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【判例】労働時間の延長による時間外労働に対する振替休日を取得した労働者が、更に時間外手当を請求することは可能か?(2023年3月31日)

●案例:

呉氏は2018 年 8 月 28 日某社へ入社し、清掃業務に従事していた。労使双方は2018 年 8 月 28 日 から 2020 年 8 月 27 日までの労働契約を結んでいた。呉氏はこの他に会社側の就業規則に署名していたが、この就業規則には、会社側が標準労働時間制を導入していること、特別な理由や特別な職位にない従業員が時間外労働に従事するときは、事前に申請書を提出し、直属の上長の承認を得ること、申請及び承認がない時間外労働については時間外労働とみなさず、また時間外労働に対しては年間を通して取得できる振替休日の付与をもって対処する事などが規定されていた。

呉氏は業務の都合上、頻繁に時間外労働に従事していた。呉氏は通常、時間外労働を行った後、当月及び翌月に時間外労働と同じ時間の振替休日を取得していた。そのような中、2020年8月27日、労使双方の労働契約は満了した。

その後呉氏は労働争議仲裁委員会に仲裁を申し立て、会社側に対し労働契約期間中の時間外手当を支払うよう求めた。

仲裁庭で呉氏は、使用単位は勤務日の労働時間が延長された労働者に対して、振替休日の手配ではなく時間外労働手当を支払うべきであり、また振替休日を手配する場合でも時間外労働と同等の1.5倍の長さの振替休日を手配すべきだと主張した。

これに対して会社側は、呉氏の在職中の時間外労働については振替休日を付与したと反論した上で、労働者自身が振替休日を取得した後になって時間外労働手当を請求するのは、公平・誠実の原則に反すると主張した。

争点:

時間外労働に対する振替休日を取得した労働者が、使用単位へ更に時間外手当の支払いを求めることはできるのか?

判決:

仲裁庭は審議の結果、「会社側は呉氏を含む従業員に対し、時間外労働には上長への申請と許可が必要なこと、時間外労働に対しては年間を通じて取得可能な振替休日を付与すること等を就業規則において示している。呉氏は、この就業規則に署名していることから、就業規則の内容を認識しており、意義はなかったものとみなすことができる。また呉氏の勤務日における時間外労働は、振替休日の取得という形で補填されており、未取得の振替休日は存在していない」として、呉氏の時間外労働手当の支払いを求める訴えを棄却した。

分析:

時間外労働とは、使用単位が自身の生産・運営上の必要性から、法定労働時間を超えて労働者を使用することを言う。時間外労働は、通常の労働時間の範疇になく、本来労働者が休息すべき時間帯に行われる労働であることから、国は労働者の休息する権利を保護すべく、時間外労働に厳しい制限を課している。一般的に、時間外労働は1日1時間、特別な理由がある場合は1日3時間を超えてはならず、また1ヶ月に36時間を超えてはならないとされている。

「労働法」第四十四条は、「次の各号のいずれかに該当する場合、使用単位は各基準に従って、通常の労働時間の賃金を上回る賃金報酬を労働者に支払わなければならない。(1)勤務日に労働者を延長労働させたときは、賃金の150パーセントを下回らない範囲の賃金報酬、(2)休日に労働者を使用し、かつ振替休日を手配できないときは、賃金の200パーセントを下回らない範囲の賃金報酬、(3)法定休日に労働者を使用したときは、賃金の300パーセントを下回らない範囲の賃金報酬」と定めている。同法のうち平日及び法定休日の時間外労働については、賃金の150%及び300%の賃金報酬を労働者へ支払うよう明記しているが、振替休日については特に規定がない。

それでは、勤務日の労働時間延長による時間外労働に対して振替休日を設定することはできるのだろうか?

この点は実務上まだ議論の分かれるところだが、上海市の現在の司法実務では、一般的に労働者自身が休日への振替を提案した場合は、労働者が自らの権利を行使したものとみなすことができ、また労働者が実際に振替休日を取得した場合は、実際に出勤した時間と通常の労働時間に差がないことから、労働者からの使用単位への時間外手当請求は認められないと考えられている。したがって、労働者が時間外労働に従事し、使用単位が振替休日を手配した場合、労働者の時間外手当の請求は支持されない。

注意すべきは、時間外労働も代休も使用単位と労働者の交渉に基づくものであるという点である。従って、労使双方が合意に至らず、労働者が振替休日に同意しない場合、使用者は振替休日によって労働者への時間外手当の支払い義務を免れることはできないのである。