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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第8回

『日孔保温瓶商貿(上海)有限公司 山中 肇 董事長・総経理インタビュー!』  2013年8月5日


日孔保温瓶商貿(上海)有限公司
董事長・総経理 山中 肇氏

  ● 創業時の採用リスクをいかに軽減するか

  ● 人材雇用で陥りやすい意外な落とし穴

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

魔法瓶ブランドで知られる「ピーコック魔法瓶」。輸出事業にも注力し、中近東諸国での市場シェアはナンバーワンという実績をもちます。業界内に新風を吹き込んできた同社が次に打つ一手は、中国をハブにした東南アジア市場の開拓。上海進出からまだ1年。「創業段階」における人材雇用リスクをテーマに、日孔保温瓶商貿(上海)有限公司の山中肇総経理に語って頂きました。

 

◆◆◆    【「孔雀」マークで中近東市場のトップブランドに】  ◆◆◆

(弊社)

本日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきまして有難うございます。 御社は早くから海外輸出に注力されてきたと伺っています。まずは、その辺りのお話をお聞かせいただけないでしょうか。

 

(山中董事長・総経理)

 中近東諸国向けでのシェアは大変高く、アラブ首長国連邦、サウジアラビア等においては、魔法瓶のトップブランドとして知れ渡っています。日本国内のシェアはサーモス、象印、タイガーに次ぐ第4位。ざっと15%といったところです。

 魔法瓶以外の商材としては、電気ポットやホットプレート、日本で製造しているウォーターキーパーやランチジャー、アウトドア用のウォータークーラー、チーズフォンデュ用の鍋などがあります。

 孔雀(ピーコック)をブランドにしているのは、本社設立時(1950年)に先発のライバル会社の手法に倣ったところもあるかも知れません。ステンレス製が登場する以前は、魔法瓶といえばガラス製でした。したがって、気品があり、また丈夫で割れにくい製品イメージを孔雀で表現したのではないでしょうか。

 

◆◆◆    【日本の販売ピークは中国のボトム?】  ◆◆◆

 

(弊社)

 日孔保温瓶商貿(上海)有限公司の開設から1年を迎えます。

 

(山中董事長・総経理)

 生産面での中国とのつながりは2001年からすでにあり、浙江省の平湖、江蘇省の揚州で魔法瓶の委託製造を始め、いまでも技術指導や品質管理を行うために本社から社員が現地工場に出向いています。

 魔法瓶は毎年のように新たな商品開発が行われていますが、すでに成熟商品といってよいものです。家庭によっては十数個も備えているケースさえあるのではないでしょうか。しかし、人口減少という事情もありますが、もはや日本市場や従来の輸出先市場だけでは立ちゆかず、新興市場の開拓が焦眉の急となっていました。

 そこで中国での内販にも本腰を入れようと大連の代理店を経由した販売に着手したのが2009年のことです。しかし、中国から日本へ、そして更に中国に逆輸入するというかたちをとっていたために、物流コストや通関コストが上乗せされ、販売価格が日本の3倍にも達してしまう情況でした。さすがに代理店からもこれではたまらないという声が上がり、中国国内で直接取引ができるように商社機能を持った拠点設立に動いたのでした。

 

(弊社)

 業績の手応えはいかがですか?

 

(山中董事長・総経理)

 ライバル会社と比べて後発であるため、ブランド構築はこれからとなりますが、売れ筋のワンタッチ式マグボトルがまずまずの成果を収めています。

 ただ、日本であれば売上がピークに達するはずの夏季の業績があまり振るわないというのが実情です。中国では健康上の理由から氷や冷たい水が避けられる傾向があり、保冷用(温冷両用)タイプがいまひとつ人気を欠くためです。

 また、中国では収納性や軽量であることへの消費者のこだわりがさほどなく、むしろ頑丈であるイメージのほうが歓迎される向きがあるかも知れません。

 

◆◆◆    【創業期に潜む採用リスク】  ◆◆◆

 

(弊社)

 「創業」段階にあって感じられた、一番タフな経営課題は何でしょうか。

 

(山中董事長・総経理)

 やはり、戦力となる「人材」確保の問題が大きいといえそうです。

 創業期は、求人広告を通した採用活動ではなく、人材会社や知人の紹介を介して人材を確保するケースが多いかと思います。しかし、どんなに慎重に採用し、リスクヘッジをかけたつもりでも、実際に一緒に働いてみないと人の能力というのは分からないものです。

 私たちの世代とは異なり、(中国でも日本でも)厳しい就職戦争を切り抜けてきた人ばかりですから、面接試験で優れたプレゼンテーションを見せられることも珍しくありません。しかし、採用したら仕事へのモチベーションも見込み違いだったというケースが意外と多いのではないでしょうか。

(弊社)

 面接者にとっては「面接の達人」という虎の巻もあるぐらいです(笑)。採用する側も確かな人選を行うために、面接時の設問を工夫するなど、より知恵を働かせる必要がありそうです。

 

(山中董事長・総経理)

 「指示待ち族」であったり、しっかり守るのは退勤時刻だけで、「精いっぱい」楽をし(笑)、最小限の労働投与で最大の報酬を得ることしか関心のない人は採用したくないというのが経営者としての偽らざる本音です。求められるべきは、創業への参画意識であり、「自分で考えて動ける」「自分で仕事を創っていく」人材となります。

 もっとも、何とか意中の人材を獲得したからといって、それでリスクから免れられることにはなりません。社員同士が不仲で、チームワークが機能しなくなるとことさえあります。弊社でも、女性社員2人の間で口論が絶えず、対立関係がエスカレートして離職に至ったことがありました。日本でしたら退職希望者も会社の立場を配慮したうえで離職時期を調整してくれるものですが、どうやら中国ではそんなことはお構いなしであるかのようです。

 もともと小人数での運営を余儀なくされる創業段階で、突然、人材インフラが崩れるのは致命的であり、要注意だといえましょう。

 

(弊社)

 ジョブホッピングを含め、離職に対する考え方は都市、地域によって差はあるでしょう。しかし「立つ鳥跡を濁さず」ではなく、「あとは野となれ山となれ」という情況は困ったものですね。

 

(山中董事長・総経理)

 創業期で退職者がひとたび出れば、体制の立て直しにまた大きなエネルギーを割かなければならなくなります。

 人の採用にあたっては、情報漏えい防止ほか、さまざまなリスク軽減策を講じていかなければなりませんが、創業期においてはより慎重に対処することが必要であることを知っておくべきだと思います。

 

◆◆◆   【求められる成果主義の導入】   ◆◆◆

 

(弊社)

 山中総経理はかつて人事コンサルティングの業務に携わられたこともあるのですね。

 

(山中董事長・総経理)

 ええ。 ピーコックに参画する前のことです。

  社会保険労務士の資格を取得していたこともあり、企業クライアントの「人事ブレーン」のような立場で、賃金制度や人事評価等といった「人事改革」に携わったことがあります。

 ご存知のとおり、日本の高度成長を支えてきたのは終身雇用にもとづいた賃金制度でした。その後、潜在能力や顕在化能力を評価する職能主義が導入されましたが、やはりベースにあるのは年功序列だったといえるでしょう。

 しかし、時代の変化もあり、これでは能力のある若者がモチベーションをもてず、企業の業績も頭打ちになってしまう事態となりました。そんななかで、顧客に対しては、職能主義に成果主義を組み合わせた新たなシステムの導入を提案していったのです。

 

(弊社)

 成果主義を取り入れることは、むしろ中国でこそ必要なのではないでしょうか。

 

(山中董事長・総経理)

 たとえば、セールス人材についていうと、「御用聞き型」ではなく、「提案型」の営業人材が主流になってこそ会社は業績を伸ばすことができます。こうした事情は、中国もおそらく日本と同じでしょう。会社への貢献に対して相応の報酬が支払われる、バランスのとれた成果主義の導入が必要だと思われます。

 

◆◆◆   【「後継者」選びの落とし穴】   ◆◆◆

 

(弊社)

 今後、「創業期」から「発展期」にシフトしていく際には、どのような方針で人材雇用を進めていかれますか。

 

(山中董事長・総経理)

 今年後半から、台湾やタイ、インドネシア等の国・地域に向けた輸出事業も開始いたします。その準備のために新たな日本語人材を確保いたしました。新事業が軌道に乗れば、今度は日本人であれ、現地人材であれ、後継者育成にとりかからなければならないと思っています。ただ、人材の現地化を徹底するかどうかは、まだ白紙の段階です。

 とりあえず、中国人を迎える場合は、在中国の日系企業に勤めていた人よりも、感受性豊かな若い時期に日本で暮らし、日本の文化に直接触れてきた人を求めたいと思います。日本の企業風土を知る人を採用したほうが、「ハズレ」がないと考えるからです。

 一方、逆説的ですが、日本人を雇うのであれば、むしろ「中国に来たくない」という人材のほうが好ましいという見方も持っています。

 なぜかといえば、中国の商流を把握し、アクティブにビジネスを仕掛けていく日本人もいれば、反対に「ぬるい」環境に長く浸かってしまった「大陸浪人」タイプもいるからです。相手が中国通の日本人だからといって採用リスクが軽減するわけではないことを肝に銘じておくべきだと思います。

 

(弊社)

 なるほど、創業期の人材戦略はいろいろな課題がある様です。本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき、有難うございました。

 

 

 【山中肇氏のプロフィール】

 日孔保温瓶商貿(上海)有限公司総経理。大阪堺市出身。1981年に岡山大学法文学部卒業後、某家電メーカーに入社。商品企画や営業に携わり、ヒット商品ともなったホットプレートの開発にも関わる。03年に退職、コンサルティング会社の経営を経て、08年にピーコック魔法瓶株式会社に入社。中国法人の設立プロジェクトに着手し、昨年より上海赴任。社会保険労務士。

 

 【日孔保温瓶商貿(上海)有限公司 様 会社情報】

日孔保温瓶商貿(上海)有限公司
上海市静安区延安中路 1440 号第 20 幢阿波W大厦 605室(200040)
Tel:021-6103-1687 186-1658-1243
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