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【判例】会社の移転(による勤務場所の移転)は「労働条件を通知しなかった」ことに該当するか? (2019年10月30日)

案例

曹氏は2014年3月22日に上海市内の某物流会社へ入社し、倉庫管理の仕事に就いていた。

2018年3月22日、会社側は社屋移転の通知を出した。その内容は、上海市内某区のA路にある社屋を同区内のB路へ移転し、従業員の待遇はそのままで、宿舎への居住、社員食堂の提供及び送迎バスの利用、通勤手当の支払いから一つを選択させるとするものだった。

しかし曹氏は、住居が新社屋からはるかに遠く、家族の面倒を見ることができなくなる等生活に影響が出ることから、新しい勤務場所へ通勤しなかった。会社側は曹氏へ何度も新しい勤務場所へ出勤するよう求めたが、曹氏は2018年5月12日、元の勤務場所へ通勤できなくなったことについて、会社側との労働契約にそのような(勤務地の変更)条件は無かったと主張し、会社側との労働契約の解除を書面で通達した。その後曹氏は、労働人事仲裁委員会へ仲裁を申し立て、会社側へ労働契約解除にかかる経済補償金を支払うよう求めた。

仲裁庭において被申立人(会社側)は、「街が発展する中で、従業員の居住地と会社に一定の距離があることは社会通念に照らしても一般的であると言える。会社が移転したとは言えその距離は10km足らずであり、また従業員へも送迎バスの利用など多くの案を提示している。会社側は申立人(曹氏)へも新社屋への出勤条件を積極的に提示しており、また曹氏の業務にそれほど大きな不利益を与えていないから、労働契約にない労働条件の提示には該当しない」と主張した。

これに対して曹氏は、「会社側の移転により自信の実生活に影響が出た。新社屋への出勤は不可能で、元の勤務場所も労働条件に含まれていなかった」と反論した。

争点

使用単位が移転し、その対案を労働者へ示したにも関わらず、労働者が出勤を拒んだ場合、(勤務場所として)移転前の住所の記載が無かったことを理由とした労働契約の解除について使用単位は経済補償金を支払わなければならないか?

判決

労働人事仲裁委員会は、「申立人が新しい勤務場所での業務を拒んだのは明白である。申立人が労働契約の継続的履行を主体的に放棄した行為については、被申立人が労働条件を提示しなかったことにより、労働契約の履行を困難にしたものではない。また、被申立人は客観的に見て会社の移転が及ぼす影響を積極的に減らそうとしており、故意に労働条件を提示しなかったものではないから、申立人の状況は経済補償金の支払いを必要とする状況に該当しない。

分析

市場経済の発展に伴い、使用単位の経営方式、経営範囲は変化している。生産経営上の必要に応じて勤務場所を変更するのも、会社の自主的経営権を体現したものである。

当然、使用単位の移転は労働者との労働契約の履行に影響を与えるものであり、また各労働者も多かれ少なかれ影響を受けるものである。

労働契約の履行が難しくなったのか、労働者が労働契約を解除せざるを得なくなったのかは、各案件によって異なる。移転距離や出勤時間への影響だけではその合理性を確定することは難しく、合法性、合理性といった角度から、会社の移転により労働契約の継続履行が困難となった結果必然的に労働契約解除に至ったのか、移転距離の遠さが労働契約の履行にどれほど影響を及ぼしているのか、使用単位が通勤手当の支給などで移転による影響を極力抑えようとしたかどうか、などを判断する判断する必要がある。

「中華人民共和国労働契約法」第十七条によれば、勤務場所と労働条件はそれぞれ独立した労働契約の絶対的記載事項である。

労働条件は労働契約の基本的内容であり、すなわち労働者の労働や労働契約履行を保障するものであるから、勤務場所の変更は労働条件の有無に影響を及ぼさないものなのである。

労働関係の主体双方は、労働契約を履行すると同時に、それぞれが合法、公平、誠実信用の原則を等しく負うことになる。使用単位が故意に労働者へ労働条件を提示せず、かつ労働者に不利な影響を与えた場合にのみ、労働者は使用単位が労働条件を提示しなかったことを理由として労働契約を解除できる。このケースであって初めて、使用単位に経済補償金の支払い義務が生じるのである。

本案件では被申立人は、送迎バスや社員食堂の利用、宿舎の提供、通勤手当の支払いなど労働者の実情に合わせた調整案を提示し、選択させているから、労働契約の継続に必要な合理的義務を積極的に果たしていると言え、「労働条件を提示していない」ケースには該当しないから、「中華人民共和国労働契約法」第三十八条第一条第一号に掲げる「労働契約において労働者保護条項または労働条件の提示を約定していない」ことを理由とした労働者側からの労働契約解除に該当しないのである。