ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】法定定年退職年齢に達した女性労働者を使用した場合、労使双方の関係は「労働関係」となるか?または「労務関係」となるか?(2023年2月28日)

【判例】法定定年退職年齢に達した女性労働者を使用した場合、労使双方の関係は「労働関係」となるか?または「労務関係」となるか?(2023年2月28日)

●案例:

王氏は2015年7月、上海の金型工場に入社し、組立工として働いていた。1971年10月12日生まれで2021年10月12日に50歳(※中国の一般職女性の法定定年退職年齢)を迎える王氏は、会社側と2021年6月1日から2022年5月31日までの労働契約を締結していた。

2021年12月1日、会社側は王氏が法定定年に達したことから、王氏へ労使双方間の労働契約が終了したことを書面で通知し、同日、王氏と2021年12月1日から2022年11月30日までの期間の労務契約を締結した。しかし王氏は2022年2月18日、出勤途中に交通事故に遭い、以降会社へ出勤することはなかった。

2022年3月、労災の申告と労働関係の存在をめぐって労使双方間に労働紛争が生じた。これを受けて王氏は、会社が所在する地区の労働争議仲裁委員会へ仲裁を申し立て、2021年6月1日から2022年2月18日までの期間における王氏との労働関係の存在の確認を求めた。

●争点:

本案件は、王氏が法定定年に達した後も会社側と労働関係を有していたかどうか、また両者の労働関係が具体的にいつ終了したのかが争点となった。

王氏は、法定定年である50歳に達した後も、怪我をするまで元の職場で働き続けたと述べた上で、社会保険料の納付年数が15年に達していなかったため、本籍地での退職手続きができず、年金を受け取ることができなかったことから、会社側との労働関係は継続されていたはずだと主張した。

これに対して会社側は、「一般職の女性労働者の法定定年退職年齢は満50歳となっている。また会社側は王氏を雇用している間社会保険料を通常通り納付しており、王氏が年金を受給できない要因が会社側にないことは王氏の知るところである。関連法律の規定によると、法定定年を超えて仕事を続けることを望んでいる労働者とは労務関係を結ぶことが出来、双方の権利義務の調整は民事的法律関係に基づいて処理される。会社側は王氏が法定定年に達したことを書面で通知しており、労使双方で労務契約を締結しているころから、王氏が50歳に達した後は、労使双方間に労働関係は存在しない」と反論した。

●裁审结果:

仲裁庭は、「会社側は2021年12月1日、王氏に対し法定定年年齢到達による労使双方による労働契約の終了を通知しており、会社側が王氏に対し法定定年年齢に達したことを理由として労働契約を終了させたことが認められる。ゆえに、労使双方の労働契約は2021年12月1日をもって終了したと言える。王氏は自己の都合で退職手続きを取れず、年金給付を受けられなかったが、王氏が法定定年退職年齢に達したことを理由として会社側が労使双方の労働契約を解除したのも、法律の規定に従ったものである。

確かに王氏は2021年12月1日以降も会社に勤務していたが、これは労使双方で新たに締結した労務契約によるものであり、労使双方の労働関係は法律に基づき2021年12月1日に終了している。ゆえに2021年12月1日以降は労使双方間に労働関係は存在せず、両者の関係は労務関係であったと言える。但し、王氏が2021年10月12日に法定定年退職年齢に達した後、2021年12月1日の雇用契約終了までの期間については、関連法規により労働関係として扱われる」として、2021年6月1日から2021年11月30日までの期間については労使双方の労働関係の存在を認めたものの、2021年12月1日以降の機関については労働関係の存在を認めない判決を下した。

●分析:

定年退職後の雇用継続から生じる労働者と使用単位との関係をどう定義するかは、現在大きな関心事となっている。「労働契約法」では、労働契約は労働者が法律に基づいて基礎年金保険を受給したときに終了するとされており、また「労働契約法実施条例」は、労働契約は労働者が法定定年退職年齢に達した時点で終了すると謳っている。 また、「国務院 労働者の退職と定年に関する暫定弁法」の関連規定では、法定定年年齢を男性の労働者は満60歳、女性労働者は満50歳と定めている。

「最高人民法院 労働争議案件の審理における法律の適用に関する解釈」(I)第32条の規定によれば、法定定年退職年齢に達し、すでに年金給付を受ける権利を有する者、または法律に従って年金を受給している者の雇用に関する紛争は労務関係として扱われるため、現状では労働紛争上の争点は存在しないとされている。

しかし実際には、法定定年を迎えても年金を受け取れず、退職の手続きもできない労働者も少なくない。このような労働者の労働契約を解除すべきかどうかについては、各地方によって意見が分かれているが、「第十三期全国人民代表大会第二回会議における第6979号議案に対する人的資源社会保障部の回答」(人社建字[2019]第37号)では、法定定年に達したものの使用単位の責任による事由以外の理由で基礎年金保険の給付を受けられない者については、労働関係を終了させることができるとされている。

法定定年退職年齢を超えた労働者が働き続ける意思を持つ場合、使用単位と労働者との関係は労務関係に基づき処理され、労使双方の権利と義務は民事の関連法規によって調整される。また、上海市高院「民法適用に関する質疑応答」第四条では、定年を迎えた者で、使用単位がその者との労働契約を解除せず、退職手続きを経ずに働き続けている場合は、労働関係として扱われるとしている。ゆえに、法定定年に達しているが年金給付を受けることができない者及び退職手続きを行っていない者に対する労働契約を終了させることができるか否かについては、実態に照らして関連する事情との関係で実質的に検討する必要があるが、法定定年に達しているが使用単位によらない事由により基礎年金を受給できない者については、労働関係を終了させることが可能であると解釈できる。ただし、使用単位が労働契約の解除や労務関係の締結の意思を示さずに労働者を雇用し続けている場合は、労働関係として扱われるのである。