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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第3回

『仲外製薬諮詢(上海)有限公司 齋藤総経理にインタビュー!』

取材日:2013年2月21日


仲外製薬諮詢(上海)有限公司
総経理 齋藤 明氏

((弊社インタビュアー)(以下弊社)

 本日はお忙しいところ、弊社メールマガジン掲載の人物インタビューを快くお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。

 中外製薬様は1925(大正14)年3月10日に故上野十蔵氏によって中外新薬商会として創立されて以来、現在まで医療用医薬品の製造・販売・輸出入の分野で日本のリーディングカンパニーとしての地位を築かれ、日本の医薬品業界の中でゆるぎない地歩を固めていらっしゃいます。現在はがん、腎、骨・関節の領域に注力されており、この分野において国内トップクラスの売上高を達成されています。また、中国へのご進出後は優れた日本の医薬品の普及促進に努められております。 本日は仲外製薬諮詢(上海)有限公司齋藤総経理に中国での人材管理や中国でのエピソード等をインタビューさせていただきたいと思っております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 

(弊社)

  まず、素朴な質問をさせていただきたいと思います。中外製薬様は日本では中国の「中」を使っていらっしゃいますが、中国では仲良しの「仲」を用い、仲外製薬諮詢(上海)有限公司と法人登記していらっしゃいますが、この違いは何故でしょうか?

 

(齋藤総経理)

 中国には1995年2月に進出しております。それから約20年間で事務所から始まりいろいろな変遷を経て、2005年からは現在の諮詢(コンサルタント)という業態で営業をしております。その際、登記する時になぜかわからないのですけど、中外では登記がとれなかったのです。その正式な理由というのははっきりわかりませんが中国の中国と外資の外とで混同をさけるという意味でしょうか。 ただ、私にとっては入社以来今まで「中外」の社名に慣れ親しんでいましたので、「仲外」の社名には多少違和感もありますね。

 

(弊社)

 齋藤総経理と中国との出会いを教えてください。

 

(齋藤総経理)

 中国との出会いは2008年です。当時は本社の海外部門で韓国、台湾、東南アジアの担当をしていましたが、中国でのカンパニーシンポジウムに欧州の医者をスピーカーとして招聘するため、その時のアテンドとして訪中したのが初めての大陸上陸です。その時は本当に中国についてはド素人でした。 実は私は台湾に駐在したいと思い転勤希望を長年出していました。それまで本社での海外事業(アジア)担当を約8年担当し、その間語学はもちろん契約、薬事、マーケティング、 財務、法務、交渉など海外ビジネスに必要なスキル・ノウハウを広く勉強をし、もともとのMR時代の営業経験と合わせ、海外勤務の準備をしていました。でもなかなか駐在のチャンスは来ません。ですので、そろそろアジアの現場に行けないのであれば、本社の別の部署に転勤をして新しいキャリアを積みたいとも考えており、2010年2月の上司との正式面談でその旨話しをしました。そうしたらその時上司から、「そうか!ちょうど会社も同じことを考えていて今日内示しようと思っていた。来月から中国に行ってください。」とのことでした。中国赴任などはまったく想像もしていなかったので、本当にびっくりでした。まさにゴルフにおける隣のグリーンにナイスオン!!っていう感じですね。(笑)                    

 

(弊社)

 上海への赴任後の状況はいかがでしたか。

 

(齋藤総経理)

 私に与えられたミッションは会社の根本的構造改革を行い、将来の新製品のための基盤作りです。私はある方の考えに共鳴しているのですが、彼のフィロソフィーからは「男が新しく何かを立ち上げる時は自分自身のフィロソフィーを浸透させて、その考え方を実際に自分で実践していくことが最も重要なこと」という男の生き様を教えていただきました。私自身も彼のその考え方にとても共鳴しており、今の職場でも実践しています。

 そこで、職場では自分のフィロソフィー「まずはどんなポジションの人でも自分の仕事については自分で思考すること」を部下に伝えました。しかし、最初は円滑には進みませんでした。なぜならそれまでの弊社はほとんどの事は日本人駐在員が決め、あとはそれを中国人に実施するよう指示をしていたので、当時の中国人社員にとっては、何も考える必要もないし、言われたことをやっていれば良いわけでした。 赴任当初は私も着任したばかりなので、わからないことも多々ありました。このため、現地での勤務経験が私より長い中国人幹部が業務案件起案の決済や業務報告などに来た際に、その案件の背景説明に加え、今後どのように進めたいかと質問しつづけました。また若いスタッフが上司に言われて検印をもらいに来る際も、私は何の資料か判っていても、「これは何のための資料か説明してくれる?」との調子で、彼らに質問攻めの毎日でした。すると彼らの説明はほとんどが「それは駐在員の方が考えることです。中国では全部こうなのです。」「上司にいわれたから持ってきました。」の調子でした。(いま思えば私はとっても面倒くさい日本人でしたね)

 正直、私は彼らのこの説明には非常に驚きました。赴任当初は一時が万事このような調子でしたので、まず、彼らには自分自身の業務進捗状況と今後のプランを自分自身で考え、実施するという考え方に改めてもらうことから始めなければならない状況でした。日本と比較すると中国ではまず自分自身で考えて行動していくという、クリエティブ性が必要とされる業務領域では個人レベルでの能力は日本と比較するとかなり不足していると感じることもあります。と同時に他の領域でも日本ではあたりまえのことが、中国ではそうではないこともある。これは彼ら中国人にとっても当然逆も真なりのこともあるのではとは思いますが・・・(笑)。しかし、私はここで働く職員全員に対し、私の求める資質を要求しつづけました。その資質とは業務起案者がまず自ら業務方針を思考し、業務進捗の管理状況を上司に報告したうえで、今後担当としてどのように進めるか、どうしたいのかを必ず提案をする事です。その上で組織の意思として最終的には私が方針を決定し、又責任を持つやり方で会社を運営していくという組織のあり方に、すなわち、私のフィロソフィー、私自身のこの新しい考え方で組織運営をしていくように社員に徹底、浸透させていきました。

 社員に今でも話していますが、外国人でしかも中国に2-3年しかいない私より、中国人の皆さんの思考の方が絶対に勝るはずです。ですから「考えるのは中国人の皆さん、私はその考えに対し、中国に業をなす日系企業としてのガバナンスを効かせた判断を行い、責任を取ることが私の役目である」と話しています。 これは私にとってのキーなのです。

 

(弊社)

 その後、中国人部下の仕事へのアプローチの仕方に変化はありましたか。

 

(齋藤総経理)

 はい。すごい反応がありました。多くの方が会社を辞めました。つまり部下の中には私の要求する「自ら思考すること」のテーゼに共鳴できない方は次々と転職してったわけです。一方で人材補充のための募集の際には弊社の社風と私のフィロソフィーに共鳴できる人材も求めていきますので、現在は率先して自ら考え、行動できる人が増えています。また、これからも弊社ではそのような人材を募集していきます。 実は上海本店(本社)を例にとっても私が総経理になってから1年目の離職率は何と100%です。これは信じられない数字ですよね。でもこれは会社にも離職した人たちにとっても結果的にお互いWIN-WINであったと私は思っています。 その抜けた人たちの後は、私の考えと同じメンバーがどんどん集まってきたわけです。ちなみに社員は100%入れ替わりましたが会社の雰囲気や営業成果は面白いほどに良くなってきました。この中国でのビジネス実経験は将来本にしたいと思っています(笑)

 

(弊社)

  日本と中国の常識感は相違するところがありますので、たいへんご苦労されたのですね。

 

(齋藤総経理)

  赴任後、中国の常識は世界の非常識、中国の非常識は世界の常識という側面はあるのかなと実感として感じるところは多々ありました。でも私はそれを苦労と思ったことは一回もなく、むしろその違いで多くのことも学べましたし、この環境変化も楽しんでいます。弊社では社員50名中、日本人は私を含めて2名だけです。赴任当初は「自ら考えること」ができる職員が少ない状況でしたので、その状況を好転させるまでに多くのエネルギーを注ぐことになりました。でもその後は私のテーゼを理解して、自ら考えて、行動できる部下が会社の屋台骨を支えてくれるような体制に変っていきましたので、時間をかけたぶん、私のフィロソフィーが今定着してきたと感じています。本当に楽しい仕事をさせていただいています。

 

(弊社)

 貴社は社員の現地化がかなり進捗していらっしゃいますね。

 

(齋藤総経理)

  ええ、先日、IT関連企業の方が弊社を訪問された際にも弊社の現地化の進捗について驚かれていました。社内では私のテーゼを理解でき、「自ら考えて、行動すること」に共感できる部下を信じて仕事を依頼します。最近日本ではある評論家が尖閣問題の特集番組のなかで「中国人には2種類の人がいる、1つは悪い人、もう1つはすごく悪い人」とのばかげたことを言う人もいるように、国中で嫌中感が漂い中国人を信じない人が多いと思います。でも私はそうは思いません。中国人も日本人も同じであり、悪いことをする奴は日本にもたくさんいます。私は「人間は信じられたら悪いことはできない」ものと思います。ですから信じた社員には任せた以上、私は彼、彼女を信じぬきます。そのうえで何か問題があったら、それは私の人を見る目が無かったことと思いますし、会社で降格になろうが減俸になろうが死ぬわけではないのですから。つまり現地化をするという事は自分の腹をくくるという事だと思います。 そして私がそう考えていることは日々の言動や行動で私の仲間たちは感じているはずです。ですから私も彼らを信じますし、彼らからも私を信じてくれる関係が出来ているのです。そういった彼らのモチベーションは非常に高いので彼らに仕事を任せることができるようになり、現地化が促進しているのかなと思います。 董事長や本社の海外責任者の部長などが私を信じ任せてくれている、そのことに私は非常に感謝しており、自分が良いと思えたことを今度は私が中国人の仲間に対し実践しているだけなのです。そしてそのような考えは自然と人から人へ伝播し、同じような考えの仲間が増え、結果として強い組織が作れるものだと思い、今の会社で実体験をしている事で私の人事マネージメントの重量なポイントであると確信になっています。

 

(弊社)

 社員のモチベーション向上のためにどのような取組をされていますか。

 

(齋藤総経理)

  はい、私は自分の子供にもそのようにしてきましたが、「褒めて育てる」を信念にしています。ですから事あるごとに成果が出れば「ありがとう」「すごいね」「お祝いに行こうよ!」「君ならやってくれると思ってたよ!」など、出来る限り直接その人の席にいって言葉として伝えます。(でも私が怒る時は自分でも思いますがものすごいです。社員は総経理を怒らすと鬼になると言っているようです。)

  中外製薬には『Chugai Award(社長賞)』という社内の表彰制度がありまして、赴任当時から私はこれがどうしても欲しかったのです。なぜなら弊社が立派な組織として社内外のステークホルダーから認めてもらう為の確固たる証明になるからです。それで手前味噌で恐縮ですが、今回2012年までの3年間の成果に対し、「Chugai Award 2012」を弊社が受賞することになりました。褒められたら人はうれしいですよね。その結果、全社員のモチベーションも更に上がり、今ではみんなの発言から今後もさらなる活躍をしてくれると感じられるようになりました。これからも社内がこのような好循環のサイクルがループするための運営や環境造りをしていくことが私の責務ですね。

 

(弊社)

  それでは最後に齋藤総経理の仕事上の信念、今後のビジョンがございましたら教えてください。

 

(齋藤総経理)

  中国に来てから私が部下に常々伝えている言葉は何事も、「Vision! Mission!! Passion!!!」と言い続けています。仕事においてもプライベートにおいても、何事においても夢や目標を定め(Vision)、そうすれば何をしなければならないかがわかってくる(Mission)、次はそれを情熱で実行すればいい(Passion)というものです。今ではそれが私の仲間たちに根付いてきています。また、ここにいる限り、できるだけ中国人と日本人の溝を無くしていきたいと思っています。これは現在の海外事業責任者の部長に教わり今は私も共鳴をしているのですが、人間はお互いに信頼してリスペクトすることが大切ですよね。組織にはどうしてもそりが合わない人もいるし、時には衝突するときもあります。でもそれはその人が好きとか嫌いとか、良い悪いではなくそれぞれの個性であると思うようにする。私もかなり強烈な個性があるわけですから。。。(笑) お互い、その違いを尊重しながら、各自が持っている能力を高めて、弊社で働く仲間の意識を同じ方向へとベクトルをあわせることが大切ですし、また、そのような社内で意識統一のされた会社にしたいと思っています。

  また、最近では、この実現に向けてゼネラル・マネジャー・ダイアログというものを実施してみました。これは弊社の全従業員約50名と私が1時間程マンツーマン面談するものです。(すべての面談を終わるのに3か月かかりました。)このゼネラル・マネジャー・ダイアログの内容は私と部下二人だけで面談を行い、氏名は私以外には口外しません。もちろん董事長にも個人名は出しません。その面談の際に私は1時間何も私のほうから提案することをしません。では、何をするのかというと、その代わり従業員は1時間私に何でも話すことができます。夢、やりたい事、提案、不満等、悩み何でもOKです。ただし、僕の悪口だけは董事浮ノ言ってくださいと言っています(一同笑)。この中で、実際に面談の際は職員が普段業務中には話さないことまで相談してくれましたので、彼らの実情をよく把握することができました。そしてすべての意見に対して意見をグルーピングして、その対応状況を全従業員にフィードバックします。個人的なことはその個人にフィードバックします。その時重要なことは、私がやれることは出来るだけ対応をする。でも今すぐ出来ないことは正直にその理由を話します。そうすればほとんどみんな理解してくれます。先日は女性社員でしたが、彼女の相談案件がハードルの高いものでしたが、何とか解決の筋道が立ったので彼女とのダイアログ2か月後に中間報告をしました。そうしたら「総経理は本当に取り組んでくれていたのですね。とっても嬉しいです!」と涙を流しながら喜んでくれた人もいます。つまりこのような日々の対話やコミュニケーションがお互いの信頼を更に深めることに繋がり、より一層社内の風通しが良くなると思います。そこには中国人、日本人などの国籍や上司、部下などの上下関係は関係ない、同じ人間同士の繋がりなのです。

  そして、いつの日か私の総経理ポジションは私の大切な中国人の仲間に座ってもらいたいと思っています。私の個人的な考えは、董事長はお目付け役として日本人が良いと思うが、執行責任者の総経理はやはり現地の方が良いと思っています。今から彼らの誰かに引き継ぎを出来る日を楽しみにしています。 また(残念なことではありますが、)将来はこのような信頼できる職員の中から、別の会社からヘッドハンティングされるような優秀な人材が出てくれるようになるまで彼らが成長していってくれることを願っています。

 

(弊社)

  すばらしいですね。そのようになることをお祈りいたします。また、その際は是非弊社ではヘッドハンティングサービスもございますので、優秀な人材をヘッドハンティングさせていただきます!!!

 

(齋藤総経理)

  さすがですね。中智さん、色々なサービスがおありになる。ですが、そうしますと弊社では人材が枯渇してしまいますので困りますね。中智さん、お手柔らかにお願いします。 (齋藤さん汗)(一同笑)

 

(弊社)

  本日は貴重なお話をお伺いすることができ、たいへん有意義でした。仲外製薬諮詢(上海)有限公司様の益々のご発展を心からお祈りしております。 本日はありがとうございました。