都合で退職を申し出た孫氏が、退職後に「労働契約法」第38条に基づく経済補償金の支払いを求めることができるか否かが争点となった。

会社側は、孫氏が個人的な理由で退職を申し出たことから、経済補償金の支払いを義務付ける法律の規定に沿わないと主張した

一方孫氏は、「労働契約法」第38条に規定された状況が使用単位に存在する限り、労働者の退職理由にかかわらず、使用単位は経済補償金を支払うべきであると主張した。

判決:

仲裁委員会は、「労働契約法」第38条により、使用単位が労働者の社会保険料を法律に従って納付しなかった場合、労働者は労働契約を解除できると判断した。しかし、本案件における孫氏の離職理由が「病気の母親の看病のため」であったことから、「労働契約法」第38条に定める経済補償金を支払うべき状況に該当しないとし、孫氏の訴えを退けた。

分析:

本案件は、労働者の離職に起因する労働紛争である。

「労働契約法」第38条では、(一)使用単位が労働契約で合意した労働保護または労働条件を提供しなかったとき、(二)使用単位が労働報酬を全額かつ期限通りに支払わなかったとき、(三)使用単位が労働者の社会保険料を法律に従って納付しなかったとき、(四)労働者の権利・利益を損なう規則・規制により労働者権益に損害を与えたとき、(五)本法第26条第1項に該当し、労働契約が無効となったとき、(六)その他法律及び行政規則にて労働者が労働契約を解除することができると定められた状況に合致するとき、のいずれかに該当する場合は、労働者は労働契約を終了させることができると定めている。使用単位が暴力、脅迫または違法な個人の自由の制限によって労働を強制した場合、または使用単位が規則に反して危険な作業を指示または命令することによって労働者の身の安全を脅かした場合、労働者は使用単位へ事前に通知することなく直ちに労働契約を解除することができる。

この条文の立法主旨は、使用単位に上記のような状況が存在する場合、労働者が継続中の労働関係に対し直ちに解雇権を行使する権利を保護することである。但し、使用単位の行為が「労働契約法」第38条に該当する場合でも、労働者が自己都合など他の理由で離職を申し出た後、「労働契約法」第38条を理由として後出しで使用単位へ経済補償金の支払いを請求した場合は、一般に認められることはない。

では実際に、使用単位が法律に則って社会保険料を支払わなかった場合、労働者はこれを離職理由として使用単位へ経済補償金の支払いを求めることができるのだろうか?上海市高級人民法院の「『労働契約法』の適用に関する若干の問題に対する意見」第9条には、法律に従って労働者の社会保険料を支払うことが使用単位の基本的な義務であることが詳しく述べられている。しかし、社会保障費の算定基準は、実際には複雑なことが多い。この法律の規定の目的は、使用単位であれ労働者であれ、労働契約を締結した両当事者が、その権利の行使と義務の履行が誠実と信用の原則に反してはならないことを促進することであり、この法律が規制しようとするケースは、使用単位が誠実信用の原則に違反し、結果として支払いを遅延または拒否した場合のみである。

したがって、使用単位が主観的な悪意によって社会保険料を「支払わなかった」場合、労働者はこれを契約解除の理由とすることができる。但し、使用単位が「保険料の算定基準が不明確である」等の客観的な理由により、結果的に「支払いを怠った」「規則通りに支払わなかった」場合は、労働者が労働契約を解除する根拠とはならない。労働者が「労働契約法」第38条に規定するその他の事情の存在を理由とした労働契約の解除を主張する場合は、適法性、合理性、公平性の原則に則り、同条文の主旨に沿わなければならないのである。