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【判例】労働者側の怠慢により労災保険の申請期間を過ぎた場合、使用単位は損害賠償請求責任を負わなければならないか?(2023年4月28日)

●摘要:

労働者が業務において負傷した場合において、法律に基づく労災にかかる待遇を受けるためには、法定期間内に関係機関へ労災の認定を申請しなければならない。労働者と使用単位の双方に労災申請権がある場合において、労使双方が規定期間内に労災の認定を申請せず、結果労働者が相応の労災保険給付を受けられなくなった場合、誰がその結果について責任を負うことになるのだろうか?

案例:

2016年1月、馬氏はオペレーターとして博美公司へ入社した。その後2017年7月6日、馬氏は退勤途中の交通事故に巻き込まれ、交通警察は馬氏と相手方に等しく事故責任があると認定した。2017年8月2日、馬氏は事故証明書を会社側へ手渡し、自身の労災認定を申請するよう頼んだ。しかし馬氏の申請書類が不足していたことから、会社側の5度に渡る労災認定申請は全て不受理となった。

2018年8月14日、馬氏の労災申請期限が過ぎ、馬氏は労災の申請ができなくなった。その後馬氏と会社側との間で、期限内に労災を申請できなかったことについてどちらに責任があるかを巡る争いが発生し、結果馬氏は労災を申請できなかったことに対する損害賠償金の支払いを求めて提訴した。馬氏は、「交通事故後、妻が2017年8月2日に事故証明書を会社側へ手渡した上で、労災申請を行うよう要請していたが、交通事故に関する訴訟に必要であったことから一部原本を会社側へ提出できなかった。また、全ての必要書類を会社側へ提出していたことから、自身で労災を申請しなかった。申請期限までの間、会社側は申請が不受理となった後都度必要な書類について電話や面談で伝えただけだった」と主張した。馬氏は、労災申請書類に不備があったとしても、また会社側が申請期限を告知しなかったことから労災の申請期限を知り得なかったとしても、自身は労災申請の専門家ではなく必要な書類にも明るくないことから、会社側に労災申請の義務があると認識していた。ゆえに、会社側が申請期限内に労災を申請できなかったために自身の労災待遇を受ける権利が侵害されたことから、会社側へ損害賠償金の補償を求めた。

これに対して会社側は、馬氏の主張には同意できないと主張した。会社側は、五度に渡って馬氏の労災を申請し、それが不受理となったのは、労災の申請に必要な資料の提供に協力せず、権利行使に怠慢な態度を見せた馬氏にこそ原因があるとした。会社側は、「(自社が)馬氏の社会保険料を納付しており、労災の申請が会社側へ不利益を及ぼすことはないことから、むしろ積極的に労災申請を進めていたが、最初の申請で書類に不備があったため、馬氏へ必要な書類のリストを微博で伝えていた。馬氏は完全な民事行為能力者であり、また弁護士を雇って交通事故に関する訴訟も起こしていることから、労災申請についても相応の知識を有していたと思われる。ゆえに、会社側が申請期間内に馬氏の労災を申請できなかったことに過失はなく、賠償責任を負うことはない」と反論した。

判決:

本案件は馬氏の労災申請が不受理に終わった責任を会社側が負うべきか否かが争点であるとした上で、「労災に関する規定によると、使用単位は事故発生日から30日以内に労災認定を申請しなければならず、使用単位がこの期間内に労災認定を申請しない場合、負傷した労働者またはその近親者、工会(労働組合)組織は事故発生日から1年以内に労災認定を直接申請することができる、としている。本案件において馬氏の事故は2017年7月6日に発生し、会社側は事故発生日から30日以内に労災認定を申請していたが、馬氏が一部の資料を提出しなかったため、申請は受理されなかった。

馬氏は、会社側が法定期間内に必要書類を揃えられるよう、期限内に関連資料を会社側へ提出すべきところこれを拒否しており、会社側は以後も労災申請に奔走していた。一方馬氏は1年間の法定申請期限があったにも関わらず労災を申請せず、権利行使を怠った。ゆえに法院は、馬氏の労災申請が不受理に終わった点について会社側の責任を認めない」として、馬氏の訴えを全て退けた。

分析:

「労災保険条例」第17条では、「労働者と使用単位の双方は、等しく所轄社会保険行政部門へ労災認定を申請できる。申請期間については、使用単位は事故発生日から30日以内、負傷した労働者またはその近親者、工会(労働組合)組織は事故発生日から1年以内に使用単位事の所在する地域の所轄社会保険行政部門へ直接労災を申請することができるものとする」と定められている。

労働者が自身の権利保護のために、本人や近親者、工会(労働組合)組織などによる直接申請を選択した場合は、申請期限に注意し、自身の怠慢で権利を失効させないよう気を配らなければならない。 また使用単位が労災認定を申請する場合、労働者は使用単位と協力して必要書類を作成し、法定期限内に労災認定を申請できるよう、積極的に協力する必要があると言える。