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【判例】十年前の学歴詐称を理由とした解雇は合法とされるか?(2017年2月28日)

案例:

甘氏は2004年にとある貿易会社へ入社して以降、同社で営業販売業務に従事してきたが、2015年8月5日、会社側は甘氏が入社時に学歴を偽ったことを理由として、甘氏との労働契約を解除した。

 甘氏はその後仲裁を申し立て、会社側へ労働契約解除に対する経済的補償金の支払いを求めたが、仲裁庭がこれを棄却したため、甘氏は人民法院へ提訴した。

争点: 

十年前の学歴詐称を理由とした解雇は合法か?

判決: 

甘氏は入社時に記載した「人事登記表」に、1992年7月から1995年7月まで重慶市内のZ電算学校に在籍、卒業し、最終学歴は大専であると記載した。甘氏は業務に従事する間、数多くの賞を獲得し昇進してきた。2012年4月19日、会社側は甘氏と期間の定めのない労働契約を締結した。契約によれば、甘氏の職位は営業販売で、変形労働時間制を採用していた。しかし会社側は、甘氏が学歴、年齢、重要な職歴を偽って入社し、また労働契約と直接関連する虚偽の基本的情報(通知書、証明書、資料などの文書)を提供したことが重大な規律違反に該当するとして、2015年8月5日に甘氏を即日解雇し、何ら経済的補償金を支払わなかった。

法院は審理の結果、甘氏のやり方は信義則に反するとして、会社側は労働契約解除に当たり経済的補償金を支払う必要が無いとの判断を下した。

分析: 

我が国の教育水準が高まるにつれ、使用単位は従業員を雇う際により学歴を重視するようになっている。大多数の使用単位では従業員が就業規則及び労働契約に署名する際、従業員が学歴を偽ることは重大な規律違反に該当し、使用单位は一方的に労働契約を解除し経済補償金の支払い義務も負わないと約定している。しかし、本案件の学歴詐称が労働契約解除の要件になるか否かは、具体的に次のような点を検討しなければならない。

1.会社側は入社時に調査義務を果たしたか? 

「中華人民共和国労働契約法」第八条には、使用者が労働者を募集・採用する場合は、労働者に対し事実のとおりに業務内容、 勤務条件、勤務場所、職業的危険、安全生産の状況、労働報酬及び労働者が知ることを要求するその他の状況を告知しなければならない。使用者は労働者の労働契約に直接関係す る基本的状況について知る権利を有し、労働者は事実のとおりに説明しなければならない、とある。

法院が本案件を審議する過程で、甘氏が2004年に入社した際「人事登記表」を記載し、その後社内での仕事に従事し始めたことがわかっている。このとき会社側は、使用者として甘氏の学歴職歴などの信ぴょう性について適時確認する義務を負う。同社は2015年に甘氏との労働契約を解除する段になって初めて、甘氏の学歴が虚偽であった証拠である「中国高等教育学歴証書調査結果通知」を提示し、これを元に労働契約を解除したのである。

我々はこれを、会社側が履歴を調査する権利を怠ったものであり、会社側に過失があると見ている。厳密に言うと、会社側は権利を行使しなかったことによる不利な結果について責任を負うべきである。

2.従業員の労働契約の履行状況を考慮したか?

労働者が既に使用単位へ入社し、自身のパフォーマンスにより使用単位より大いに認められ、使用単位へ大きな利益をもたらしている時に、学歴詐称が「ダモクレスの剣」となるか否かは、大いに議論に値するポイントである。

この問題は、一つの観点からすると労働者が使用者の求めるに足るパフォーマンスを発揮し、学歴のハンデを補ってあまりある反面、労働者の不誠実な行為を受け入れがたいのは事実である。労働契約の締結においては誠実信用の原則を順守しなければならず、もし不誠実な行為があれば、それは社会に不信感をもたらすものとなる。我々は、労働者が入社時に提示した学歴に瑕疵があったものの、使用者の求めるに足る能力を発揮し、使用者へ利益をもたらしているときは、労働契約を締結した基本的な目的は達成されたとして、折衷とすべきであると考える。もし使用者へ際限なく解雇権を与え、労働者のパフォーマンスや折衷案を考えないとなると、これは使用者の権利濫用をもたらす可能性を生じさせかねない。

本案件において、甘氏は確かに学歴を偽ったけれども、甘氏の契約履行状況を見るに、業務のパフォーマンスは素晴らしく、また社内で多くの賞を受け昇進している。また、甘氏の従事する営業販売職は、一般的に従業員の経歴を重視するものであるから、甘氏は入社時「人事登記カード」にも経歴を記載して入社したものである。以上のことから、甘氏の職責能力が既に会社側に認められている段階で、十年以上前の学歴詐称を理由として解雇するのは、甘氏に対して不公平であると言わざるを得ない。

まとめると、労働者との契約締結過程において、使用者は労働者の個人的資料の真実性を確認する権利を有するが、この権利には義務も伴っている。使用者はその権利行使を怠ったのならば、注意義務を怠った責任を負うべきである。学歴詐称を理由とする解雇の合法性を考えるときは、労働者の職能や業務パフォーマンスも考慮しなければならない。学歴詐称による解雇案件に対する判決も、各法院によってまちまちであり、意見が分かれている。我々は、使用者側へ、労働者が入社する際には労働契約の履行に関する各情報をしっかり調査することを提起したい。そうすれば、このように不必要な厄介事が起こることを防ぐことができる。