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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『在上海日本国総領事館 岡田 勝 総領事・大使 インタビュー!』2025/6/10

<strong><font style="font-size:19px">中智日本企業倶楽部・智櫻会 特別インタビュー </font></strong>

中智日本企業倶楽部・智櫻会 特別インタビュー

<strong><font style="font-size:19px">初心は中国にあり---日本人外交官と中国のきずな </font></strong>

初心は中国にあり---日本人外交官と中国のきずな

<strong><font style="font-size:19px">語学の縁が導いた外交官の道 信頼を築き 使命を貫く</font></strong>

語学の縁が導いた外交官の道 信頼を築き 使命を貫く


 
在上海日本国総領事館
岡田 勝 総領事・大使

奈良県奈良市生まれ。3歳のときに兵庫県尼崎市に移り、その後、大学卒業まで過ごす。1985年に神戸市外国語大学外国語学部中国学科に入学、1987年には中国政府奨学金留学生として大連外国語学院へ1年間留学。留学から帰国後は、引き続き神戸市外国語大学で学び、1990年4月に外務省に入省する。北京大学での2年間の研修を経て、これまでに4度、北京の在中国日本国大使館に勤務。本省では、報道課首席事務官や総合外交政策局外交政策調整官などの要職を歴任する。2024年9月、在上海日本国総領事・大使として着任し、現在に至る。中国滞在は、留学を入れると通算18年に及ぶ。

在上海日本国総領事館は、上海市と江蘇省、浙江省、安徽省、江西省の「1市4省」を管轄しており、「在留邦人の安全確保」と「日系企業への支援」を最も重要な使命としています。昨年9月に着任された岡田勝総領事・大使(以下、大使)は、外務省で長年にわたり中国語のエキスパートとして多くの政府要人の通訳も務めてきました。そんな岡田大使に、中国語との出会いから外交官としての歩み、そして日中友好への想いを伺いました。

 

◆◆◆ 人生を変えた中国語との出会い ◆◆◆

岡田大使が中国語と初めて出会ったのは高校1年生の時でした。偶然ラジオから流れてきた中国語の「音の美しさ」に魅了されたといいます。

「高校2年生からはNHKラジオ中国語講座を聴いて、趣味として中国語を独学で学びはじめました。」この時の中国語との出会いが、後の人生に大きな影響を与えることになります。

岡田大使は、小学生の頃は電車の運転士、中学生では教師、高校生では裁判官になることを夢見ていました。しかし、中国語を学ぶうちに、その魅力に引き込まれていきました。「大学進学時には、法学部に進むか外国語大学で中国語を専門的に学ぶかで迷いましたが、最終的に神戸市外国語大学中国学科に進学することを選びました。」ここから本格的な中国語を学ぶ道が始まります。


 

◆◆◆ 「楽しむ」ことが語学上達の近道 ◆◆◆

外国語を学ぶ上でのアドバイスを求めると、「コツコツ勉強すること、そして何より楽しむことが大切」と岡田大使は語ります。「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。(知之者不如好之者、好之者不如楽之者)」という『論語』の中の孔子の言葉を引用し、楽しく学ぶ姿勢の大切さを説きます。

教科書の単語を1から覚えるだけが勉強ではないと岡田大使は言います。「最近では、音楽や映画、ドラマなどさまざまな方法で言語に触れることができます。中国語の歌をカラオケで歌ってみるのも勉強の一つです。自分が楽しいと思える方法で継続することが大切です。」

さらに、AI翻訳が進歩する時代においても、語学を学ぶ意義は変わらないと岡田大使は強調します。「AIの翻訳は便利で効率的ですが、細かなニュアンスや文化的背景はやはり人間にしか感じ取れません。特に重要な場面ほど、人による確認や判断が必要になります。」

 

◆◆◆ 中国政府奨学金留学生としての留学が開いた外交官の夢 ◆◆◆

語学の達人である岡田大使は、大学3年生のときに中国政府による奨学金制度の選考に合格し、大連外国語学院(現・大連外国語大学)に留学する機会を得ました。

「大学で中国語を学ぶうちに、実際に中国で学びたいという気持ちが強くなりました。ただ、私の家庭は父が早くに他界したため、経済的に余裕がありませんでした。中国政府奨学金留学生として、留学の夢が実現できたのです。これが私にとって初めての中国であり、大連において生きた中国語と文化に触れた経験は、私の人生にとって大きな転機となりました。」


1987年 大連外国語学院に留学当時の岡田大使(左)

これまで中国語はあくまで「好きなこと」でしかなかったのが、留学から帰国後は「中国語を活かした仕事がしたい」という思いがより一層強まり、中国語を活かせる仕事として、外交官を志すようになります。そして1990年、外務省へ入省し、以来35年あまりにわたり、中国を中心に外交の最前線で活躍し続けています。

外交官としての長いキャリアの中で、特に印象に残っている出来事について尋ねると、岡田大使は20年以上前の北京勤務時代の出来事を振り返ります。「当時、日本政府は中国の貧困地域に対し、無償資金協力を通じて学校や病院、井戸などの整備を支援していました。ある村で井戸が完成し、その完成式に赴いたところ、80歳を超えるであろう地元のおばあさんが、『これまで水汲みのために何キロも歩いていた生活から解放される。日本政府に心から感謝している。』と涙ながらに私の手を握ってくれたのです。」

この体験を通して、国と国との関係は、つまるところ人と人との信頼や感謝の気持ちの積み重ねで成り立っているのだと強く実感したと岡田大使は語ります。  

 

◆◆◆ 縁あれば千里来たりて相会する ◆◆◆

今年、中智が主催した新春賀詞交歓会で、『「人」日系企業経営者&管理者語録』の発表式が行われ、語録には岡田大使から特別にメッセージを寄稿いただきました。



『「人」日系企業経営者&管理者語録』の発表式


岡田大使の特別メッセージ

メッセージに込めた想いについて尋ねると、「私のこれまでの人生を振り返ると、人とのつながりの大切さを強く感じます。人間は一人では生きていけません。私自身も親や先生、そして社会の多くの人々に支えられて今日まで生きてきました。このため、常に感謝の気持ちを忘れないよう心がけています。メッセージに記した、『縁あれば千里来たりて相会する。縁なくば対面にいれど相逢わず。』という言葉には、人との出会いは偶然ではなく、すべてが貴重な縁であるという意味が込められています。同じ場所にいても縁がなければ知り合うことはできませんが、逆にどれだけ離れていても、縁があれば出会うことができます。だからこそ、出会った人とのご縁を大切にし、常に感謝の心を持って人と接していきたいのです。」と岡田大使は情熱的に語りました。


 

◆◆◆ 異文化は悩むものではなく、気づくもの ◆◆◆

中国で生活する日本人駐在員から、文化や習慣の違いに戸惑う声が寄せられることも多い。岡田大使は「これまで異文化で困ったことはありませんが、文化の違いを感じたことはあります。」とした上で、こう語ります。

「例えば日本では、誰かに食事をご馳走になれば“ごちそうさまでした”と翌日お礼を述べますが、中国ではあまり言いません。中国には、言葉でお礼を言う替わりに、行動でお返しする文化があります。」

また、日本でよく使われる返信用封筒に切手を貼る習慣も、中国の方からは「自分は切手代も払えないと思われているのか」と受け取られたことがあったといいます。

最初は戸惑いを感じたものの、そこには決して悪意はなく、率直に理由を聞き、理解しようとする姿勢があれば、おのずと誤解は解けると、岡田大使は語ります。


 

◆◆◆ 中国企業から、日本企業の「人間本位の経営」への関心が高まる ◆◆◆

岡田大使は、日頃から日系企業だけでなく、中国企業の経営者とも頻繁に交流しています。その中で印象的なのは、中国企業の日本への関心が年々高まっているという点です。

「最近は特に、中国の方々の日本に対する関心が高まっているのを実感しています。」と岡田大使は語ります。

「たとえば、在上海日本国総領事館が発給する査証(ビザ)の数は、全世界にある日本の在外公館の中で最も多い数です。2024年には新型コロナ前にあたる2019年の98%に達しました。2025年はさらに増え、コロナ前の水準を上回るペースで推移しています。」

観光だけでなくビジネス分野においても、中国側の日本への注目度が高まっています。特に注目されているのが、日本企業が長年培ってきた、人を大切にする経営です。「中国企業の方々が関心を示すのは、社員食堂やレクリエーションの仕組みなど、社員に対する配慮です。日本企業のこうした経営理念を学びたいという声をよく聞きます。」

岡田大使の言葉からは、日中双方の企業が互いの良さを認め合い、未来に向けて協力し合おうとする前向きな空気が伝わってきました。


 

◆◆◆ 多忙な中、趣味の写真撮影を通じて“リフレッシュ” ◆◆◆

上海に赴任してから8か月、多忙な日々を送る岡田大使は、趣味の写真撮影を通じて“リフレッシュ”しています。

岡田大使が本格的に写真撮影を始めたきっかけは北京勤務時代に遡ります。写真の腕前がプロ級だった上司の影響を受け、内モンゴルで見た日の出や夕日に心を打たれたことから、写真の世界に引き込まれたといいます。

以来、時間を見つけては撮影に出かけています。特に日の出の撮影には強い思い入れがあり、撮影前日は大好きなお酒を控え、夜8時には就寝、午前1時には起床するという気合の入れよう。「すべての煩悩を忘れられる至福の時間」と語るように、岡田大使にとって写真撮影はかけがえのない“リフレッシュ”の手段となっています。


岡田大使の撮影作品
江蘇省南通市晵東市の長江河口は、江蘇省で最も早く日の出を見ることが出来る。

人と人との付き合いや意見を交わすうえでも、信頼はとても大切です。信頼関係があれば、相手の立場に立って考えることができるようになり、相互理解が進みます。



2025年1月7日、中智日本企業倶楽部・智櫻会一行が
在上海日本国総領事館の岡田勝総領事・大使を表敬訪問

 

◆◆◆ 日中関係と在中国の日系企業の更なる発展を心より願う ◆◆◆

インタビューの最後に、岡田大使に在中国の日系企業に対するメッセージをお願いすると、岡田大使は、熱意溢れる中国語で、皆様に対して心から祝福の言葉を贈られました。

「日本と中国は、一衣帯水の隣国です。隣国であるがゆえに、我々の間に様々な摩擦や意見の相違があるのも当然です。今、最も重要なことは、両国国民が相互の往来を増やし、何度も会い、交流を深めることです。1972年の日中共同声明では、『日中両国間には社会制度の相違があるにもかかわらず、両国は、平和友好関係を樹立すべきであり、また、樹立することが可能である。』と言い切っています。現在、我々は戦略的互恵関係を包括的に推進するという大きな方向性を確認しており、私は、経済・文化・スポーツ・青少年・友好都市などあらゆる分野での交流が、両国の関係をさらに促進することを心から願っています。中でも、経済関係は両国関係の非常に重要な構成部分です。私ども総領事館としても、引き続き日系企業の中国国内での活動を全面的に後押ししてきたいと考えています。」

中智の感想

インタビューを通じて岡田大使が一貫して大切にされている「初心」「信頼」と「使命」の三つの柱を強く感じました。中国語への情熱を抱いた原点、人と人との交流における誠実さと信頼、そして日中友好を促進しようとする強い使命感---心からあふれるその思いと、インタビュー後、小雨の降る中で、手を振りながら私たちを見送ってくださった姿は、今も深く心に刻まれています。

中智日本企業倶楽部・智櫻会は、今後も在中国の日系企業の発展を力強く支援し、日中友好の懸け橋となるべく、いっそう努力を重ねてまいります。


※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」