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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第37回

『江蘇王子製紙有限公司 岩永 栄次郎 営業本部長兼広州及び深セン分公司総経理 インタビュー!』2016/4/7


 
江蘇王子製紙有限公司
岩永 栄次郎 営業本部長
兼広州及び深セン分公司総経理


  ●  南通市と協力し世界一環境に優しい製紙工場へ

  ●  KPIの導入と仕事の兼務により効率化を実現

 

(弊社インタビュアー)(以下弊社)

1873年に渋沢栄一により設立され、世界五大製紙会社のひとつに数えられる王子ホールディングス株式会社。その中国法人のひとつである江蘇王子製紙有限公司で営業本部長として、業務の効率化に取り組んでおられる岩永栄次郎本部長にインタビューしました。

 

◆◆◆  「もはや製紙企業ではない」のと認識のもと、幅広く事業拡大   ◆◆◆

(弊社)

まずは歴史ある日本王子製紙の沿革と業務内容についてお聞かせ下さい。

(岩永本部長)

当社の歴史は、1873年に渋沢栄一により東京府王子村に洋紙製造会社として設立されたことに始まります。1893年には創業地の名を冠し商号を「王子製紙」と改称、1933年には全国洋紙生産高の80%を占めるまでになりました。

戦後の過度経済力集中排除法により3社に分割され、苫小牧製紙(後に王子製紙)、本州製紙、十條製紙(後に日本製紙)となりました。後に本州製紙とは再び合併し、王子製紙株式会社となり、2012年からは純粋持ち株会社に移行し、称号を「王子ホールディングス株式会社」と変更し現在に至ります。

現在は「もはや製紙企業ではない」との認識のもと、洋紙生産販売だけでなく、産業資材、生活消費財、機能材、資源環境ビジネス、印刷情報メディアなど、幅広く事業分野を拡大しています。

(弊社)

御社は積極的に海外へ展開されています。

(岩永本部長)

1970年代のブラジルでのパルプ生産に始まり、中国や東南アジア、オーストラリア、ニュージーランドなど世界各地で様々な事業を展開しています。

近年、日本国内での販売が伸び悩む中、海外へ積極的に進出しています。ベトナム・マレーシアはじめ近隣諸国およびオーストラリア・ニュージーランドにおける段ボール紙器の製造、アメリカ、ドイツ、タイ、ブラジルにおける感熱紙等の製造、ブラジル、東南アジア、NZ、豪州の植林・木材加工事業や製紙原料の製造、そして中国における上質紙およびパルプの製造など、扱う事業は非常に多岐にわたります。

2000年代から海外販売比率は増加しており、2012年が12%だったのが、2015年には30%まで伸ばしています。2018年には35%まで伸ばす計画です。将来的には50%まで高めることを目標に掲げています。

 

◆◆◆  世界一環境に優しい製紙工場へ  ◆◆◆

(弊社)

中国にも多くのグループ会社があるそうですが。

(岩永本部長)

現在、中国には18社、約2700人の従業員が働いています。業務の効率化や情報共有をスムーズにするため、「ONE OJI」をスローガンに6月から上海にある主要7社のオフィスを同じビルの同じフロアに集める事になりました。

(弊社)

御社中国法人の沿革と事業内容についてお聞かせ下さい。

(岩永本部長)

海外へ積極的に展開するという方針の下、江蘇王子製紙は、江蘇省南通市に2007年に設立。王子製紙株式会社90%、南通市経済技術開発区総公司10%となっています。

生産能力は紙製品が年間40万トン、販売パルプが年間24万トンとなっています。

(弊社)

いわゆる「南通プロジェクト」ですが、軌道に乗るまでかなりのご苦労があったそうですね。

(岩永本部長)

南通工場では当初、処理済みの排水を、パイプを通して南通市南部の啓東市から黄海に流す計画でしたが、住民の反対運動により南通市はパイプの建設をとりやめました。

(弊社)

環境汚染の懸念から住民の反対運動に火がついたそうですね。

(岩永本部長)

実は中国の環境基準は、日本以上に厳しい基準を定めています。南通工場の排水は、当然中国の基準を満たした排水なので、海洋放流することについては環境汚染の心配は全くなかったのですが。。。風評の影響もあり住民の方々の理解を得る事ができませんでした。

(弊社)

排水が出来ないと事業自体が成り立たなくなります。この問題をどの様に解決しましたか。

(岩永本部長)

解決策が固まるまでは非常に苦しかったですね。この問題が解決しなければ、撤退することも覚悟していました。この問題は、最終的には南通市が、排水パイプの代替設備として、「中水回用設備」という設備を建設し、運営することで解決しました。この設備で排水を更に浄化し、「中水」として緑化や工場で再利用することができるようになり、海や長江に排水を流さずにリサイクルする事に成功しました。この設備は製紙工場の排水処理としては世界中のどの製紙工場にも無い画期的な処理設備で、技術的にも困難を極めましたが、南通市の尽力によりこれを解決し、無事に処理施設が稼働したことで、今では世界で最も環境に優しい工場になったと誇れるようになりました。中国の環境NPOが製紙会社のランキングを発表していますが、弊社は2位以下を引き離して1位の高評価を頂いています。

 

◆◆◆  KPIの導入と仕事の兼務により効率化を実現  ◆◆◆

(弊社)

経営面では、人件費の上昇が企業の経営にとって重要な課題となっていますが、御社はどの様な対策をしていますか。

(岩永本部長)

2013年からKPIを導入し、その中で賃金の調整を行っています。これにより、限られた予算の中で、業績に応じた資源配分を行えるようになりました。 従って、人件費の上昇自体はあまり問題とは考えていません。

もう一つは兼務化です。当初の計画から下方修正がされ、人件費を含むより効率的な運営の必要に迫られました。そこで、間接部門を中心に営業部門との兼務化を進めることにしました。

(弊社)

日本では全員営業という言葉をよく聞きますが、中国では皆さん兼務を嫌がります。どの様に納得してもらいましたか。

(岩永本部長)

間接部門を中心に、営業職を兼務してもらうよう進めましたが、現地の社員は兼務をやりたがらない方が多く、説得は難しかったですね。そこで、営業職を兼務すると、給与を高めに設定し、業績に応じて大きなリターンが得られるような給与制度に変更しました。すると、大きな不満もなく円滑に兼務化に移行する事ができました。それどころか、兼務化の対象にならなかった部門の従業員から、なぜうちの部門は対象にならないのかと苦情が寄せられたくらいです。

この様な工夫をする事で、1人当たりの人件費は毎年上昇していますが、総人件費の伸びを抑えることに成功しています。

(弊社)

まさに、従業員も会社もハッピーでウィンウィンの関係ですね。

現地化もまた、在中日系企業の課題として挙げられますが、御社の取り組みをお聞かせ下さい。

(岩永本部長)

当社では現地化を積極的に進めています。総経理には中国人が就任しており、最近では中国総代表も、日本人からカナダ国籍の中国人に替わりました。現在はトップに中国人が就き、日本人駐在員が副総経理として支える体制になっています。

また、海外グローバル人材のデータベース化を進めており、将来的には昇進などの一体化した運用を計画しています。

 

◆◆◆  市況の悪化している中で、領域をこえて未来へ挑む  ◆◆◆

(弊社)

それでは最後に、今後の展望をお聞かせ下さい。

(岩永本部長)

中国の製紙業界は、生産能力過剰の影響で、市況が悪化しており、当面の回復は難しいだろうと認識しています。そこで、しばらく冬の時代が続く事を前提に戦略を立てています。

そのために、印刷用紙の領域をこえて、加工分野など様々な分野へ進出していきます。

また、環境分野への取り組みも強化していきます。中国でも国際認証機関であるFSC(森林管理協議会)の認証を受けた製品を増やしていく計画です。

(弊社)

人経費などのコスト上昇により、経営効率化はどの企業にとっても頭の痛い課題となっています。御社の取り組みを伺い、中国人に合った人事制度を取り入れる事がコストを抑える有力なツールになり、人事管理は経営に深く繋がっていると改めて感じました。長時間有難うございました。

 

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 【岩永 栄次郎(いわなが えいじろう)のプロフィール】

京都大学農学部卒業。1993年本州製紙株式会社に入社、印刷用紙部に配属。96年に新王子製紙と合併し王子製紙となり、同社の洋紙企画業務部に配属。01年に米子工場へ配属され、06年に米子工場事務部調査役、07年王子製紙国際営業部主幹を務め、11年に王子製紙商貿(中国)有限公司貿易物流部長に就任、現在江蘇王子製紙有限公司営業本部長、広州分公司及び深セン分公司総経理を務める。

 

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 【江蘇王子製紙有限公司 様 会社情報】

中国江蘇省南通市経済技術開発区通達路18号 226017
TEL (513)8599-6555
FAX (513)8599-6382

 

江蘇王子製紙有限公司 岩永 栄次郎 営業本部長
岩永 栄次郎 営業本部長1

江蘇王子製紙有限公司 岩永 栄次郎 営業本部長
岩永 栄次郎 営業本部長2

  
江蘇王子製紙有限公司 岩永 栄次郎 営業本部長
岩永営業本部長と人事総務部 孔祥玲高級主管

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