聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ
『日立建機販売(中国)有限公司 森 常隆 董事総経理 インタビュー!』2024/11/25
中智日本企業倶楽部・智櫻会 経営者インタビュー 第107回
中国発世界へ、今「逆グローバル人材」が求められる
——日立建機販売(中国)有限公司 森 常隆 董事総経理
1986年慶応義塾大学卒業後、伊藤忠商事に入社する。入社後は主に自動車分野で豊富な経験を積み中国事業に長年携わる。1995年に北京事務所駐在、2008年にインドネシア事業会社出向を経て、2012年再び北京駐在。2019年に伊藤忠(中国)集団有限公司の総経理に就任。2024年4月より日立建機販売(中国)有限公司の董事総経理として、中国における建設機械事業の高品質で持続可能な新たな成長戦略を推進している。
本社である日立建機株式会社は、1970年に日立製作所から独立した大手建設機械メーカーです。日立建機グループは、主に油圧ショベル、ホイールローダ、鉱山機械の分野で事業をグローバルに展開しています。中国には1995年に合肥で工場を設立して本格的に営業を開始し、1998年には日立建機(上海)を設立し中国市場で順調な発展を遂げます。2022年に設立された日立建機販売(中国)は、日立建機グループが中国での事業をさらに強化するために、中国における事業体制を再構築し、新たに設立した販売サービス統括会社です。同社は、建設機械や小型機械、さらには鉱山機械を含む幅広い製品に対して、ワンストップの販売およびサービスを提供しています。新車販売だけでなく、部品、サービス、レンタル、中古車、部品再製造といった「バリューチェーン事業」にも力を入れており、製品のライフサイクル全体を通じて、より信頼性の高い総合的なソリューションを顧客に提供することに取り組んでいます。今回は、日立建機販売(中国)有限公司 森常隆 董事総経理にインタビューしました。
◆◆◆ 中国事業の「二つの一本化と一つのスリム化」で競争力を強化 ◆◆◆
2022年に日立建機グループは、中国事業を強化するために日立建機販売(中国)を設立し、事業体制や組織に大きな変革があったと森総経理は話します。「これまで、日立建機(上海)では国産の中小型機械を中心に取り扱い、大型機械は別会社が取り扱っていましたが、日立建機販売(中国)の設立に合わせて商流を一本化し、大型機械も製品ラインナップに加えました。特に鉱山用大型機械の取り扱いにより、事業領域が広がり、顧客ニーズにより応えられるようになりました。また、日立製作所など複数の株主が持っていた持分を整理し、株主を日本本社の日立建機に一本化したことで、経営判断のスピードが向上しました。この結果、市場の変化に迅速に対応できるようになり、競争力が強化されています。さらに、人員の整理や固定費の削減によりスリム化し、コスト構造を改善し、収益性も向上しました。現在の厳しい市場環境下でも利益率が改善され、安定した収益基盤が築かれつつあります。これらの取り組みを通じて、日立建機販売(中国)はさらに競争力のある企業へと生まれ変わりつつあります」
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中国建設機械製造品年間TOP50にランクイン |
現在、経済環境が理想的ではない中で、建設工事や農地改良工事の需要が減少し、国内メーカーとの競合も厳しくなってきています。しかし、森総経理は「明るい兆しもある」といいます。「鉱山機械の分野での需要が伸びています。24時間稼働する鉱山では高い品質と優れた耐久性が求められます。それに加えて近年では安全性や環境保全、大型化への要求が高まってきており、当社の大型機械がお客様に選ばれています。環境保全の面では鉱山で使用されるトラックの無人化や電動化が進んでおり、当社の機械においても、無人化や電動化の実現に向けた研究開発に注力しています」
鉱山用大型機械
◆◆◆ 中国市場で求められる「逆グローバル人材」 ◆◆◆
日立建機グループでは、毎年世界各拠点の責任者が本社に集まり、グローバルに活躍できる人材を育成するための後継者育成プランを策定しています。しかし、中国においては少し異なる優先順位があると森総経理は語ります。「現在、多くの中国企業が海外展開を進めています。特に中央企業や国有企業は、海外プロジェクトにおいて中国から人材を派遣し、機械も中国で調達して海外に運ぶケースが一般的です。そのため、海外の代理店が現地で中国企業との商談を希望しても、中国企業の海外拠点では決定権が無いため、実際にビジネスを結ぶことが難しいのが実情です。こうした状況を踏まえ、中国からの機械購入ニーズに対応するため、中国本社と直接商談ができる『逆グローバル人材』が求められています。このような人材は、海外に進出を図る中国企業に対して効果的な営業活動を行う役割が期待されているのです。今年の6月には、中国電力建設集団がカンボジアで進める建設プロジェクトに投入するため、4台の油圧ショベルが中国から出荷されました。これは、日立建機が海外へ進出する中国企業のお客様のニーズに応えてカスタマイズ製品を納入した成功例のひとつです」
2024年6月6日早朝、カンボジアへ向けて出荷される油圧ショベル |
◆◆◆ 社員とその家族が絆と環境意識を高めるイベント ◆◆◆
今年、日立建機グループは、社員とその家族を対象に、感謝や環境意識をテーマにしたイベントを開催しました。
まず5月19日には日立建機(中国)有限公司で「橙意満満 楽趣十足 日立建機“Happiness Day”」と題したイベントが開催されました。「このイベントは、日立建機の社員と家族が集まり、会社の発展を願い家族のサポートに感謝を表す場として企画されたもので、コロナ禍以来、初めての開催となりました。今年は合肥工場に約1,000人の参加者が集まり、これまで以上に盛大に行われました。工場見学やエコ活動、子供向けの催しなど、家族全員が楽しめるプログラムが用意され、社員と家族が共に会社の文化を体験し、会社への感謝の気持ちや一体感を深める機会となりました。私自身も、海外でこのような大規模なイベントに初めて参加し、日立建機グループが合肥に根付き、地域社会と深い関係を築いていることを実感しました」
さらに、6月15日には上海の長興島で「低碳橙行,日立建機緑色騎行活動」というサイクリング活動が開催されました。「この活動には、日立建機販売(中国)の社員とその家族50名以上が参加し、環境保護意識を高め、低炭素社会の実現に向けた取り組みとして、10kmのサイクリングを楽しみました。社員と家族が一丸となって参加し、持続可能な未来への意識を共有する機会となり、多くの参加者からも満足の声が寄せられました」
「橙意満満 楽趣十足 日立建機“Happiness Day”」 |
「低炭橙行,日立建機緑色騎行活動」 |
◆◆◆ 環境と地域貢献への取り組み ◆◆◆
日立建機グループは、環境問題や社会貢献に対する取り組みをグループ企業全体で推進しています。「製品開発と製造においては、建設機械の電動化や省エネ技術の導入、製造過程での低炭素化を進める努力を続け、工場の中に廃棄ガス廃棄水の洗浄のための専用設備を投資するなど、環境負荷低減にも努めています。さらには、『建機の森』といった緑化活動や地域の子どもたちへの教育支援など、多岐にわたる取り組みを通じて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みも行っています。これらの活動は、環境保全に対する日立建機グループの強い意志を示すとともに、社員一人ひとりが環境問題に対する意識を高める機会を提供し、長期的に見て、企業の発展と社会全体の調和を目指すものです」
浙江省蘭溪市の小学校で行った出張授業 |
◆◆◆ コロナ禍を経て中国通から中国ファンへ ◆◆◆
森総経理は1986年に伊藤忠商事に入社し、自動車関連の業務に携わってきた。入社当初はアフリカや西南アジアを担当し、その後、ブラジルやアメリカ、ヨーロッパなど、様々な地域の業務に従事しました。「初めて中国へ訪れたのは1988年で、出張がきっかけでした。初めて北京へ駐在したのは1995年でした。当時の北京は物資が不足しており、正直なところ『もう二度と中国で働きたくない』と感じるほどでした」と森総経理は中国に対する当時の気持ちを振り返ります。
2002年に日本に帰国し、モンゴル、パキスタン、インドネシア等を担当します。2008年から2012年にはインドネシアに駐在し、その当時、大地震に見舞われ社員に犠牲者が出るという、つらい経験をしました。2012年後半に北京に移駐、2度目の中国駐在、2017年一旦日本へ戻った後、2019年には伊藤忠(中国)集団の総経理として3度目の中国赴任を命じられます。「その間にコロナ禍を経験し、初めて中国を好きになりました。コロナ禍では、多くの中国人と付き合う機会ができ、助けられ、彼らの前向きな姿勢に勇気づけられたのです。その経験から『中国に恩返しをしたい』という想いが強まり、永住権も申請することにしました。2024年4月からは、日立建機販売(中国)の董事総経理に就任し、これからのビジネスキャリアを日立建機と中国の発展のために尽くしたいと考えています」
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中智の感想:
森総経理は、一流商社の経営者として、世界中で豊富な経験を積んでこられました。1988年に初めて中国へ出張して以来、3度の駐在を経験し、社内の会議も中国語で行うほど中国語に堪能です。以前は中国があまり好きではなかった森総経理ですが、コロナ禍をきっかけに中国人と深く付き合うようになり、今では日本人よりも中国人と付き合う機会のほうが多くなっているそうです。すっかり中国ファンになった森総経理が、日本と中国の更なる発展に向けてご活躍されることをお祈りします!また、グローバルなビジネス経験を活かし、中国企業の海外進出時代にふさわしい「逆グローバル人材」の育成にも期待しています。
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※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」