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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第60回

『時事通信社 佐藤 雄希 上海支局長 インタビュー!』2019/5/5

<strong><font style="font-size:19px">令和元年、新たな時代を迎え日中ビジネスの可能性と課題を聞く</font></strong>

令和元年、新たな時代を迎え日中ビジネスの可能性と課題を聞く

<strong><font style="font-size:19px">―― 時事通信社上海支局長 佐藤 雄希 氏</font></strong>

―― 時事通信社上海支局長 佐藤 雄希 氏


 

時事通信社

佐藤 雄希 上海支局長

 

1995年、早稲田大学法学部を卒業。大手都市銀行を経て98年に時事通信社へ入社。入社後は外国経済部に所属し、主に外国の経済分野を取材・執筆する記者として活躍する。福島支局勤務を経て2012年に北京の中国総局へ赴任、その後再び外国経済部へ戻り、16年12月から上海支局長に就任する。

 

◆◆◆ 海外の日系企業向けに世界のニュースを速報 ◆◆◆

時事通信社は1945年に設立された日本を代表する通信社のひとつだ。海外総支局約30カ所に特派委員網を展開するとともに、新華社、トムソン・ロイター、APFなど国際通信社と提携して、全世界のニュース、写真を契約社に配信している。時事通信社の特徴について、佐藤支局長はこう説明する。「時事通信社が他のマスコミと異なるのは、海外進出日系企業向けに『時事速報』という情報サービスを提供している点です。」

世界中に張り巡らせた独自取材ネットワークと、提携している新華社、トムソン・ロイター、APFなど世界各国の通信社から間断なく送られてくる最新ニュースを情報源に、日本の主要紙やメディアでは掲載されないアジア各地の最新ニュースを配信している。在中日系企業向けにも時事速報を提供しており、平日毎朝夕2回、現地の経済・産業ニュースを届けている。


時事通信社は、1974年に北京支局(現在の中国総局)を置き、中国でのサービスを開始し、97年に北京、香港に次ぐ3番目の拠点として上海支局を開設した。上海支局の開設などにより、北京支局は98年に中国総局に格上げされた。上海支局では、主に華東地域に進出する日系企業に対して「時事速報」のニュースサービスを提供している。

「毎日、中国で発行されている70紙以上の新聞、ネットメディアのニュースをチェックします。その中から中国経済や産業の重要な話題をピックアップし、日本語に翻訳した原稿を東京に送り、東京で編集作業を行い記事にしています。」応接室で佐藤支局長へインタビューしている間も、事務所では中国人のベテランスタッフがパソコンに向かい黙々と翻訳作業に打ち込んでいた。

最近では、中国人読者も増えてきているという。この点について、佐藤支局長は「もともとは中国に進出している日系企業の駐在員向けにサービスの提供を開始しましたが、在中日系企業の現地化進展にともない、読者も日本人駐在員から日系企業に勤める中国人社員に広がっています。」と述べた。中智企業倶楽部の会員企業にも多くの愛読者がいる。中国人社員の読者も少なくなく、最新ニュースを得るだけではなく、日本語の新しい経済用語等を学べ、正しい日本語を勉強する教材としても活用しているようだ。


時事通信社は、1980年に新華社と報道協定を締結しており、97年の上海支局設立当時から、業務面でも協力関係にある。昔は、紙媒体で時事速報を発行していたので、その紙媒体の配送と集金を新華社に委託していたが、現在は電子媒体で読者にメール送信しており、主に集金と領収書の発行を委託している。中国でビジネスを発展させるには、現地の頼れるパートナーは欠かせない。

報道によると昨年7月、時事通信社の大室社長と新華社の蔡社長が北京で会談し、日中両国の企業により充実した情報サービスを提供するため、日本語ニュースサービスや経済情報等の分野での交流と協力強化を確認した。

 

◆◆◆ 現地化と管理のバランスが新たな課題に ◆◆◆

話題が日中ビジネスに移ると、佐藤支局長の表情が記者の顔に変わる。最近の日中関係について尋ねると、「2012年頃が最も冷え込んでいました。その後、訪日ブームがあり中国人の日本に対する見方がずいぶん良くなったように感じます。」しかし中国のビジネス環境に対しては、あくまで慎重な見方を崩さない。「人件費や不動産賃料の上昇が続いているうえに、人民元の対円レートの上昇が重なり、在中日系企業の経営環境は、ますます厳しさを増しています。」しかしマーケットとしての中国の重要性は高まっていると指摘する。「特に医療、教育、金融、流通等の分野でビジネスチャンスが期待できるでしょう。ただし、金融や流通分野ではインターネットプラットフォームが圧倒的な力を持つようになっており、その辺りが外資企業のサービス産業にどの様な影響を及ぼすのか注目しています。」

在中日系企業の差し迫った課題について、「なんといっても米中の貿易摩擦です。」佐藤支局長はため息混じりに答えた。「幸いにしてこの問題が直接に日系企業へ与える影響は、今のところ大きくはないようですが、中国経済の減速による間接的な影響が懸念されます。また製造業の場合、中国にどの様な技術を持ち込んで良いのか判断が難しくなっており、新たな投資については、しばらく様子見するほかありません。」

日系企業の現地化の進展にともない新たな課題も生じている。「現地でビジネスを展開するには、人脈があり経験の豊富な現地の人材に経営を任せる必要があります。しかし任せっきりになるとコンプライアンス上のリスクが生じます。」在中日系企業にとって、現地化と管理のバランスをどう取るのか、難しい判断を迫られている。


 

◆◆◆ 日中関係の正常化には、両国のより一層の努力が必要 ◆◆◆

改革開放以来、「1972年に日中国交正常化が実現し、80年代にかけて日中関係はピークを迎え、90年代からは政冷経熱の時代が続きました。ところが08年頃を境に関係が大きく変わり始め、12年を境に経済まで冷え込むようになり、日中関係は厳しい時代を経験しました。」昨年、日中両国の首脳会談が実現し、正常化への期待を尋ねると、「最近の日中関係は安定し、改善が見られるものの、最も日中関係が良かった時期には及びません。」佐藤支局長は、日中関係の完全な正常化には、両国のより一層の努力が必要であると考えている。


インタビューの最後に、今後の中国ビジネスの展望について佐藤支局長に聞いた。「中国の経済発展にともない、医療や教育などのサービス産業に期待できると思います。また、人件費などのコストが上昇しているとはいえ、中国で自由に経営販売できる環境が整備されれば、ふたたび日本の製造業にとって魅力ある国になると思います。しかし近年、中国企業も実力をつけており、既に日系企業の手強い競争相手になっています。中国でビジネスを展開しつつ、自分たちの技術をどう守るかが課題となるでしょう。」

【中智からの感想】

インタビューを終え、「素直、素朴、素早く」という印象を受けました。今回、中智企業倶楽部では初めてマスメディアへのインタビューを行い、普段あまり知る機会のない通信社の仕事について理解を深めることができました。佐藤支局長へのインタビューでは、経営者の方々とは異なる記者の視点から、在中日系企業のチャンスと課題について冷静なご意見を聞かせていただき、大変参考になりました。佐藤支局長には、今後とも日中ビジネスの情報について会員企業の皆様と共有していただくようお願いします。


 

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