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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『養楽多(中国)投資有限公司 松浦 祐司 董事特別顧問 インタビュー!』2025/6/27

<strong><font style="font-size:19px">中智日本企業倶楽部・智櫻会 経営者インタビュー 第109回 </font></strong>

中智日本企業倶楽部・智櫻会 経営者インタビュー 第109回

<strong><font style="font-size:19px">中国の「百年企業」を目指して、現地化と組織改革の取り組み </font></strong>

中国の「百年企業」を目指して、現地化と組織改革の取り組み

<strong><font style="font-size:19px">——養楽多(中国)投資有限公司 松浦 祐司 董事特別顧問</font></strong>

——養楽多(中国)投資有限公司 松浦 祐司 董事特別顧問


 
養楽多(中国)投資有限公司
松浦 祐司 董事特別顧問

早稲田大学卒業後、石油開発会社に入社し、米国および中国深圳での駐在を経験。中国での経験が評価され、2003年に株式会社ヤクルトに入社。同年に広州益力多乳品有限公司上海分公司にて、「養楽多」ブランドの販売立ち上げに携わる。2005年には上海益力多乳品有限公司の管理部長、2006年には養楽多(中国)投資有限公司(以下、中国ヤクルト)の管理本部長に就任。2021年6月から同社の董事総経理として経営を担い、2025年4月より董事特別顧問に就任し現在に至る。

ヤクルトは2002年に広州益力多乳品有限公司(広州ヤクルト)を設立し、広州で乳酸菌飲料「益力多」の生産・販売を開始しました。翌2003年には上海で「養楽多」の販売を開始し、2005年には中国地区(港澳台地区を除く。以下同様)全域の事業統括および投資管理を目的とする中国ヤクルトを上海に設立しました。現在では、中国地区に6つの工場と53の分公司を展開するまでに成長しています。ヤクルトは、常に品質への追求を徹底し、「健康・安全・安心・新鮮」を基準に、「中国の人々の腸の健康を守ること」を使命としています。今回は、中国ヤクルトの創業前から20年以上にわたり経営管理の中核を担ってきた松浦祐司董事特別顧問に、成長期から安定期、そして現在の大きな転換期に至るまで、どのように変化に対応してきたのか、人的資源をどう育て、活用してきたのか、松浦董事特別顧問の経験と信念を交えて、お話を伺いました。

 

◆◆◆ 成長期から転換期へ、時代に合わせたマーケティング戦略の転換 ◆◆◆

松浦氏が中国に赴任した2003年から2018年頃までは、ヤクルト中国法人にとってまさに「成長の時代」でした。2003年に、たった6人でスタートした会社は、年々拠点数を増やし、全国展開へと急速に拡大します。販売の中心はスーパーマーケットであり、テレビCMなどを通じてブランド認知も徐々に全国へ広がっていきました。

ところが、新型コロナの流行が、従来のビジネスモデルに大きな影響を与えます。 「コロナ禍を経て、外部環境は一変しました。特に人々の消費行動を根本から変えてしまいました。主力販路である小売店の来客が減少し、消費者がECに流れたことで、従来のビジネスモデルが影響を受けました。オンライン販売は必須ながら、ディスカウントプラットフォーム化する傾向が強く、安易な参入はブランド価値を損なうことになります。価格破壊は避けつつ、デジタル時代に適合した販路をどう構築するか。これが最大の課題の一つとなっています」

こうした課題に対応するため、中国ヤクルトでは「商品多角化」と新たなマーケティング戦略に取り組んでいます。

「中国地区進出以来20年以上、『原味(オリジナル)』と『低糖』(2016年~)の2品種に絞り込んでいた商品戦略を大きく転換しました。2023年に乳酸菌数を100億個から一気に500億個まで増やした高機能版『500億低糖』を投入し、2024年には『ピーチ風味』を、そして2025年には『マスカット風味』を相次いでリリースしました。マーケティング戦略では、特にデジタル・SNS分野において、若手社員が中心となった新商品PRや、一般消費者を巻き込んだDIY飲料企画など、新しいマーケティングの試みも活発化しています」と松浦氏は語ります。


 

◆◆◆ 徹底した現地化と全国ローテーション制度の確立 ◆◆◆

こうした急激な環境変化に耐えうる組織を支えるのは、何よりも人材です。松浦氏は、会社の成長段階に応じて、求める人材像も変化してきたと語ります。「創業期には、指示された業務を確実に遂行できる人が求められましたが、現在はむしろ、新たなことを自ら考え、実行できる力が重視されるようになっています」

それを実現するため、イノベーション創出や戦略的思考を促す研修を強化し、社内の風土改革にも着手しています。「当社では『ヤクルト大学』というオンライン研修制度を設けています。これは中国法人独自のオンライン研修プラットフォームで、単なるスキル向上を目的としたものではなく、昇進要件にも組み込まれており、全社員の学習意欲を高めています。同時にオフライン研修も用意されており、管理職以上には戦略的思考や問題解決力を向上させる機会を提供しています」

中国ヤクルトが全国の支店・工場を統括する上で特徴的なのが支店長の全国ローテーション制度です。「これは『土着化による不正』を防ぐと同時に、支店経営管理のプロを育てる目的があります。中国現地社員は、地方への異動を嫌がる傾向が強いことから、うまくいくか心配がありましたが、実際に運用を開始すると、異動に対する社員の反応は意外にも前向きでした。支店長になれば本部スタッフへの道が開けるとともに賃金アップになるため、家庭を持つ35歳以上の社員でも、実に8~9割が『やりたい』と手を挙げてくれます」現地社員の成長意欲の高さを実感したと松浦氏は語ります。


 

◆◆◆ 駐在員の「現地化」のため中国語の取得を義務化 ◆◆◆

多様な人材が活躍する中で、駐在員と現地社員の協働体制の強化も重要なテーマとなっています。現在、中国地区には約60人の日本籍駐在員が在籍しており、全員が幹部職です。一方、現地社員は5,000人規模にまで拡大しており、現地社員中心の経営体制が確立されています。

「全体の1%の駐在員で99%の現地社員を日本式で教育・管理するというのは無理があります。そこで徹底したのが、駐在員の『現地化』、特に中国語習得の義務化です。全駐在員に対し、赴任1年後に総経理の前で中国語によるプレゼンテーションを行うことを課しています。これが最も学習を促進します」

社内の会議は基本的に中国語で行われ、駐在員の中国語レベルは全体的に高いといいます。中国籍社員の採用にあたっては、日本語能力は必須条件ではなく、あくまで業務能力が評価基準となっていると松浦氏は説明します。「以前は日本語が話せれば幹部になりやすいという傾向もありましたが、日本語能力と業務能力は関係がありません。そこで、現地人材の真の実力を見極めるには、日本人管理者の中国語能力を高めることが必要であると気づきました」

 

◆◆◆ 人のことは最後まで追究する ◆◆◆

管理部門で20年以上のキャリアを持つ松浦氏は、中智日本企業倶楽部・智櫻会の経営者語録に寄稿したメッセージ「人のことは最後まで追求していかないとならない」という言葉の真意をこう語ります。 「人事という仕事は他の業務と異なり、明確な正解や型が存在しません。制度やルールがある財務や法務とは違い、人事は常に個々の状況や組織の発展段階、社会情勢、そして何より社員一人ひとりの個性に応じた対応が求められます。ある部署では不適合に見える社員が、別の部署で能力を発揮するケースもあります。だからこそ、人事制度の継続的な改善を重視し、PDCAサイクルのように『人』に対しても不断の見直しと対応が必要なのです」


 

◆◆◆ 進出するリスクより、進出しないリスクの方が大きい ◆◆◆

「中国市場はフィットネスセンターのようなもの」とよく語られますが、松浦氏もその見方に一理あると言います。「日本やアメリカと比べても、特に人事や労務管理がまったく違います。また、市場の動きがとにかく速く、オンラインの変化も目まぐるしい。売上を上げるのは難しく、利益を出すのはさらに難しい市場です」

この様な厳しい市場の中でも、中国で経営を続ける意義について松浦氏は、こう強調します。「中国で生き残れなければ、世界の市場の3分の1を失うことになります。進出のリスクはありますが、進出しないリスクのほうが実は大きいと考えます」

一方で、近年は中国ビジネスに精通した日本籍駐在員が着実に増加しているといいます。「10年、20年前と比べ、中国通の日本籍駐在員が増え、中国語能力も格段に上がっています。同時に中国人の方々の間にも日本への理解が進み、日中の相互理解は確実に深化していると感じます」


 

◆◆◆ 「中国で百年企業を目指す」ヤクルトの次なる挑戦 ◆◆◆

ヤクルト中国事業の立ち上げから20年以上、中国事業を率いてきた松浦氏に、今後の展望を尋ねました。「2003年の創業以来、2018年頃まで順調な成長を遂げてきましたが、現在は次の成長曲線を描くための転換期を迎えています。 ヤクルトは20年や30年で消してはならない。中国で百年企業にしなければならない。その土台にあるのが『健康で楽しい生活づくりに貢献する』という企業理念であり、これこそがヤクルトのコアバリューです。一方で、社会の変化に対応するには、先を見据えて柔軟に変化できる人材が不可欠です。社員一人ひとりが実力を発揮できるような企業文化・企業風土の整備も重要です。単一商品を単一方法で販売すればよかった高度成長期とは違い、低成長時代では、新たな発想や挑戦が企業の生命線になります。過去の成功体験にとらわれず、深く中国を理解し、最先端の知識を取り入れ、トライ&エラーを繰り返しながら、中国で新たなヤクルトのかたちを創っていきたいと考えています」

中智の感想:

松浦氏は単なる経営者ではなく、中国文化そのものを深く理解する「生活者」でもあります。中国伝統楽器である二胡を習得し、2018年には最高等級である10級の認定を取得しました。会社の忘年会や、他社の記念イベントに呼ばれて演奏するほどの腕前を持っておられます。さらに中国の映画鑑賞や歴史遺産巡りを好み、中国文化に対する関心と敬意を絶やさないその姿勢は、ビジネスにも通じており、「中国を理解せずに、中国で成功はできない」という松浦氏の言葉が印象的でした。松浦氏のように、中国を愛する中国通の企業家が、明日はさらに広い舞台で中日友好のためにそのキャリアを捧げてくださることを、心より期待しています!


※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」