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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『国誉商業(上海)有限公司 井上 雅晴 董事長兼総経理 インタビュー!』2022/8/31

<strong><font style="font-size:19px">道理のない合理は認められない </font></strong>

道理のない合理は認められない

<strong><font style="font-size:19px">——国誉商業(上海)有限公司 董事長兼総経理 井上 雅晴氏</font></strong>

——国誉商業(上海)有限公司 董事長兼総経理 井上 雅晴氏


 
国誉商業(上海)有限公司
董事長兼総経理 井上 雅晴氏

 

91年に関西学院大学卒業後、コクヨ株式会社へ入社する。入社後は主に法人営業を担当する。2003年に国誉貿易(上海)の立ち上げに携わり、業務を軌道に乗せる。その後、05年に国誉商業(上海)の董事長総経理に就任し、現在に至る。

 

◆◆◆ 「帳簿の老舗」から「もっとも先進的な総合オフィスメーカー」へ ◆◆◆

コクヨの創業は、1905年に創業者の黒田善太郎が和式帳簿の表紙店を大阪で開業したことに始まる。社会の西洋化が進む中で、帳簿も西洋式の複式簿記に移行し、洋式帳簿のニーズが高まる。コクヨはその動きを見越して、1913年、洋式帳簿の販売を開始する。さらに同年、伝票、仕切書、複写簿、便箋などの製造にも着手し、紙製品メーカーとしての形態を次第に整えていった。この後、第二次大戦の困難を乗り越えて順調に成長し、紙製品業界のトップ企業となった同社は、1960年代に「オフィス用品のすべてをコクヨに」というモットーを掲げ、帳票類から事務用品、家具までをトータルに扱う企業を目指し、「帳簿の老舗」から「もっとも先進的な総合オフィスメーカー」へと企業イメージを一新していく。

「コクヨの成長を支えてきたものに、物流力があります。1970年、当時最新鋭のコンピュータの導入によって、全国の小売店が専用端末から商品を発注すると、最短で翌日届くシステムを構築しました。これにより、コクヨの商品は、多くの在庫を抱えなくてもよいと評判になり、取扱店が増えました。このように、当社は常に時代に先駆けた物流情報システムを構築してきました」と井上董事長総経理は話す。

 

◆ 家具販売ではなく総務代行サービスで顧客のニーズをつかむ ◆

コクヨのアジア進出は、1995年香港に海外駐在員事務所を開設したことから始まる。

「当時は、成長著しい中国市場を中心に、アジア全域の情報収集、分析活動が主な目的でした。その後、経済発展著しい中国での活動を本格化させるため、2002年香港にコクヨインターナショナル(KIA)を、翌年には上海にオフィス家具販売を目的とする国誉貿易(上海)有限公司を設立し、董事長総経理(当時)と私の2人から中国事業がスタートしました」

いざ中国事業をスタートするも、すぐさま大きな壁に突き当たる。

「当時、中国投資が盛んだった日系企業のオフィス家具需要に狙いをつけ、日本からオフィス家具を輸入して販売を始めたのですが、現地ライバル企業より納期は長く、価格も倍以上するため思うように売れませんでした」


そこで、日系企業相手に総務代行サービスを始めることになるが、その経緯について井上董事長総経理はこう語る。

「中国のオフィス物件は、天井や床、壁などの内装が一切なく、建物の躯体だけの状態で貸し出されるのが一般的なので、借主が自分で内装からオフィスのレイアウトまで全てをしなければなりません。ところが、日本から赴任する駐在員は、ほとんどが財務や営業出身の人で、内装はおろかオフィスレイアウトのノウハウすらありませんでした。そこで、当社が日本で長年培ってきたオフィス構築事業の経験を活かし、内装・設備工事、オフィスのプランニング、家具の選定まで全てを一括して引き受けるワンストップサービスの提供を始めたところ、日本から専門の社員を呼ぶより便利だと評判になり、多くの大手企業から依頼をうけるようになりました」

 

◆◆◆ 消費者の購買行動の分析から、独自の商品開発につなげる ◆◆◆

家具事業がようやく軌道に乗りはじめた2005年、中国で文具事業を扱う国誉商業(上海)有限公司の総経理を命じられる。

「ちょうど家具事業を立ち上げた頃、流通向け会社を作り、中国でオフィス用品通販事業「Easy Buy」をスタートさせていましたが、なかなかうまく事業を軌道に乗せることができませんでした。そこで文房具に詳しくなくても、消費者のことをよく知っている人間がいいのではないかということで、私に声がかかりました」

その後、中国における文具事業のトップに就任した井上董事長総経理は、中国独自のマーケティングを模索する。

「日本のビジネスモデルをそのまま中国で展開しようとしていたのが、中国での文具販売がうまくいかない原因であると考えました。そこで、全国の代理店を訪問し消費者の購買行動を徹底的にリサーチすることから始めました。その結果をもとに、日本ではあまり扱っていない商品であっても中国でニーズがあれば独自開発して提供することを始めました。その代表的な商品がスクールバッグやトートバッグです」

今年7月30日、初のコクヨ旗艦店「Campus STYLE」が徐匯区でオープンした。

「これまで消費者の行動パターンを分析するには、代理店から話を聞く以外に方法がありませんでした。昨今ではデジタルマーケティングが発達していますが、個人情報保護の要求が厳しくなってきており、十分なユーザー情報を把握することが難しくなってきています。そこで、直接自分たちで消費者の行動を把握し、実験するための場として、直営店をオープンすることにしました」と、井上董事長総経理は出店の目的について語る。



 

◆◆◆ 奉賢区政府の支援で迅速な工場の再稼働を実現 ◆◆◆

今年、上海市で実施された封鎖管理では、あらかじめ作成していたBCPが役立ったと井上董事長総経理は話す。

「2020年の新型コロナ流行後、今後に備えてBCPを策定するとともに、週1回の在宅勤務を実施し、さらに昨年にはオフィスのパソコンをノートパソコンに切り替えていました。

3月28日から上海市で封鎖管理が開始されると同時に、BCPに基づいて在宅勤務の指示を出し、ほぼ通常通りのオフィス業務を行うことができました。しかし、上海にある工場と物流が停止したため全国の代理店へ商品の発送ができず非常に困りました。そこで、全国各地の代理店と連携しながら、在庫に余裕のある代理店から不足している代理店へ融通してもらうよう調整して復工復産まで凌いでいました。ギリギリの綱渡りが続く中、工場のある奉賢区政府の支援により、正式な復工復産前の5月26日から工場の再稼働を実現することができました。この困難な時期に、一日でも早く工場を再稼働できたことは経営に与える影響が大きく、たいへん助かりました」


 

◆◆◆ 中国では道理のない合理は認められない ◆◆◆

一般的にビジネスの世界では合理主義であることが重視される。

「しかし合理主義が行き過ぎると、経済合理性を優先しすぎる危険性があります。中国では合理性だけではなく、道理を大切にする経営者が多いように感じます。道理のない合理は中国では通用しません。損得も大切ですが、それ以前に筋が通っていなければ中国の経営者には認められません。異文化コミュニケーションでいうと、自分を語れることが大切です。そこには、自分の思想、職業観、価値観、そして正しい歴史認識も含まれます。日本人は、自分の考えを主張するのが苦手な人が多いですが、自分を語ることができて初めて腹を割ったコミュニケーションができるのだと思います」と井上董事長総経理は話す。



 

◆◆◆ 「小さなノート大きな夢」を合言葉に企業の社会的責任を積極的に担う ◆◆◆

コクヨは「商品を通じて世の中の役に立つ」という創業の精神に基づき、企業の社会的責任を積極的に担っている。

「以前から、『小さなノート大きな夢』を合言葉に、中国各地の農村へ社員が訪問して、現地の子供たちに文房具セットをプレゼントし、一緒にゲームや勉強をする活動を続けています。それに加えて2021年2月からは、上海の政府および教育機関からも多大な支持を得て、「国誉絵画コンクール」を実施しています。一等賞として選出された4点の作品はコクヨの意匠ノートの表紙となり、全部で5万冊生産されました。この特別な意匠ノートは販売されるほか、中国の地方にも寄付され、山奥の子供たちにも元気を届けました。意匠ノートの売上13.92万元(約230万円)は、すべて上海市奉賢区の障がい者支援事業の協賛金として提供しました」

 

◆◆◆ 中国からアジアへ飛び立つ ◆◆◆

「中国に赴任して間もなく、事業がうまくいかず悩んでいたとき、会長からこう言われたことがありました。『お前が一生懸命走っていることはみんな知っている。だからお前ここにいる。でもな、中国に来た目的は走ることではなく飛ぶことだ。走っていることに満足せずに飛んでみろ』

その時の会長の言葉を胸に刻み、中国のお客様にライフスタイルを提案するような文房具以外の新たな製品やサービスにチャレンジしたいと考えています。さらに今後、ASEAN地域が中国と同じ発展の道を歩むであろう中で、アジア地域をリードする存在として中国法人が重要な役割を果たせるよう努めてまいります」


中智の感想:

董事長総経理でいながら、井上様の優しくて明るい性格から会社では若い社員達の相談役になっています。事務所は伝統的なオフィスではなく、フリーアドレス式で、社員達は自分達の好きな座席で仕事をすることができます。井上董事長総経理は、2003年に中国事業の立ち上げ以来、20年近く中国ビジネスに携わってこられました。その中で、日本のビジネスモデルにこだわる事なく、中国のニーズに合わせたビジネスを展開してきました。既存のビジネスモデルにとらわれず、新たなビジネスモデルを生み出せる理由について訪ねたとき、「お客様の声を聞くのではなく、潜在的なニーズを感じなければイノベーションは起こせない」という井上様の言葉に感銘を受けました。