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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

【特別インタビュー】伊藤忠商事株式会社 上席執行理事 東アジア総代表 三村 剛 氏2026/10/30

<strong><font style="font-size:19px">中智日本企業倶楽部・智櫻会 特別インタビュー </font></strong>

中智日本企業倶楽部・智櫻会 特別インタビュー

<strong><font style="font-size:19px">中国発の価値を世界へつなぐ共創の力 </font></strong>

中国発の価値を世界へつなぐ共創の力

<strong><font style="font-size:19px">伊藤忠商事株式会社 上席執行理事 東アジア総代表 三村 剛 氏</font></strong>

伊藤忠商事株式会社 上席執行理事 東アジア総代表 三村 剛 氏


 
伊藤忠商事株式会社 
上席執行理事 東アジア総代表 三村 剛 氏

神奈川県出身。東京理科大学で物理を専攻。1991年に伊藤忠商事入社後は繊維分野を担当。1998年から2004年に初めて中国へ赴任する。中国語がほとんどできない状態から、上海を拠点に中国各地へ足を運び、現場で市場や商習慣を学んだ。日本勤務を経て、2020年から2024年まで伊藤忠繊維貿易(中国)董事長を務め、2025年から東アジア総代表として中国事業を統括している。


伊藤忠商事株式会社は、1858年に初代伊藤忠兵衛が行商を始めたことを起源とする総合商社である。現在は世界60か国に約90の拠点を持ち、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融など幅広い分野で事業を展開している。1972年には、総合商社として初めて中国から友好商社に指定され、対中貿易を本格的に展開した。以来、中国現地企業との連携を重ねてきた同社にとって、中国は今や安価な製造拠点や巨大な消費市場にとどまらず、新しい技術やビジネスモデルを生み出し、世界へ発信する存在へと変化している。1998年の初駐在以来、中国市場の変化を見続けてきた上席執行理事・東アジア総代表の三村剛氏に、中国企業との協業、現地人材の育成、AI活用、経営者・商人としての哲学について伺った。


1972年越後社長(当時)を団長とする訪中団

 

◆◆◆ 「中国でつくり・売る」から「中国の力を世界につなぐ」へ ◆◆◆

かつて中国ビジネスの主な形は、中国で製造した安価な商品を海外へ輸出すること、あるいは海外の優れた商品を中国国内で販売することであった。しかし現在は、新しい技術やビジネスモデルが次々に生まれ、競争力のある製品やサービスを世界へ発信する段階に入っている。「今後は、こういった商品・サービス・機能を世界に向けて発信するという新たな局面に来ていると思います」と三村氏は語る。

中国は引き続き大きな消費地であると同時に、開発・生産を担う製造拠点でもあり、世界で最も重要な市場の一つである。伊藤忠商事にとっても、中国は利益面で大きな貢献を果たしている。三村氏によると、同社が重視する連結税引後利益では、日本が最大で、海外では中国が最も大きく、全体の約15%を占めるという。中国市場の重要性は、こうした数字からもうかがえる。


 

◆◆◆ 中国の技術とグローバルな事業構築力を結ぶ ◆◆◆

三村氏が注目する分野は、AI、半導体、ロボット、電気自動車(EV)、蓄電池、再生可能エネルギーなど多岐にわたる。さらに、医療機器や医薬品、バイオ、デジタルを活用した物流や電子商取引など、技術とサービスが結び付く領域にも新たな可能性が広がっている。「ただし、中国で生まれた商品や技術を、そのまま海外へ持ち出せば受け入れられるとは限りません。国や地域によって法規制や許認可、セキュリティー要件、顧客ニーズが異なり、現地に合わせた調整が必要になるからです。中国企業の技術力や開発スピードに、伊藤忠商事が持つ海外ネットワークや事業構築の経験を組み合わせ、海外展開を支援することに大きな役割があると考えています。中国企業が生み出す商品、技術、サービスを海外に展開するにあたって、我々がその間で機能を発揮できると思います」と三村氏は話す。中国企業と組み、双方の強みを生かしながら海外市場へつなぐことが、同社の目指す共創の形である。


 

◆◆◆ 輸入博を、差別化された商品との出会いの場に ◆◆◆

中国国際輸入博覧会は、商品やサービスを紹介し、新たな商談や協業の可能性を探る機会となっている。伊藤忠商事は2018年の第一回から毎年出展を続けている。「2026年の第九回輸入博では食品を中心に、Doleの果実関連商品、ソフトクリーム、抹茶、コンビニエンスストア関連、IP活用などを紹介します」。三村氏が重視するのは、商品を並べて紹介するだけでなく、その魅力を消費者や取引先に伝え、実際のビジネスにつなげることである。中国市場には多くの商品が流通しているからこそ、他社との差別化が重要になる。市場のニーズを理解し、パートナーとともに価値をつくる姿勢が、こうした取り組みを支えている。

輸入博ブースNO:8.2B3-01


2025年中国国際輸入博覧会にて中智日企倶楽部・智櫻会の代表団と
三村総代表(中央左)、上海伊藤忠商事の小野董事長兼総経理(中央右)

 

◆◆◆ 現地人材が力を発揮できる組織づくり ◆◆◆

市場の変化が速い中国では、現地を深く理解する社員が、経営や事業づくりの中心を担うことが不可欠である。三村氏は、中国人社員が能力を発揮でき、現場に近いところで判断し、実行できる組織づくりを重視している。「日本式か中国式かという二者択一ではなく、日本式経営の良い部分を生かしながら、中国の人材や職場環境に合ったマネジメントを組み合わせることが重要だと考えています」。

社員エンゲージメントについても、単に社員に好かれることが目的ではない。「会社の考えをよく理解してもらい、やりがいを持って働いてもらう。厳しくても、やりがいがある。そういうところが大事だと思います。会社の目指す方向を理解し、自分の仕事に意味を見いだせる環境が、組織の力につながると考えています」。伊藤忠商事には30年以上勤務する中国人社員もおり、離職率は低いという。社員が安心して長く働きながら、継続して新たな挑戦を続けられるようにすることも、現地人材を生かすうえで大切な視点となっている。


「挑戦」日系企業経営者&管理者語録に寄稿(47-48ページ)


 

◆◆◆ AIを個人の道具から組織全体の力へ ◆◆◆

伊藤忠商事では、AIの活用を、組織全体に広げる取り組みを進めている。三村氏によると、業務でのAIの活用に取り組み始めた当初、AIを全く使用したことのない社員が25%程度もいたが、研修を継続した結果、1年後にはAI使用率は100%に達し、利用頻度も向上している。「個人の業務効率化ツールとして使うだけではもったいなく、それをいかに会社全体や組織の業務変革に活用していけるかが重要です」と三村氏は話す。

個々の社員による利用を、新規事業の検討や営業活動の効率化など、会社全体の成果へとつなげることが次の課題である。三村氏自身も日常的にAIを活用しているという。AIが示す情報や提案をそのまま採用するのではなく、課題を見極め、最終的に判断するのは人間である。AIやロボットの導入自体を目的にせず、人がより付加価値の高い仕事に取り組めるよう、実際の業務変革につなげていくことが重要になる。


 

◆◆◆ 「三方よし」の理念で持続可能な発展に貢献する ◆◆◆

伊藤忠商事の企業理念には、「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」がある。取引する双方だけでなく、社会にも利益をもたらすという考え方は、ESGやサステナビリティーの取り組みにも通じている。

「売り手、買い手、社会。この3つがすべて良くならないと、その商売は続きません。例えば、グリーンエネルギーは通常のエネルギーよりコストが高くなる場合もありますが、環境負荷の低減や将来の持続性を踏まえ、顧客にその意義を理解してもらいながら進めています。そのほか、衣料品、プラスチック、コーヒー残渣、スマートフォンなどの回収・リサイクル・修理など、再利用につながる取り組みも行っています。湖北省の抹茶プロジェクトも、現地パートナーと連携し、農村振興と事業成長の両立を目指す取り組みの一つです。また、社内でも全社員を対象にしたサステナビリティ講座や寄贈図書の募集、健康ウォーキングと歩数に応じた植林などにも取り組んでいます。理念を行動につなげるため、各組織が行動計画を作り、社員一人ひとりが意識することも大切です」と三村氏は話す。

短期的な利益だけで判断せず、顧客、社員、取引先、社会が長く発展できるかを考えることが、持続可能なビジネスの基盤になる。事業の成長と社会への貢献を切り離さずに捉える姿勢がうかがえる。


2023年、上海伊藤忠商事が雲南省大姚県曇華中学小学部に図書500冊を寄贈

 

◆◆◆ 現場で確かめ、変化のなかに機会を見つける ◆◆◆

三村氏は、大学で物理を専攻した後、総合商社の道を選んだ。「学生時代はヨット部に所属し、ヨットに明け暮れていました。卒業後の進路を考えたとき、研究を続けるよりも、自分でビジネスをつくり、海外と関わりながら仕事をしたいという思いが強くなったからです。そうして選んだのが、総合商社の道でした。入社後は繊維部門を担当し、東京や大阪で勤務しました。そして1998年に、初めての中国駐在として上海に赴任しました。当時は中国語がほとんどできなかったのですが、上海を拠点にハルビン、大連、青島、北京、天津、広州、深圳など、さまざまな都市へ出張しました。各地を訪れ、現場に触れるなかで、中国市場について学んでいきました」。


大学時代に所属ていたヨット部


大学で実験に取り組む三村氏

初めて中国に赴任してから約30年、三村氏は中国の変化を現場で見続けてきた。その間に大きく変わったのは、市場や技術だけではない。「長年中国市場を見続けてきて、人々の生活や価値観、社会インフラ、商習慣も大きく変わったと実感しています。スマートフォンを通じたサービスやデリバリーが生活に深く浸透し、中国発のブランドも存在感を高めています。かつては海外の商品や技術を取り入れる側という印象が強かった中国が、今では自ら改良し、新しいものを生み出して、世界へ発信する存在へと変わってきています」。


               伊藤忠商事入社当時                2004年の帰任時、現地社員たちとの送別会

 

◆◆◆ 現場主義の商人哲学 ◆◆◆

三村氏にとって商人とは、世の中の変化から機会を見つけ、異なる強みを持つ人や企業を結び付ける存在だ。「数字や資料だけで判断するのではなく、自分が現場で見て、お客様と話をして、マーケットを見て、自らの目で確かめたうえで判断して進める。これが重要です」。現場に足を運び、相手の話を聞き、自ら確かめることが、三村氏の商人哲学の根幹となっている。中国で生まれる技術やビジネスモデル、現地で力を発揮する人材を世界の市場や社会の課題と結び付け、新たな価値を生み出す。そこに、中国発の価値を世界へつなぐ共創型ビジネスの可能性を見据えている。


インタビューの最後に、半世紀以上にわたり伊藤忠商事を支えてきた中国のパートナー、お客様、そして全社員への感謝と率直な思いを三村総代表に中国語で語っていただいた。

インタビュー動画の内容を、テキスト版として下記に掲載いたします:

半世紀以上にわたり伊藤忠を支えてくださった中国のパートナー、お客様、社員の皆さんに、心から感謝申し上げます。私たちの歩みは、皆さんとの長年の信頼に支えられてきました。私自身も、中国との関わりを通じて、変化に柔軟に向き合い、新しいものを積極的に取り入れる姿勢を学びました。変化の大きい時代だからこそ、直接会い、話を聞き、理解を深めることが大切だと感じています。仕事や文化を通じた交流を重ね、立場や世代を問わず、皆さんとのつながりを深めていければと思います。伊藤忠も、中国に根ざす企業の一員として、皆さんの声に耳を傾け、暮らしに役立つ仕事を積み重ね、これからも信頼できるパートナーでありたいと考えています。

これから伊藤忠が中国で目指す価値創造は、中国を単に「売る市場」「つくる拠点」として捉えるのではなく、中国企業や人材と共に新しい事業を生み出し、世界へ展開することです。AI、ロボット、グリーン、健康、消費などの成長分野で、中国の技術力とスピード、伊藤忠の事業構築力とグローバルネットワークを結び付けたいと考えています。私自身は、東アジアの社員が部門や国・地域の壁を越えて挑戦できる環境をつくり、現地人材が経営の中核を担う組織へ進化させたいと思います。「互利合作、共同発展」の精神で、日中双方と社会にとって持続的な価値を生む仕事に挑戦していきます。

中智の感想:

三村総代表のお話からは、中国市場を単なる生産拠点や販売先としてではなく、新しい技術やビジネスモデルが生まれる価値創造の場として捉える視点が伝わってきました。中国企業の技術力やスピードと、伊藤忠商事のグローバルネットワークや事業構築力を組み合わせる考え方は、在中日系企業が中国で事業を進めるうえでも示唆に富んでいます。また、現地人材を経営の主役として育て、AIを組織全体で活用しながら、人と人との信頼を重視する姿勢も印象的でした。

物理の専攻やヨット競技を通じて培われた対応力を活かし、現場で市場の変化を捉え、互いの強みを活かしながら持続的な価値を創り出す。その重要性を改めて考える機会となりました。三村総代表の人間的な魅力と鋭い洞察力にも深く感銘を受け、多くの学びを得ました。

東方明珠タワーに最も近い「総代表室」から、三村総代表は上海の変化をいち早く感じ取り、中国の発展の高みを見つめ続けています。中智新春会の大型パネルディスカッションでの発信も、日系企業と中国企業がともに世界へ羽ばたく道を切り開く可能性を示すものでした。三村総代表のお話を通じて、中国発の価値を世界へつなぐ共創の力を改めて感じました。


2026年中智新春会の大型パネルディスカッションに登壇する三村氏



※「会社名、役職名はインタビュー記事発表時の名称です」