聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ
『上海タワービジネス運営有限公司 梅雪 総経理 インタビュー!』2025/4/29
中智日本企業倶楽部・智櫻会 中国企業高級管理者インタビュー
梅雪総経理との対話:グリーン・スマート・人文から読み解く垂直都市
——上海タワーの運営哲学——
2024年と2025年、中智日本企業倶楽部・智櫻会は、2年連続で新春会を上海タワーで開催し、会場のレイアウトから大会当日のサービスに至るまで、参加した会員の皆様から高い評価をいただきました。このたび、中智日本企業倶楽部・智櫻会は感謝の気持ちを胸に、上海タワーを訪れ、新春会を陰で支えていただいた立役者——上海タワービジネス運営有限公司の梅雪総経理に対して、インタビューしました。
梅雪総経理は、上海で生まれ育ちました。2006年、上海タワープロジェクトの準備段階、わずか3名の準備チームの一員の中に、すでに彼女の姿がありました。以来、彼女はこのビルの企画、設計、建設、引き渡し、そして運営に至るまで、約20年間にわたり上海タワーの歩みを見守り続けてきました。この経験は、彼女のキャリアにとって、非常に特別で意義深いものとなっています。
◆◆◆ 建設から運営へ、挑戦と突破 ◆◆◆
上海タワーは「 上海都市の資産、人民の資産」として、上海市国資委が直接に監督管理する企業です。設計段階から、上海タワーは「グリーン、スマート、人文を備えた垂直都市」という中核目標を掲げました。この目標はその後のビルの運営方針にも一貫して反映され、設備機器の保守管理、空間管理、文化コンテンツの導入、そして人間本位のサービス理念など、あらゆる面に浸透しています。
建設時、総投資額180億元を投じた大規模プロジェクトでしたが、建設から運営への移行には多くの課題が伴いました。2017年にビルが引き渡され実際に運営が開始されました。建設過程では、当時国際的にも先進的の理念を取り入れたものの、10年にわたる建設期間を経たため、時代の進展とともに、中国の経済、科学技術、建築分野は急速に発展し、当初先進的だった一部の設計は、現在に合わせた更新とアップデートが必要になりました。梅総経理は、その一例を挙げます。「当初設計されていた駐車場の映像認識による自動料金徴収システムが、運用開始時にはすでに自動ゲート連動型のモバイル決済システムに取って代わられていたのです。こうした課題に対して、上海タワーは積極的に解決策を模索してきました。一方では、既存設備のアップグレード・改修を行い、可能な限り寿命を延ばしてコストを削減しています。他方では、新技術の研究と導入を強化し、時代のニーズに即したスマート設備を迅速に取り入れることで、ビル全体の運営効率を高めています」
|
上海タワーは、オフィス、商業施設、ホテル、会議・展示スペース、飲食サービス、観光・文化旅行、さらには文化・クリエイティブの設計販売など、多彩な業態を備えています。梅総経理はこう語ります。「事業形態は幅広いものの、それぞれ垂直領域の規模は比較的限られています。近年、私たちのチームは各垂直領域を深く掘り下げ、外部との連携によるシナジーを模索してきました。ビル単体の運営レベルを向上させるだけでなく、その運営ノウハウを国内、さらには海外の超高層ビルにも共有していきたいと考えています。また、安全を確保しつつ、毎日数万人にのぼる多様なニーズを持つ来訪者に、満足できる体験を提供することは、運営チームにとって極めて大きな任務です。そのため、私たちは精緻な管理戦略を策定し、業態や来訪者のニーズに応じて、きめ細やかでパーソナライズされたサービスを提供しています」
|
◆◆◆ 上海タワーと日本の縁・繋がり ◆◆◆
上海タワーの発展の歩みの中で、日本との縁は多方面にわたっています。設計段階では、チームが日本を訪れ、超高層ビルの設計や運営管理のノウハウを学びました。建物内の美術館など文化施設の配置についても、日本の事例からインスピレーションを受け、上海タワーにも博物館などの文化的要素を取り入れ、ビル全体の人文的な深みを増しています。これにより、訪問者やテナントに対して、独自の文化体験を提供しています。
ハード面においても、日本との繋がりが見られます。ビル内に設置されている157基のエレベーターのうち、垂直移動用エレベーターには日本の三菱ブランドが採用されています。三菱のエレベーターは、超高速エレベーターの試験段階から多大な努力を重ね、上海タワーの垂直交通システムの効率的な運用を支えています。また、納入後の保守管理も上海三菱電梯が担っており、日中の企業間技術協力の模範事例となっています。
梅総経理はこう語ります。「オフィスフロアに入居している企業の中には、中智日本企業倶楽部・智櫻会の会員企業もあり、日系企業からのニーズが、私たちのサービス品質の継続的な向上に役立っています」
会議やイベント支援の面では、これまで長年にわたり、中智日本企業倶楽部・智櫻会の新春会や、著名な日系企業の年次総会などをサポートしてきました。これらのプロジェクトでは、常にサービス理念を振り返り、品質の向上に努め、日系企業が求めるサービスへのこだわりと体験価値への高い要求に応えています。自身と日系企業との深い縁について、梅総経理は明るい笑顔でこう語ります。「上海タワーに入居した最初の日系企業は、私とチームが一緒になって交渉し、無事に契約を結ぶことができました」こうした仕事への情熱と自ら率先して取り組む姿勢が、重要な協力関係を築くとともに、上海タワーと日系企業との深いパートナーシップ構築の基礎となっています。
梅総経理が上海タワーを訪問する中智日本企業倶楽部会員企業代表を迎える |
中智日本企業倶楽部・智櫻会新春講演賀詞交歓会を上海タワーで開催 |
◆◆◆ 入居企業と文化観光の力強い発展 ◆◆◆
2017年7月の引き渡し以来、上海タワーには米国、欧州、日本、東南アジア、アフリカなど16か国から主要企業が入居しており、グローバル化を象徴しています。コロナ禍以降も多くの世界トップ500企業が入居しており、これはグローバルな顧客の中国経済に対する信頼と中国経済の強靭な回復力を示しています。こうした企業の入居は、上海タワーにも豊富なビジネスリソースと活力をもたらし、各国・各地域間の経済文化交流を促進し、「ウィンウィン」の関係を築いています。
文化・観光分野においては、上海タワーの展望台はコロナ禍後に力強い回復を遂げ、2023年の来場者数は170万人に達し、2019年の水準を大きく上回りました。国の方針に応じて、チームでは文化・観光商品の充実と消費体験の向上に努めています。
また、144時間のビザ免除政策の実施により、海外からの来訪者も急増しています。上海タワーは海外のOTA(オンライン旅行代理店)チャネルと連携し、アリペイを通じて海外の決済システムともシームレスな接続を実現し、海外からの来訪者にとって、スムーズな支払い環境を整えています。さらに、「購入時即時免税」政策への参加により、海外からの観光客が文化・観光商品をより便利に楽しめるようになりました。
「上海之巓」展望台からは、上海の絶景を一望できるだけでなく、百年にわたる歴史の変遷も感じ取ることができます。さらに上海タワーは、カスタマイズされたシティツアーサービスなど、さまざまな特色ある文化・観光商品を開発し、多様化する観光客のニーズに応えています。
|
◆◆◆ 特色あるIPで多様な活力空間を創出 ◆◆◆
IP創出の面では、上海タワーが主催する「垂直マラソン」は非常に高い影響力を持っています。現在は「上海タワー スプリントチャレンジ」としてアップグレードされ、上海のスポーツブランドを代表する国際大会として国際認証も取得しています。この大会は、当初は年に1度の開催でしたが、現在では年に複数回の開催に拡大し、フルマラソン、女子チャレンジマラソンなども行われています。昨年のフルマラソンには2,000名の選手が参加し、今年の大会スケジュールもすでに発表され、多くの国内外選手の注目を集めています。
梅総経理はこう語ります。「この大会は単なるスポーツイベントではなく、文化交流のプラットフォームでもあります。大会の開催を通じて、上海タワーのユニークな建築美や都市の活力を世界に発信し、より多くの人々に上海タワー、そして上海という都市そのものに関心を持ってもらうきっかけとなっています」
また、上海タワーでは入居企業やビジネスパーソンに向けて文化的な福利厚生も提供しています。毎日1時間の文化プログラムを実施しており、東方芸術センターの公演や無形文化遺産のパフォーマンスなど、中国文化の魅力をビル内で気軽に楽しむことができるようになっています。
|
|
◆◆◆ 機能のイテレーションからエコシステムへの拡張、実践経験をもとに差別化されたサービス体系を構築 ◆◆◆
梅総経理は、上海タワーの126階にある空間は、機能面で常に革新とイテレーションを遂げてきたといいます。「バージョン1.0では、『上海慧眼』と呼ばれる制振装置を設置する設備空間として、主に建物の安全性を担保する役割を果たしていました。バージョン2.0では、作曲家サイモン・フラングレン氏を招き、《上海の一日》という声楽作品を創作し、都市の昼夜のリズムを音楽に取り入れました。バージョン3.0では、光と影のアートと融合し、30分ごとに音楽と映像を組み合わせた没入型の演出を展開しました。機械的な制振装置の空間が、機能性と芸術性を兼ね備えた都市型展望体験の場へと生まれ変わりました」
|
また、若年層向けのインタラクティブな体験として、102階と106階では「AIの夢」プロジェクトを展開しており、AIとの対話、シーン型インタラクション、ストーリー体験などを融合し、テクノロジーと人文が融合した革新的な体験空間を提供しています。
|
サービスの拡張について、梅総経理は次のように述べます。「これらの空間運営の実践が、チームにとって事業展開の新たな発想をもたらしました。たとえば、会議の現地対応、空港送迎や宿泊手配、都市散策(City walk)、会場設営などのパーソナライズされたサービスにおいて、上海タワーが持つリソースを活用しながら、ビジネストラベルサービス、EC運営、文化発信といった多様な事業分野へと次第に派生してきました。従来型の「机上の空論」に終始するコンサルティングとは異なり、上海タワーの提供するソリューションは、すべて自らの運営実践に基づいています。現場で積み重ねた具体的なノウハウや、過去に経験した『つまずき』も含めた実際の経験が活かされており、そうした『自ら手を動かす』実務力こそが、顧客の信頼を得るための中核的な競争力となっています」
さらに、梅総経理は強調します。「すべての事業の拡張は、建物自体が持つ独自のDNAに根差しています。自らの強みを土台として育まれたサービス・エコシステムこそが、顧客ニーズと真に深く結びつくことができるのです」
◆◆◆ ESGの理念を実践し、持続可能な運営の道を切り開 ◆◆◆
2024年、上海タワーは初のESG報告を公表し、環境・社会・ガバナンスの各分野における成果を公開しました。運営の方向性として「グリーン・スマート・人文」を掲げ、業界の持続可能な発展を推進しています。専門家からも高い評価を受け、全国初の「低炭素ビジネスビル格付け」で最高ランクのプラチナ等級を取得しました。
また、上海タワーは国際ビルオーナー及びマネージャー協会(BOMA)にも加盟しており、毎年「卓越運営認証(COE)」を受けています。これによりエネルギー管理、テナントサービス、リスクマネジメントなど多方面からビル管理レベルを向上させています。さらに、第三者による満足度調査を通じて、清掃、空調、設備、顧客対応、商業施設など細部にわたる評価を実施し、常に上位のスコアを維持しています。
梅総経理は次のように語ります。「優良な入居企業からの高い基準が、私たちの成長を後押しし、グローバルなお客様への対応力を高めています。今のオフィスビル市場は“ストック時代”に入り、より運営力が問われるようになりました。上海タワーは、100年先まで健全かつ軽快なサービスを提供するビルを目指しています。技術スタッフのサービスという課題はあるものの、ESG理念を継続して実践し、業界の未来をリードしていく自信があります」
|
中智の感想
ビルの運営に情熱を注ぎ、専門性と匠の精神でサービスの実施に磨きをかけ、柔軟な思考と国際的な視野、そして自ら行動する上海の女性リーダー。梅雪総経理による20年にわたるビル運営の物語と未来への展望に、改めて上海タワーが体現する「中国高度」と「サービス温度」を感じました。この「若き垂直都市」は、最高のサービス、堅実な運営力、そして国際的な視野と開かれた姿勢によって、きっと外資企業が中国市場で深く根を張るための「優良のロケーション」となるでしょう。今後も上海タワーと手を取り合い、この「若き垂直都市」が日中の経済文化交流の架け橋として、イノベーションと持続可能な発展の新たな章を共に刻んでいくことを期待しています。
|
中智日本企業倶楽部・智櫻会と梅雪総経理、王佳霖総監との記念写真 |
※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」