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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第56回

『ADK集団中国 西塚 智生 董事長 インタビュー!』2018/11/20


 

ADK集団中国
 西塚 智生 董事長


  ● 社員との信頼関係作りから始まる組織改革と成長戦略

 

(弊社インタビュアー)(以下中智)

ADK集団中国は、大手広告会社である株式会社アサツーディ・ケイ(以下ADK)の中国ビジネスを展開しています。今年に入り大手ECモールの京東との提携、越境EC店舗運営とデジタル広告事業を専門とする現地子会社の設立など、その動向が注目されています。そこで今回は、2018年4月にADK集団中国の董事長に就任し、経営改革に取り組んでおられる西塚智生氏に現地法人の企業風土作りと社員の意識改革への取り組みについてインタビューしました。

 

◆◆◆  社員4人でスタートし、日本国内第3位の大手広告会社へ  ◆◆◆

(中智)

本社である、ADKについてご紹介下さい。

(西塚董事長)

 ADKの前身である旭通信社は、1956年に社員数わずか4人でスタートしました。その小さな広告会社は旺盛なチャレンジ精神を糧に驚異的なスピードで成長し、たちまち日本国内3位の規模となりました。その後、1999年に第一企画が合併してADKが誕生しました。成長の原動力は、既成概念にとらわれないチャレンジ精神と“全員経営”の理念でした。“全員経営”とは、個々の社員が経営者的視点に立ち、自ら考え、行動し、新しい価値を創造していくことです。

(中智)

御社は伝統的にアニメコンテンツに強いく、多くの人気アニメの制作に携わっています。中国においても、日本のアニメ人気が非常に高いですが、御社が手掛けている中国のアニメビジネスについてお聞かせ下さい。

(西塚董事長)

中国においては、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、黒子のバスケ、くまモン等のアニメコンテンツを活用した広告やプロモーションを行っています。特に、くまモンに関しては、熊本県から全面的なマネジメントを委託していただいており、くまモンの中国での公式活動は原則として全て当社が行っています。

将来的には、今あるアニメコンテンツを活用するだけではなく、中国の才能ある若いクリエーターを発掘して育て、価値あるコンテンツを生み出すクリエイティブな仕事をしたいと考えています。

 

◆◆◆  信頼関係の構築は、現地マネジメントの死活問題  ◆◆◆

(中智)

学生時代はラグビーのキャプテンをされていたそうですが、チームのパフォーマンスを上げるために大切な事は何でしょうか。

(西塚董事長)

高校ではキャプテン、大学ではバイスキャプテンを務めていました。スポーツでも仕事でも、組織にとって如何に高いモチベーションを維持するかは非常に重要な課題であると考えています。正直申しますと、キャプテンとしての自分は決してチームのモチベーション向上にとって良いリーダーでは無かったと思っています。当時の自分には心の余裕も広い視野も欠けていました。多くの経験を重ねた今だからこそ、過去の反省に立脚して、社員の潜在能力を引き出す組織を作るリーダーになりたいと考えています。

(中智)

当社でも、社員のモチベーションを重視しており、お客様に対して様々な従業員向けの福利や研修サービスを提供しています。

部下を指導するうえで意識している事はありますか。

(西塚董事長)

マネジメントと社員にお互いの信頼関が欠けていると、良い結果は生まれません。社員がマネジメントを信用できず、マネジメントも社員と向き合い話をしていなければ、社員から正しい情報が上がらなくなります。正しい情報が正しく入ってくるかどうかは、マネジメントにとって死活問題です。間違った情報をベースに判断すれば、当然に判断を間違えます。よって社員との信頼関係を築くために公正で明確な人事制度の構築だけではなく、社員とのコミュニケーションを重視しています。

(中智)

具体的にはどの様な工夫をされていますか。

(西塚董事長)

私が、董事長として現地に着任した際、最初に社員達と1対1の面談を行いました。会話の内容は、自分の仕事の状況、上司との関係、会社に対する希望、家族やプライベート等の雑談等さまざまです。そのほか、毎月の全社ミーティングでは必ず、直接社員達に私自身の考え、ビジョン、仕事に対する想いを語りかけています。また、時に重要だと思う事項があれば、社員達に直接メールを出すようにしています。そうする事で、社員達から様々な情報が上がってくるようになりました。リアリティはその人の立場や受け止め方によって異なるので、事実を多角的に捉えるためには、一人ひとりの話を聞く事が必要です。誰か一人の話だけを聞いて判断するのは危険です。

(中智)

現地法人における日本人駐在員の役割についてどの様に考えますか。

(西塚董事長)

中国の会社なので、あくまで中国人社員が主役となり経営していくべきだと考えます。そうした中で日本人駐在員が現地法人で果たすべき役割は大きく2つ考えられます。ひとつは、お客様との円滑なコミュニケーションの役割です。現時点では日系企業のクライアントが多いため、日本人の経営者に対しては、やはり日本人が対応する方がビジネスをスムーズに運ぶことができます。もうひとつは、現地社員に知識や経験を伝える事です。日本と中国では、発展の方式が異なり、中国の方が進んでいる分野も存在します。その反面、日本が既に経験した事が中国で起きていないという事例も存在します。例えば、日本でよく行われている既存ブランドをリフレッシュする様な事例は、中国ではまだ多くありません。この様な日本人が長い年月の中で培った経験やスキルを、若い社員達に伝え教えていく役割があります。

(中智)

日中での仕事経験から、日本人社員と中国人社員にどの様な違いや、戸惑いを感じますか。

(西塚董事長)

日本人は行動が慎重で、周囲とのバランスを考え、意思決定が遅いのに対し、中国人は細かい事にこだわるより、どんどんプロジェクトを前に進める積極性があります。また、言いたい事をはっきり言うので、ぶつかる場面もありますが、それにより理解しあえて、かえって関係性が良くなることも少なくありません。はっきり主張するスタイルは、私のストレートな性格にも合っており、日本より仕事がやり易いと感じます。

部下への指示に関しては、明確に言わなければ伝わりにくいと感じます。自主性を尊重するつもりで、大まかな指示を与えると、曖昧な指示と映るようです。

 

◆◆◆  デジタル広告事業を新たな成長エンジンとして育成   ◆◆◆

(中智)

最後に、今後の展望をお聞かせください。

(西塚董事長)

日本では昨年、デジタル広告費がテレビ広告費を逆転しニュースになりましたが、中国では既に2015年に逆転しており、デジタル広告費のうちの約30%をEC内広告が占めています。 

そこで今年の10月に、中国越境EC店舗運営とデジタル広告事業を専門とする「上旭(上海)网络科技有限公司」を設立しました。2020年には経営を軌道に乗せ、22年のタイミングでADK中国とEC新会社はこれまでの広告代理店ビジネスとは異なる新しいビジネス業態への変革を目指します。ビジネス環境の急激な変化に対応し、我々のビジネスモデルも絶え間なく変化させる必要がありますが、しかし「目の前にいるお客様のビジネスに責任を持つ。」というADKのDNAは大切に守り、企業文化としてADK中国に根付かせたいと思います。

(中智)

コミュニケーションの頻度と信頼関係について、11月に開催した課長塾で講師を務めた、行動科学の第一人者である石田淳先生も授業の中で指摘しておられました。社員との信頼関係を築けていなければ、正しい情報(特に悪い情報)が上がってこず、正しい経営判断はできません。そして社員のパフォーマンスは、モチベーションの影響が大きく関わります。上司と部下、または社員同士のコミュニケーションを促進する制度、モチベーションをアップさせる人事制度や福利制度の大切さを改めて感じました。本日は、長時間のインタビューにご協力いただき有難うございました。

 

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 【西塚 智生(にしづか のりお) 氏のプロフィール】

1988年上智大学文学部卒業後、同年マッキャンエリクソン博報堂に入社。入社以来、数多くのグローバルブランドや日本ブランドのビジネスに従事し、一般消費財・ヘルスケアコミュニケーション等幅広い経験を持つ。2006年からの3年間、中国のマッキャンヘルスに駐在し、その間09年に卓越したクライアントビジネスの成長への貢献が認められ、China Effie Award「中国のマーケティング・エフェクティブネス賞」を獲得。帰国後はコンシューマーコミュニケーション部門であるヒューマンケアのGMに着任。そして18年4月にマッキャングループを退職し、ADK中国の董事長に就任し現在に至る。


インタビュー風景


中智の記念写真