ホーム > HRニュース > 中国HRニュース> 【判例】学生が実習中に受けた障害の責任は誰が負うのか?また、その損害賠償の基準は?(2016年7月20日)

【判例】学生が実習中に受けた障害の責任は誰が負うのか?また、その損害賠償の基準は?(2016年7月20日)

案例:

李氏は四川省平昌県の農民籍の学生であり、2011年、上海市にあるG中等職業学校で金型を学ぶ学生であった。2013年7月8日、李氏とG学校、上海にあるR機械有限公司は三方による「学生実習協議書」を締結し、李氏がR機械公司で1年間の実習を行うことを約定した。その内容は、一、R機械公司は李氏へ毎月1800—2000元の実習手当てを支払い、毎週の実習時間は国家規定に基づき40時間以下とし、規定時間を過ぎた残業及び業務上の必要による遅番や夜勤、特殊な業務に就いた場合はR機械公司の従業員と同じ待遇とすること。一、R機械公司は実習生の就業前に企業文化や業務目的、専門技能、操作方法、安全衛生、労働紀律などを予め教育し、国家労働保護法規に基づいた、人身に危害が及ばず青少年の心身の健康に影響を及ぼさない相応の部署及び職位で業務に従事させ、専門の講師をつけて指導教育を行うこと。一、労災事故が発生しやすい職位について、R機械公司は実習生の実習前安全衛生教育の他に、相応の労働保護措置を採ること、等となっていた。

 2013年11月2日午前11時過ぎ、李氏はR機械公司で時間外労働中エッジングマシンを操作している際、電源をつけたまま金型を交換してしまい、右手の人差し指から小指を切断する事故を負った。李氏はすぐに病院へ搬送され手術後即入院し、退院後も何度も病院へ通院することとなった。この期間、R機械公司は李氏へ医療費等の費用78738.5l元を立て替えた。

 三方とも損害賠償に関する取り決めをしていなかった為、李氏は法院へ提訴し、R機械公司、G学校に対し、R機械公司が既に支払われた費用の他に損害賠償金として計226144 元を共同で支払うよう求めた。

R機械公司は、李氏の求める損害賠償額が高すぎるとした上で、李氏が怪我を負った直接の原因は李氏の操作ミスであり、金型交換時に電源を切らなかった李氏自身の過失であるとし、李氏は農民籍であるから、農民籍の基準に従って障害に対する損害賠償金を算定すべきであるとした。その上で、この金額を元に、過失責任に応じて損害賠償を按分すべきだ主張した。

 G学校は、李氏は実習期間R機械公司に使用されており、学校側に事故に対する過失は無いが、裁判を受け入れると述べた。

 審議において法院は、李氏の右手部の傷害を道路交通事故九級傷害に当たると認定し、休日、通院日、休養日等の関連意見を出した。

 審理において李氏は、実習前G学校は李氏へ安全教育教育訓練を施しており、またR機械公司も李氏へ業務前訓練を行い、業務時には保護手袋を支給していたと述べた。李氏は2013年8月からエッジングマシンの操作を始めた。事件が発生する前の日の金曜日、李氏は遅番であったが、R機械公司では土曜日に残業しなければならないと規定されていたため、李氏は連続して土曜日の早番に出ようとした。しかし元々の指導官は残業しなかったため、李氏は自身でエッジングマシンを操作しはじめた。現場には他の班長もおり、李氏を指導できる状態であった。金型は本来班長が交換することになっていたが、李氏はトイレに行ったあと急いで金型交換業務に戻り、自分で金型を交換した後班長にやり方を教わろうとして、結果金型交換中に誤って電源を入れてしまい、李氏は金型によって手の指を切断してしまった。普段指導官が金型を交換するときは電源を切って交換していた。また、李氏は自分だけで機械を操作できるとは思っていなかった。R機械公司は、李氏は怪我をした時、彼自身でも操作できる簡単な業務を行っており、かつ他の班長も指導官と同じように指導していた、と主張している。

争点: 

学生の実習期間に負った傷害について誰が責任を負うのか?また損害賠償の基準は?

判决: 

一審は、R機械公司は実習単位として、実習生の労働用具の提供や業務内容の指揮命令を行うものであるから、実習生の日常管理や保護について責任を負い、必要な安全保障を尽くす義務を有する。R機械公司の工業設備には一定の危険性があり、実習期間中李氏へ機械の操作を求めたにも関わらず指導官を傍らに置かず指導をしなかった点で、R機械公司李氏の障害に対する過失が認められる。李氏は民事行為能力を有する成人であり、専門知識の学習を通じて設備操作の危険性についてある程度認知していた。李氏は、実習生として労働に従事する際に慎重さを保つ必要があったが、指導官の同伴が無い状態で自分の力で金型を交換しようとし、正確な操作手順を守らず、注意義務を怠った点で、この損害に対し一定の過失を有する。現時点で提出されている証拠では、G学校の本件における過失を証明するには不足しているので、李氏のG学校への損害賠償請求は認めがたい。一審は、李氏の傷害による経済的損失についてR機械公司が80%、李氏が20%分の責任を負うと認めるとし、R機械公司へ李氏に対し70529.90 元の損害賠償金を支払うことを命じたものの、李氏のその他の訴えを退ける判決を言い渡した

二審では、本案件においては李氏が中等職業学校の在校生として、G学校、R機械公司との間で「学生実習協議書」を締結した後R機械公司で実習しているが、この法律関係における三方当事者は協議による約定の他に、中等職業学校学生実習に関する関連法規を遵守しなければならない。「中等職業学校学生実習管理方法」「教育部弁公庁発企業の技術者欠如対策における中等職業学校学生実習業務に関する通知」では、いずれも学校及び企業が「就業実習において、一日8時間を超えて学生を使用してはならない。また、学生に時間外労働をさせてはならない」と規定されている。しかしながら本案件において、三方当事者の供述から、事故発生当日の土曜日に李氏は確かに時間外労働をしており、しかもこの時指導官は同席していなかった。この、李氏が時間外労働中に危険設備の操作により受けた傷害について、三方は以下のように責任を負うものとする。

まず、R機械公司は李氏の実習期間の直接的な管理者であり、李氏がどのように実習に従事するかを指揮命令し、業務プロセスの実施を監督管理する立場にあった。李氏は実習生ではあるが、その労働は客観的に見てR機械公司へ経済的利益をもたらすものであるから、李氏も当然労働者として依然保護を受ける権利を有する。また、李氏の今回の傷害は通常の労働におけるリスクの範囲内であった。ゆえに、R機械公司と李氏の指揮命令関係、労働が生み出した経済的利益の帰属、R機械公司の負うべき労働者保護及び労働リスクの抑制と防止の義務を総合的に鑑みて、R機械公司は本案件で李氏が負った損害に対し主たる賠償責任を負う。

次に、G学校は李氏の実習期間中の間接的管理者として、李氏の業務を直接的に管理することはできなくとも、職業教育機関として学生が参加する業務実習の内容や危険性について明確にすべきであり、また学生の安全教育や企業との協議により、リスクを防止しコントロールすることができた。しかしながらG学校は、実習生が時間外労働をすることができない事を明白に規定されている状況下にあって、学生への安全教育や企業側との明確な約定などによって防災に努めなければならないにも関わらず、実際には実習生に時間外労働をさせている事実が存在するから、G学校はその職責を果たしていないと言える。G学校が李氏のR機械公司での具体的な業務を直接的に管理できない事を考慮すると、G学校は李氏の受けた損害について責任を負わなければならない。

最後に、李氏は実習生として技能を学ぶ段階にあり、労働報酬もR機械公司の一般従業員と区別しなければならない。ゆえに、李氏へ業務過程における注意義務を求めるのは厳しすぎる。李氏が事件発生当日、指導官が時間外労働に同伴しない状態で行った操作をもって重大な過失とすることはできず、R機械公司、G学校の負う危険防止義務と比較すると、李氏の一般的過失はR機械公司及びG学校の負うべき責任と相殺できないものであると言える。ゆえに、二審では現判決のうちR機械公司の李氏の損害に対する80%の損害賠償責任については維持するが、残り20%の損害賠償責任はG学校が負担するものとし、原判決の李氏に対する自己責任論は不当なものであるから、破棄自判とする。二審は以上のように述べ、一、原判決を破棄する 二、R機械公司は李氏へ傷害に対する損害賠償金148387.50 元を支払え 三、G学校は李氏へ傷害に対する損害賠償金56781.50 元を支払え との判決を言い渡した。

分析: 

本案件は以下の三点において、法適用に関する規範的意義を有している。

一. 実習生の実習中における過失に対し、誰が責任を負うのか?

もし似たような案件が使用者と労働者の間に発生したときは、労働者は使用者に対し労災申請を求めることができる。しかし本案件は実習生が実習中に起こした事故であり、実習生は学校に所属する学生であって使用者との間に労働関係が無い。実習期間中に起こった事故については、「工傷保険条例」第16条に、労働者の故意または違法行為により業務中傷害を負ったものについてのみ、労災を認めないとしている。このことから、 労災保険損害賠償には無過失責任の原則が適用されており、労働者が業務中傷害を負った場合、法の定める場合を除いて、労働者自身に過失があろうとも、使用者は労災賠償の責任を免れ得ないのである。これは現代工業社会において労働者階級が享受できる重要な権利であり、原則である。無過失責任と労災保険制度はリンクしており、すなわち使用者の労災保険費納付は労災保険基金を形作り、使用者の労働者に対する損害賠償コストを分散、抑制するのである。実習生と実習単位には労働法に当たらない労働関係が存在しているが、実習の段階にあっては、実習生は実習単位の組織的管理を受入れ、各規定制度を遵守しなければならず、民法上の雇用関係を公正すると言える。最高法院「人身損害賠償案件審理への法適用に関する若干問題の解釈」第十一条には、「雇用者が雇用活動に従事する間に受けた損害について、雇主はその損害賠償の責を負う……」とあり、この文言から見て雇用主の責任には過失責任の要件が設定されていないが、司法判断の規定から、雇主は雇用者の活動中における損害について、無過失責任を負うことが見て取れる。ゆえにこの雇用関係、実習生の実習中に起こした人身障害の賠償は、無過失責任を適用するのが原則であるといえよう。

当然、実習生の傷害に関する無過失責任と労災補償責任は明確に区別されるべきものである。なぜなら正式に労働関係を結んだ労働者に対してならば、実習単位は労災保険費用を納付する義務があり、今回労災事故が起こったときでも労災によって損害を補填できたはずである。しかし法的義務の無い実習生に対し労災保険金を納付していない場合、実習生の傷害に対する賠償においても労災基金から贖う事ができなくなるため、ゆえに実習生の傷害への責任は労災補償と完全に一致する訳ではないのである。司法実務においては、もし実習生自身に重大な過失がある場合は、実習単位側の損害賠償責任を軽減することができる。しかし実習生の過失が一般的なものであるならば、実習単位側の賠償責任は軽減されない。また、実習は往々にして三方間の関係となるが、学生の所属する学校が学生を実習に派遣する課程において過失がある場合は、実習単位の損害賠償責任を分担させることもできる。

本案件における李氏の操作ミスは一般的な過失であるから、これをもってR機械公司の責任を軽減させることはできず、増して李氏本人に責任の一部を負わせることはできない。当然、本案件におけるG学校にも過失があるため、二審はR機械公司へ損害場賞金の80%、G学校へ20%の支払を認めたのである。

二、学校側は実習単位への督促義務を怠った事により、実習生の傷害に対する責任を負わなくてはならないか?

実習期間中の実習生は依然学校に属する学生であり、ゆえに学校側は実習生に対し管理義務を負い、実習単位へ丸投げすることは許されない。特に実習生の業務内容に危険性がある場合、学校側は学生への安全教育や専門的技術の訓練だけでなく、実習単位と積極的に業務について調整すべきである。例えば事前に実習単位と具体的な実習生の労働安全保護の条件を約定し、実習生へ違法に時間外労働をさせない、等である。実習中、学校側は事業単位をまめに訪れるようにし、もし事業単位に違法行為や実習生の利益を侵害するような事があった場合、または実習生が危険な業務についていた場合は、事業単位の不適当な行為を質し、業務内容を保護または調整した上で、必要な場合は事業単位との実習協議を解除しなければならない。もし学校側が上述の義務を果たさず、学生へ実習中に傷害を負わせた場合は、学校側も相応の責任を負うこととなる。

本案件では、当事者の話から、李氏は頻繁に時間外労働をしており、事件発生当時も連続で時間外労働に従事している最中であった。判決では「中等職業学校学生実習管理方法」「教育部弁公庁発企業の技術者欠如対策における中等職業学校学生実習業務に関する通知」の規定にも触れているが、学校側及び企業は「就業実習において、一日8時間を超えて学生を使用してはならない。また、学生に時間外労働をさせてはならない」のである。いくらこの規定の等級が低く、裁判における直接的な法的根拠となり得ないにしても、法院が学校側に過失があったか否かを判断する依拠にはなる。しかも、教育部による上述規定は、実習単位は知らなくとも、学校側は了解しておかなければならないものであるから、実習単位との約定の差異に告知しておくべきものである。本案件において、学校側は李氏が実習期間中頻繁に時間外労働をしていたことについて、実習単位へ督促や抑制を促す行為を行ったことを証明できなかったため、法院は李氏の傷害についての学校側の過失を認め、損害賠償額の20%を支払うよう命じたのである。

三、上海市の小中学校で学んだ外地の学生が受けた傷害については、上海市民と同じ基準が用いられるのか?

本案件の被害者である李氏の本籍は確かに四川省平昌県の農民戸籍であるけれども、本人は上海市内のG学校へ通学しており、この学校は上海市の中東職業学校である。上海市人大常委会発「上海市中小学校学生傷害事故処理处理条例」の規定において、中等職業学校は「小中学校(※注:中国では高校も中等学校に含む)」に属し、同条例第二条には「本市行政区域内の小中学校における教育活動中に発生した小中学生の傷害及び死亡事故の処理については、本条例を適用する」とある。また、学校が実習生を按配する学生実習も教育活動に含まれるため、学生が実習中に受けた傷害については、本条例が適用されることとなる。また、同条例第二十条第3項には傷害事故によって学生に障害が残った場合には、いわゆる「障害賠償金」の基準に従って損害賠償を行うとある。傷害を受けた学生の障害等級に則り、同市の昨年度の居住住民可処分所得を基準として、障害認定日から起算して20年分を算定する。この規定には例外規定が無い。このことから、同条例の規定によれば、上海市内で通学する学生は、農村戸籍か都市戸籍か、または上海戸籍か外地戸籍かに関わらず、教育活動中に発生した傷害によって障害が残った場合は、等しく上海市の昨年度の居住住民可処分所得を基準として障害による損害賠償金を算定することとなる。

農村戸籍者の、都市で発生した人身傷害による傷害に対する損害賠償金基準に関する問題について、最高法院はこれに関連する答申を出している。「最高人民法院民一庭都市に居住する農民戸籍者の交通事故による傷害及び死亡への損害賠償金算定に関する復函」では、「人身損害賠償案件における、傷害賠償金、死亡補償金及び扶養家族の生活費の算定については、死亡者の実際の被害状況や被害者の住居地、実際の居住地などの要素を鑑み、居住住民可処分所得の平均(消費支出額の平均)又は農民籍住民の純収入(生活消費支出の平均)を基準とする」とされている。本案件において、被害者である李氏は農民籍ではあるけれども、都市に居住しており、都市に常駐し又は収入を得ているため、今回の案件に関する損害賠償額は、都市住民の基準をもって算定されることとなる。