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【判例】「偽りの病気休暇」取得を防ぐために、会社側が労働者の受診先を指定することはできるか?(2018年7月3日)

案例:

馬女士は上海市内にある某貿易会社の財務総監として勤務しており、月給は20000元であった。

馬女士は2018年1月より、腰椎間盤ヘルニアにより通院を始めた。以降、会社側は傷病証明書をもとに、馬女士へ毎月病気休暇による賃金を支払っていた。

2018年の春節明け、馬女士は会社から送られてきた再検査に関する通知を受け取った。その内容は、30日以内に会社側の指定する三級甲等医院で再検査を受けること、受けない場合は2018年4月より病気休暇分の賃金支払いを停止する、というものであった。しかし馬女士はこの通知を何ら気にせず、現在通院している病院で治療を続けたため、会社側はついに病気休暇分の賃金支払いを打ち切ってしまった。

馬女士はこれに対して異議を唱え、労働人事葬儀仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ2018年4月の病気休暇分の賃金を支払うよう求めた。仲裁委員会はこの申し立てを受理した。

審議において、馬女士は「どの医療機関を選択するかは患者の自由であり、規定制度に則り休暇手続きを取っているのだから、会社側は病気休暇分の賃金を支払うべきである」と主張した。

これに対して会社側は、「就業規則では、会社側は労働者へ指定する病院で診療を受けるよう求めることができる、とある。馬女士はこの規定を知っており、また再検査に関する通知も受け取っており(かつこれを無視しており)、これは会社側の按配に従わないことによる重大な規律違反行為と見做すことができるから、病気休暇分の賃金を支払う必要はない。また、仮に賃金を支払わなければならないにしても、その額は当市の規定から2017年の平均賃金である7132元となるはずである」と反論した。

争点:

使用者は労働者へ指定の病院で診察を受けさせる権利を有するか?

判決:

仲裁委員会は、会社側へ馬女士に対し2018年4月の病気休暇分の賃金7132元を支払うよう命じた。

分析:

実際の生活において、「偽りの病気休暇」の取得は多くのメディアでも取り上げられており、また多くの議論が交わされている。

その対策として、従業員へ指定の病院で診察を受けるよう、または三級甲等医院(以上)の病院の証明書を提出するよう規定を定めている会社は少なくない。では、仮にこの規定が民主的手続きに則って制定され、かつ労働者に周知されている場合、日常の管理においてこれを運用することは可能だろうか?

旧上海市労働局がかつて公布した「企業従業員病気休暇管理の許可及び病気休暇期間の生活保障に関する通知(沪労保発〔1995〕83号)(以下「病気休暇管理通知」)では、「従業員が疾病による休暇を必要とする場合は、(会社側は)企業の医療機関または企業の指定する医院が発行する「疾病状況証明書」をもとに批准する。従業員が疾病及び業務上の傷病によらない理由で長期の休暇を余儀なくされたときは、企業の医療機関または企業の指定する医院が発行する「疾病状況証明書」をもとに、(市の)企業労働能力認定委員会(小組)が認定を行い、企業へ行政による批准を伝えるとともに、従業員へ通知する」とあった。このことから、使用者が労働者の受診する病院を指定できたその背景には、公費医療制度が広範に実施されていた一時期の特殊な状況があったことが認められる。医療保険制度の成立と改正が進むに従い、現在は医療費用の負担も使用者から社会保険体系内の医療保険基金へとその主体を変えていった。ゆえに、使用者が労働者へ受診する病院を指定する前提がそもそも存在していないこととなる。

衛生行政主管部門の批准は、およそ資格を有する医療機関により為され、また治療や処方など資格を有する医療従事者の行為は、その合法性、権威性により認証されて然るべきものである。

使用者は病気休暇の証明に疑義を呈することはできるが、患者たる労働者も病気の程度や利便性、既往歴、病院の専門性から適切な病院での受診を選択する権利を有しているのである。使用者が労働者へ指定する病院を受診させたり、またはその病院の傷病証明書の提出を求めたりすることは、明らかに法的根拠を欠く。本案件における会社側の病気休暇分の賃金を支払わなかったことに関する抗弁は、これに基づき審判者に受け入れられなかったのである。

傷病証明書に疑義があるときは、使用者は当然病院へその真実性を問うことができ、労働者の(干渉を受けない)自発的な同意を前提として、労働者へ傷病記録や領収書などを提出させその事実を確認することはできるが、医療行為の必要性を安易に否定することはできないのである。

使用者が人事コスト上の必要性から、患者たる労働者を規定制度に基づき管理し、「偽りの病気休暇」取得防止策を講ずるのは理解できなくも無い。しかし、病気休暇の規範化から着手してしまうと、より有効な対策を失うことになってしまう。例えば、労働者の賃金構成の中に業績給などの浮動部分を取り入れ、また出勤状況や賞与などとリンクさせれば、本人の基本給を保障すると同時に、会社内部的にも(病気休暇中の労働者はそれなりに賃金が下がるという)賃金の均衡が取ることができるのである。

また、本案件の馬女士は財務総監の職位に就いており、月給は20000元に達しているが、「病気休暇管理通知」第五条には、「従業員が病気または業務によらない負傷による待遇を受けるとき、本人の賃金が当市前年度の平均賃金を上回っているときは、当市前年度の平均賃金を基準とする」と規定されている。会社側の抗弁にみられるように、例え病気休暇中の賃金支払い義務があったとしても、その額は市の平均賃金を基に算定されるのである。従って仲裁庭は、この抗弁を受け入れ、2017年の市平均賃金である7132元を基準として馬女士へ2018年4月の病気休暇中の賃金を支払うよう命じたのである。

診療において、どの医療機関を選択するかは労働者の自由である。しかし病気休暇の手続きを履行するのは、法に基づき病気休暇中の待遇を受けようとする労働者の義務であるとも言える。使用者は適法の範囲で正確な労働者の管理を行うことで、人間的かつ規範的なよりよい人事管理を実現することができるのである。