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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『三菱商事金属貿易(中国)有限公司 菅野 健太郎 総経理 インタビュー!』2022/11/30

<strong><font style="font-size:19px">金属資源の安定供給を果たし、中国の安定的な発展に貢献 </font></strong>

金属資源の安定供給を果たし、中国の安定的な発展に貢献

<strong><font style="font-size:19px">——三菱商事金属貿易(中国)有限公司 菅野 健太郎 氏</font></strong>

——三菱商事金属貿易(中国)有限公司 菅野 健太郎 氏


 
三菱商事金属貿易(中国)有限公司
菅野 健太郎 総経理

 

慶応大学卒業後、98年に三菱商事入社。入社後は、金属グループに配属され、銅精鉱や原料炭を担当する。04年にオーストラリア駐在、15年にインド駐在を経て、19年から上海にて三菱商事金属貿易(中国)の設立準備に携わり、20年4月の設立後は同社総経理に就任し現在に至る。

 

◆◆◆ 意思決定の迅速化と指揮命令系統の一本化のため海外に拠点を移す ◆◆◆

親会社であるRtM International(以下、RtMI)は、2013年に三菱商事の金属資源トレーディング部門の本社機能としてシンガポールに設立された。

「2000年代に入ると、中国の経済成長による需要の高まりを背景に資源ブームが起き、三菱商事では金属資源投資に重きが置かれ、顧客が何を求めているかが見えにくくなってきました。トレーディングは商社の原点であり、顧客との大事な接点です。これをどう強化するのかという課題認識のもと、果たして成熟した日本にのみ軸足を置いていても成長は望めないのでは、という危機感もあり、出した答えは本社機能を東京からシンガポールに移すことでした」とRtMI設立の経緯を菅野総経理は話す。

「RtMIの設立後も、中国では三菱商事の全社拠点である上海三菱商事の金属部門が業務を担っていましたが、意思決定の迅速化と指揮命令系統の一本化を進めるため、分社独立させることになり、RtMIの子会社として三菱商事金属貿易(中国)(以下、RtMC)として2020年4月に営業開始しました」

RtMC設立の背景に人材獲得面でのニーズもあったと菅野総経理は話す。

「トレーディングの世界は、業界や顧客とのネットワークや先物市場を活用するトレーディング技術など、属人的な能力が重要になります。優秀なプロ人材を採用するには相応の報酬が必要になります。しかし、会社の給与体系を無視して人材を採用することはできません。新しい会社を設立し、新しい給与体系にすることでプロ人材を獲得しやすくなりました」


 

◆◆◆ 新型コロナの流行が始まる中での会社立ち上げ ◆◆◆

2020年は、ちょうど新型コロナの流行が始まった時期に重なる。

「2019年7月以降、20年4月の営業開始を目指して新会社の設立準備をしていました。ところが、2020年の1月末に新型コロナの流行が始まり、ちょうど春節休みで日本へ一時帰国していた私は上海へ戻れず、総経理不在のまま、予定通り営業を開始すべきかどうかの判断に迫られました。『準備はできている』『早く新会社として活動したい』という現場の熱い声に背中を押され、東京やシンガポールには不安視する声も少なからずありましたが、当初の計画通りに営業開始しました。万が一にでも何かあったら全て自分が責任をとる、と総経理として腹を括って下した最初の判断でした」


 

◆◆◆ 業務は二の次、社員と家族の心と体の健康を最優先 ◆◆◆

世界的な新型コロナ流行の中でも、中国は当初ゼロコロナ政策が機能していたので、中国事業は順調に発展してきたが、今年の4月から上海でロックダウンを経験する。

「ロックダウンが始まった際、まず社員に対して『自分と家族の心身の健康を守ることを最優先に考えるように』と伝えました。敢えて『業務は二の次』と、優先順位を明確にしました。食材不足の不安解消のため、封鎖期間中に計3回の食料支給を実施。また、封鎖が長期化する中で、不眠を訴える社員が出始めたのでメンタルヘルスの相談窓口の開設、オンラインヨガ教室の開講、そのほか人事部からの提案で、おもしろ動画を作成して社員間で共有したり、カラオケ大会を開催したりすることで、社員たちのストレスと不安を和らげるよう努めました。カラオケ大会では、私のスマートフォンが日本のIDだったため、中国のカラオケアプリがダウンロードできず、社員たちが『菅野のスマートフォンにどうすればアプリをダウンロードできるか』の検討チームを結成して解決策を考えてくれました。社員たちが団結して楽しい時間を過ごそうと、アイデアを出し合いサポートしてくれたことに嬉しく思いました。もちろん、遊びだけではなくロックダウン期間中を利用して、社内ルールの棚卸プロジェクトを実施しました。官僚主義を戒め、ルールの背景にある本質的な意味を再確認し、必要がないと判断すれば廃止しましたし、適用範囲を明確にする等の改善を進めました」


--封鎖解除祈念動画--

 

◆ ハイブリッドワークの導入で従業員が安心して働ける環境を整備 ◆

RtMCでは、ハイブリッドワークを積極的に導入している。

「今年の3月中旬ごろから、当社のオフィスがある建物全体が封鎖される可能性があるという話になり、原則として在宅勤務に切り替えました。それから、6月までの2カ月半は全くオフィスに出社せず、通常業務を廻していました。初めこそ少し混乱しましたが、ほとんど支障なく業務を遂行できたので、封鎖解除後も出社と在宅勤務を組み合わせるハイブリッドワークを導入することにしました。ハイブリッドワークの導入により、通勤時間の節約や感染症の予防抑制、さらには個人の事情に合わせた柔軟な働き方が実現できたと思います」

「ハイブリッドワークにすると、ノートパソコンを持ち運ぶ負担が生じますし、紛失のリスクもあるので自宅用とオフィス用のパソコンを2台支給する準備を進めています。情報はクラウドで管理すれば問題ありません。また、ノートパソコンだと画面が小さく長時間の作業は疲れるため、希望者に対してモニターを配りました。こういった環境整備はハイブリッドワークの実現に必要最低限の投資です。一方、在宅勤務ではどうしても部署をこえたコミュニケーションが少なくなりますので、部署の枠をこえた社内懇親会を奨励しています」

 

◆◆◆ 中智上海工会聯合会と提携し、雲南省大姚県での教育扶助活動に参加 ◆◆◆

RtMCは昨年から、中智上海工会聯合会と提携し、雲南省大姚県での教育扶助活動に参加している。

「会社設立以来、何らかの形で社会貢献をしたいと考えていましたが、何をすればよいのかがよくわかりませんでした。そこで中智上海工会聯合会に相談し、共同富裕の実現に向けて、貧しい地域への寄付活動に参加することにしました。単にお金を出すのではなく、何が必要とされているのかを理解するところから始めるべきと思い、今年3月に人事部門のスタッフに現地訪問して貰いました。小学校の先生たちの話を聞くと、机と椅子が足りないということがわかったので、手配して送り届けました。そして今年9月には、私も現地を訪問し、校長先生たちとお話ししたのですが、学校を卒業しても働く場所がないことを知りました。学校設備の充実は確かに重要ですが、その地域が持続可能な発展をするには、学校を卒業した若者が働ける産業が必要です。雲南省はコーヒー栽培が有名で、大姚県でも小規模ながらコーヒー栽培を行っているのですが、収穫量が少なく加工工場は収穫期の数ヶ月しか稼働していない状態だと聞きました。収穫量が増えれば、工場の稼働期間が延び、より安定した雇用が生まれると考え、来年はコーヒーの木を植林するための資金を提供させて頂こうと思っています。将来、収穫期に社員たちが収穫に参加できる日が訪れることを期待しています」




雲南省大姚県での教育扶助活動の写真

 

◆◆◆ 家族で外国へ駐在することの難しさを経験 ◆◆◆

菅野総経理は大学卒業後、三菱商事に入社する。

「入社当時、商社は冬の時代と言われており、私の配属された金属グループは特に業績が低迷している時代でした。入社後は、銅や石炭の輸入実務代行を担当し、04年からオーストラリアのシドニーとブリスベンに駐在し、石炭の事業投資先を担当しました。まさに中国爆食を背景とした資源ブームの真っ最中で、業界構造がダイナミックに変革していくのを体感しました。帰任後は鉄鉱石を担当し、中国にも何度も出張しましたね。その後、2013年からRtM設立準備室でRtMIを立上げ、15年からインドへ駐在することになりました」

その時のエピソードを、菅野総経理は語ってくれた。

「長男が第一志望の中学校に合格していたため、日本に残ることを希望していたのですが、多感な時期を海外で暮らした経験は必ず彼自身の糧になるとの思いから、本人の反対を押し切って連れて行くことにしました。しかし、異国の生活は、彼にとって不本意であり、大変だったことでしょう。インド駐在中は私と全く口をきいてくれなくなりました。その彼も今では大学生となり、学園祭運営委員会に熱中しているのですが、ロックダウン中に委員会のウェブマガジンに私についてや、インドでの日々を振り返り、様々な思いを綴った記事を寄稿してくれました。父親として、ぐっとくるものがありましたね」

日本も中国も、Z世代はオンライン上で自分の想いや考えを積極的に発信し、自分の価値観を大切にする特徴は共通しているようだ。


一橋祭WEBマガジン-- https://ikkyosai.com/magazine/wordpress/archives/346

 

◆◆◆ 金属資源トレーディング会社として、持続可能な社会の実現に貢献したい ◆◆◆

インタビューの最後に、今後の展望を菅野総経理に尋ねた。

「中国経済はコロナ流行下にあっても、確実に成長を続けています。しかし成長の中身は変化しており、それに伴い求められる資源の種類も変化しています。高度成長期にはインフラ建設が盛んであり、資源の需要は鉄鉱石やセメント等が中心でした。しかし現在では大きく様変わりし、カーボンニュートラルや電化社会の実現に必須の銅、EVのボディーに使用されるアルミ、電池の原料に使用されるリチウム、排ガス処理の触媒に使用されるプラチナやパラジウム等の需要が高まってきています。私たちは、新時代の中国が目指す持続可能な社会の実現に貢献することを使命に、これからも金属資源の安定供給を果たし、中国、ひいては地球の安定的な発展に貢献してまいりたいと思います」


三菱商事金属貿易(中国)有限公司 菅野 健太郎 総経理

中智の感想:

同社は、まさに新型コロナの流行が世界中に広がり始めた時に設立されました。菅野総経理は当時を振り返り、「嵐の中を小舟で漕ぎ出す」ような心境だったと語りました。会社設立の決断、コロナ封鎖期間中の対応、そして封鎖解除後のハイブリッドワークの導入と、菅野総経理の従業員に対する関心と思いやりを感じました。菅野総経理は大学時代、ラグビーに打ち込み、上海でも上海双龍という日本人チームに参加して週末にはラグビーの練習に汗を流しているそうです。