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【判例】非全日制労働者が法定休日に働いた場合は、「時間外手当」が発生するのか?(2023年3月31日)

●案例:

2015年8月、李氏は北京市のファストフード店に入社した。李氏は週24時間、必要に応じてシフトに入ることとなっており、時給は21元であった。

2015年9月末と10月初めは、中秋節と国慶節が重なる「ゴールデンウィーク」となったが、中秋節と国慶節の法定休日に店舗側から支払われたのは通常と同じ時給21元であった。李氏は同僚と話した際、同店舗の正社員がゴールデンウィークに時間外手当を受け取っていたことを知り、店舗側へ時給の3倍に当たる賃金を法定休日の時間外手当として支払うよう求めた。これに対して店舗側は、李氏がアルバイト社員であることから、時間外手当を受け取る権利はないとして李氏の要求を拒否した。

李氏は労働紛争仲裁を申し立て、店舗側へ労働法の「法定休日の労働には3倍の賃金を支払う」との規定に基づき、中秋節と国慶節期間の賃金の差額を支払うよう求めた。

●争点:

アルバイト等のいわゆる「非全日制労働者」に対しても法定休日労働に対する賃金三倍払いの規定が適用されるか?

●判決:

労働争議仲裁委員会は、李氏が店舗側と非全日制での労働関係を締結していることから、李氏が法定休日の時間外手当を求めた点について「北京市賃金支払規定」第18条2項に基づき、法的根拠がないと判断した。

●分析:

非全日制雇用は、フルタイム雇用を効果的かつ科学的に補完するもので、企業の雇用コストを効果的に削減し、雇用者数を増やすことができる。また、柔軟な労働時間や迅速な労働報酬の受取を必要とし、短期間の労働を希望する労働者へ雇用機会を提供するものである。

非全日制雇用には、労働時間の自由度が高いころから、時給制が採用されている。「労働契約法」第六十八条では、非全日制雇用について、労働者が主として時間給で雇用される雇用形態であり、同一の使用単位における労働者の1日の平均労働時間が4時間、1週間の総労働時間が24時間を超えないものを指すと定義されている。

また、労働契約法第七十二条は、非全日制労働者への労働報酬の支払期限を15日以内と規定している。同法は、1週間の最長労働時間と賃金の支払い期間を制限することで、非全日制労働者の権益を保護することを目的としている。もし使用単位が非全日制労働者を週24時間以上働かせたり、賃金の支払い周期が15日を超えるように手配したりした場合は、使用単位は非全日制労働者の雇用形態に違反しているとされた上で、当該労働者は正規雇用と同一であるとみなされる。

非全日制労働者に対する週あたりの労働時間の制限は、非全日制労働者が労働時間を自由に設定する権利を保護するためのものでもある。ゆえに、仮に週24時間の労働を命じられた労働者が、1日4時間の残業を命じられた場合、雇用形態はフルタイムの雇用と同一と見なされ、非全日制労働者は労働時間を自由に編成することができないこととなる。すなわち、フルタイム雇用と非全日制雇用とをはっきり区別し、時間給の労働者を正確に定義することを目的として、非全日制雇用は1日平均4時間を超えてはならないと法律で定められているのである。しかし、非全日制労働者の1日の労働時間については法律上具体的な制限が設けられていないことから、出勤日と休日及び通常労働と時間外労働を区別することができない。ゆえに、非全日制労働者は労働の延長及び休日出勤にかかる時間外手当の支払いを請求し得ないのである。

非全日制労働者の賃金計算の特徴として、法定休日でも出勤できる点、時間外労働となる状況が発生しない点が挙げられるが、これが非全日制という雇用形態が設定されている目的の一つである。法定休日に通常の営業日や休日とは比べ物にならない客足が集中する一部サービス業において、正社員を採用すると雇用コストがかさみ、費用負担が大きくなることから、非全日制雇用はこの問題を解決するための良い方法であると言える。しかし法定休日は、社会的に見て普遍的で重要な祝日であり、その価値を移転して補うことができないという特殊性があることから、割増の賃金を支払う必要性が十分にあると言える。

「労働契約法」では、非全日制労働者の法定休日の賃金の支払いについて明確に規定されておらず、賃金の計算方法は各省・市によって異なる。正社員の賃金計算基準に従う、つまり法定休日の賃金を日給または時給ベースの300%以上で支払う省もあれば、非全日制労働者に対する法定休日の最低時給を具体的に公表している省もある。例えば、「北京市賃金支払規定」がこれに該当する。

「北京市賃金支払規定」第十八条二項では、「使用単位が雇用する非全日制労働者については、本法第十四条に規定する正規雇用者の時間外手当の算定に関する規定を免ずることができる。ただし、使用単位が法定休日に非全日制労働者を使用する場合、その時間給は北京市が規定する法定休日における非全日制労働者の最低時間給を下回ってはならない。」 と規定している。

本案件において店舗側は、中秋節と国慶節に李氏へ賃金を支払ったものの、その額は北京市が定める非全日制労働者の最低時間給49.9元を下回っていた。そのため、店舗側はこの基準に従って賃金の差額を支払う必要がある。

使用単位は、現地の最低賃金基準の変更に常に注意を払い、それを頭に入れておかなければならない。非全日制の労働関係を締結する際は、労働者に法定休日の賃金支払い基準を明確に伝え、双方で合意し、労働紛争のリスクを避けるよう努めるべきであろう。