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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『上海賽路客電子有限公司 岡﨑 隆弘 董事総経理 インタビュー!』2023/5/30

<strong><font style="font-size:19px">中国都市部の製造業企業の生産性向上への取り組み </font></strong>

中国都市部の製造業企業の生産性向上への取り組み

<strong><font style="font-size:19px">——上海賽路客電子有限公司 岡﨑 隆弘 氏</font></strong>

——上海賽路客電子有限公司 岡﨑 隆弘 氏


 
上海賽路客電子有限公司
岡﨑 隆弘 董事総経理

 

愛媛県出身、1994年に同県の中予電器株式会社に入社。入社後は、工場技術部門や新規開発部門で勤務する。2003年に中国事業のスタートアップから関わり、2006年には上海賽路客電子有限公司の設立を担当する。2011年から同社の董事総経理に就任、2014年に広島県福山市の株式会社石井表記による子会社化にともない同社に転籍後、引き続き董事総経理を務め現在に至る。

 

◆◆◆ 本社で技術を学んだ実習生と共に工場を立ち上げる ◆◆◆

上海賽路客電子は、浦東新区金橋経済技術開発区に位置し、電子基板実装および民生機器組立などの製造受託サービスを行う従業員数約500名の日系中堅EMS(Electronics Manufacturing Services)企業である。「当時の大口取引先だった日系メーカーの中国進出に合わせて03年に中国へ進出を果たし、06年に現在の場所に上海賽路客電子を設立しました。中国に進出した当初は、中国の安いコストを活かした加工貿易をメインに行っていましたが、順調な経済発展にともない中国国内市場が大きく成長し、10年頃から中国国内市場向けの生産が徐々に増え始めました。現在は、高度な生産技術を活かし、主に民生関連、EV関連、医療機器、産業機器等の電子機器の受託製造をしています。取引先の約7割が日系企業、3割がその他外資及び中国企業となっており、近年のEV市場の拡大にともない、中国系自動車メーカーからの受注が増えています」と岡﨑総経理は会社の沿革と事業内容を紹介してくれた。

「中国に進出したのは03年ですが、00年から日本本社では中国から技能実習生を受け入れていました。03年はちょうど技能実習生の第一期生が卒業する年であり、多くの卒業生が中国工場の立ち上げに参加してくれました。当時立ち上げに参加した第一期生の一部は、現在も管理職として働いてくれています。実は、劉偉副総経理も、あの当時工場の立ち上げに参加してくれた第一期生のひとりです。この様な設立の歴史から、管理職として採用された従業員であっても現場を経験することが当社の企業風土になりました。間接部門も含め全員が現場を経験することは、間接部門の従業員とブルーカラー従業員の垣根を取り払い、組織力を高めるのに役立っています。

また、疫病流行による封鎖時には、私も含めて出勤できた管理職も現場に入ることで、少人数にもかかわらず生産を止めることなく工場を稼働し続けることができたのは思いがけない効果でした」


 

◆◆◆ 製造現場の生産性向上への取り組み ◆◆◆

現在、多くの製造業がコスト上昇とブルーカラー従業員の採用難に頭を悩ませている。「03年に中国で始めて工場を設立した当時、ブルーカラーの人件費は一人あたり1000元にも満たない金額でしたが、今では日本のパートタイム労働者より人件費が高くなっています。そのような環境下で操業を続けるには、生産性の向上が不可欠です。当社では、生産現場のIT化、自動化を進めることで、人を減らしつつ業務量を増やすことに成功しました。IT化は生産現場の効率化だけではなく、間接部門の作業効率改善にも効果があり、管理コストの削減につながりました。08年当時には1000名いた従業員を、現在500名程度まで削減しましたが、売り上げはその間に倍増しています」

同時に、ブルーカラー従業員の離職率を下げる工夫もしている。「周囲にある大手企業の工場と比べ競争力のある給与待遇にすることが難しい中で、少しでも離職率を下げるための取り組みとして、食事にこだわっています。ワーカーさんは、毎日2~3回食堂を利用しており、食事の質は従業員満足度に大きく影響します。実際に、食事の質を改善することで離職率が低下しました。また、工場の周辺には朝食を買える売店が無いため、特に若い従業員の多くが朝食をとらずに出勤していました。しかし、それでは不健康で午前中の仕事のパフォーマンスにも影響するため、食堂で朝食を提供するようにしました」


 

◆◆◆ 若い世代に合わせた働き方の改善 ◆◆◆

また、若い世代の従業員を惹きつけるための取り組みにも力を入れていると岡﨑総経理は話す。「最近の若者は、工場で働くことを望まない人が増えています。工場独特の仕事環境が若者に敬遠されているそうです。そこで、工場内の事務所をビジネスオフィスのような綺麗な内装にし、少しでも工場内であることを忘れるような仕事環境を整えました。服装についても、製造に差し支えのない範囲で、自由な服装や髪型を認めています。そのほか、現場の作業については、なるべく単調な作業が続かないよう配慮しています。例えば、作業の中にパネル操作や機械操作を加えることで、退屈にならず作業を続けることができます。特にスマホ世代の若い従業員は、パネル操作が好きなようです。また、休憩中に少しでもリラックスできるよう、休憩室はカフェをイメージした内装にし、外の景色を眺められるよう配慮しています。従業員たちは親しみを込めて休憩室を『賽巴克』と名づけています」


 

◆◆◆ 従業員だけでなくその家族にも配慮する企業風土 ◆◆◆

福利厚生も従業員の定着率を高めるための重要な要素だと岡﨑総経理は話す。「当社では、従業員の福利厚生に『関愛通』を利用しており、春節や国慶節には、従業員にギフトを贈っているのですが、間接部門の従業員とブルーカラー従業員とでは好みが異なります。間接部門の従業員は、自分の好きな商品と交換できるギフトカードが喜ばれるのに対し、ブルーカラー従業員は布団セットや食用油等の重量のある現物の方が喜ばれます」

福利厚生は、従業員本人だけではなく、その家族のことも考えたものにすると、より効果的であると岡﨑総経理はいう。「従業員の後ろには家族がいます。両親や夫、妻、子供など家族が喜ぶものや一緒に利用できる福利厚生制度を設けています。そのひとつに家族感謝会を定期的に開催しており、従業員の家族を会社に招待して工場内を見学してもらい一緒に食事をします。そのほか、新型コロナの流行前は、毎年夏休みに従業員の子供を招待して工場内で一週間のサマーキャンプを開催していました。サマーキャンプでは、お父さんやお母さんが仕事をしている場所を見学したり、実際に現場での作業を体験したりすることで、働くことの大変さを理解してもらいます。この活動は非常に好評で、サプライヤーさんやお客さんからも、ぜひ自分の子供を参加させたいと頼まれるようになりました」


 

◆◆◆ 常に生産技術を高めイノベーションを創出し続けるEMS企業に ◆◆◆

インタビューの最後に、今後の展望を岡﨑総経理にたずねた。「これからも、EV関連、医療機器、産業機器、社会インフラ関連の受託製造で社会に貢献しつつ、製品の高度化や時代の変化に合わせて常に生産技術を高めイノベーションを創出し続けられるよう努力してまいります」


中智の感想:

上海賽路客電子は、年々ブルーカラー従業員の確保が難しくなる中で、多くの知恵を絞って課題を克服しています。その取り組みから、ブルーカラー従業員の募集や定着には、給与待遇だけではなく、非現金インセンティブの福利厚生や企業風土の大切であることがよく理解できました。

岡﨑総経理は中予電器に入社後、工場技術や生産技術、新規開発を担当し、生産現場に入って自ら試行錯誤することも多かったそうです。総経理として経営を見るようになった現在でも、時おり現場に入って作業をしています。その理由について、「生産性や品質向上のヒントは常に現場にあります。経営者になっても現場の感覚を忘れないよう現場に立つのです」と話された言葉が心に残りました。これからも、元気な製造業企業として、中国でますます発展されることを期待します!


※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」