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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第54回

『上海伊藤忠商事有限公司 水谷 秀文 董事総経理 インタビュー!』2018/9/26

访谈(中文)


 

上海伊藤忠商事有限公司
 水谷 秀文 董事総経理


  ●  世界中で中国企業とビジネスできる会社に

  ●  異文化理解の肝は、違いを認め相手をリスペクトすること

 

(弊社インタビュアー)(以下中智)

1858年に初代伊藤忠兵衛が麻布の行商で創業したことにはじまり、今年で160年を迎える伊藤忠商事。日中国交正常化前に大手総合商社としては初めて日中友好商社に指定され、日本企業の先陣を切ってビジネスを切り拓き、「中国最強商社」と呼ばれるまでに中国ビジネスで成功しています。そこで今回は、中国ビジネスと人材について、伊藤忠商事東アジア総代表補佐兼上海伊藤忠商事有限公司 董事総経理の水谷 秀文氏にインタビューしました。

 

◆◆◆  近江の行商から中国最強商社へ   ◆◆◆

(中智)

本社である伊藤忠商事株式会社の沿革と業務内容をご紹介下さい。

(水谷総経理)

伊藤忠商事は、1858年に滋賀県(近江)出身の初代伊藤忠兵衛が始めた持ち帰り業が発祥です。持ち帰り業とは、ほかの国々に得意場(商圏)を持ち、定期的に回って商売する事業形態で、当時の近江商人は、大阪や名古屋等の大都市の産物を地方へ持ち下り、地方の産物を仕入れて大都市で売りさばくという方法をとっていました。

その後、変遷を経て1949年に伊藤忠商事株式会社を設立し、現在の形態となりました。現在は世界63ヶ国に約110の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しています。

(中智)

総合商社は日本独特のビジネス形態だと聞いており、日本人でもなかなか理解しづらいビジネスだと思います。総合商社のビジネスについて簡単に教えてください。

(水谷総経理)

総合商社のビジネスのアプローチは大きく分けて、トレードと事業投資の二つがあります。トレードの継続・拡大により、取引先との信頼関係が生まれて事業投資へ発展します。また、事業投資をきっかけにビジネスニーズを発見し、新たなトレードへ発展することもあります。この二つのアプローチの相乗効果を活かしてビジネスの拡大を目指すのが総合商社のビジネスモデルです。

その強みは、①新たなビジネスチャンスを探し出す情報収集能力、②豊富な資金を活用しあらゆるビジネスの可能性を拡大する力、③グローバルな物流網と多様な販路を活用し商品供給に積極的に関わる力、④マーケティングを通して既存ブランドの価値向上を行う力などが考えられます。

 

◆◆◆  総合商社で最初の友好商社に指定される  ◆◆◆

(中智)

御社は「中国最強商社」と言われていますが、その中国事業の沿革についてご紹介下さい。

(水谷総経理)

弊社と中国との本格的な貿易は日中国交正常化を実現したその三か月前から始まりました。1972年に総合商社で初めて、中国から友好商社に指定され、その後の日中友好、日中貿易の推進に努めました。

1979年に北京に初めて駐在員事務所を開設、92年に上海に現地法人を設立して本格的に中国国内でのビジネスを開始しました。現在、中国大陸での拠点数は13カ所、駐在員数は約170名、出資している会社や工場を含め総従業員数は12,700名となっています。

(中智)

御社は大手総合商社の中でいち早く中国に進出されています。なぜ中国だったのでしょうか。

(水谷総経理)

当時、一流商社にとっては欧米が最優先であり、中国はあまり注目されていませんでしたが、当社は中国の将来性を確信していました。実は不幸な戦争の起る前、上海は東京よりも都会でした。バンドにある上海大厦(旧ブロードウェイマンション)に代表される様な高層建築は、当時の東京にはありませんでした。

当社は1906年に初めて上海に駐在員を派遣しており、最盛期には上海だけで150名、武漢にも50名の駐在員がいたと聞いています。

(中智)

90年代、中国人にとって伊藤忠商事に入社することは憧れで、入社できるのは1000人に1人だったと聞いています。弊社の会員企業にも、伊藤忠商事出身の中国人経営層の方々が活躍されており、伊藤忠出身ということを自分の経歴における誇りにしておられます。

(水谷総経理)

そう言っていただけると、大変有り難く思います。確かに、当時に入社して現在も残っている社員、転職した人、独立して社長になっている人など様々ですが、皆さん優秀な方々ばかりです。あの当時は、この会社で学んでもらい中国全土に広がって欲しいと願い、よく黄浦軍校に例えていました。当時から「かせぐ、けずる、ふせぐ」の精神を商いの三原則とし、一人の商社マンとして無数の使命感を持って働いていました。

(中智)

現在、中国ではどの様な事業を展開されていますか。

(水谷総経理)

中国においても、貿易と事業投資の二つの事業を柱に展開しています。貿易事業では、繊維と化学品の取扱量が最も多く、他にパルプ、金属や食品等を扱っています。中国は紙原料の世界最大の輸入国で、当社が世界に所有する森林から中国へ安定的にパルプを供給しています。

事業投資では、直接的には杉杉、山東如意、波司登などの中国大手民間企業や中央企業である中信集団と多様な現地企業と資本提携をしています。間接的にはファミリーマート、ユニチャーム等とも出資関係があります。

(中智)

ファミリーマート、ユニチャーム等は中国人で知らない人がいないほど有名なブランドですが、伊藤忠商事が出資していることは知りませんでした。

(水谷総経理)

最近でこそ、日本では広告宣伝を行うようになり、伊藤忠商事の名前は一般の方々にも知られるようになりましたが、本来商社は黒子の様な存在だと考えています。私は若い社員に対し、よくゴルフに例えて話します。ゴルフの大会には、選手とキャディの2人一組で参加します。球を打つのは選手ですが、キャディもゴルフの事をよく理解しており、風の影響、芝目、選手の健康状態等を的確に判断してアドバイスを行い、選手を勝利に導きます。この様にゴルフではキャディの役割は非常に重要ですが、あくまで選手がメインでキャディの名前は誰も知りません。

我々の商売でいうと、メーカーが選手で商社がキャディです。メーカーの商品を見て、この値段なら売れる、どこの国なら売れるか等を考えるのは、商社にしかできない役割だと思います。メーカーの方々がこの様な事を考えていると研究開発に専念できません。

 

◆◆◆  中国残留孤児の衝撃から中国に関心を持つ  ◆◆◆

(中智)

水谷総経理は大学で中国語を専攻されたそうですが、中国に興味を持つきっかけはあったのでしょうか。

(水谷総経理)

日本の敗戦後の混乱により、中国の東北地方には、多くの日本人の子どもたちが残留孤児として取り残されました。日中国交正常化後に、日本の肉親捜しが開始され、日中で生き別れになった親子や兄弟姉妹が再会し、涙を流して抱き合う姿がテレビや新聞で大々的に報道されるのを見て感動し、貧しい中で日本人の孤児を育ててくれた中国という国に強い関心を抱きました。

(中智)

水谷総経理は大学卒業後、伊藤忠商事に入社され長年中国で活躍されてきました。最近、駐在員の間で異文化コミュニケーションが注目されていますが、どうすれば中国人社員とうまくコミュニケーションをとることができますか。

(水谷総経理)

先ほど中国残留孤児の話をしましたが、同じ日本人の兄弟でも育った環境が異なれば表情や姿が全く違うようになります。異文化コミュニケーションの肝は、まずお互い違うんだという事を認識し、相手をリスペクトし関心を持つことだと思います。

(中智)

在中日系企業に求められる中国人社員像についてどの様に考えますか。

(水谷総経理)

日系企業で働いている中国人は日本語がうまく、日本人の勤勉さ、チームワークに憧れている人が多いと思います。しかし中国人としてのプライドを忘れずに日系企業で働いて欲しいと思います。例えば、商談において中国人の発想で対応すべきところを日本人のような曖昧な対応をしたり、また話し方も日本語の様な中国語を話したりしてしまい、結局は商談がまとまらなかったというケースを見てきました。ここは中国なのだから、中国の老百姓に通用する意識を持ち、中国人の良いところを大切にして欲しいですね。

(中智)

2015年に「中国語人材1000人育成プロジェクト」を開始し、中国語の話せる社員の数が1000人を超え、今年の4月に記念集会を開催されました。中国の駐在員数は170人で、しかも将来的に減らしていく傾向にあると聞いています。にもかかわらず、これほど多くの中国語人材を育成する意図は何でしょうか。

(水谷総経理)

確かに、中国法人では優秀な中国人人材が育ち、駐在員の数は徐々に減らしていく予定です。しかし現在、中国企業や中国人は世界中でビジネスを展開しており、中国以外の海外で中国企業とビジネスをする機会がますます増えていくでしょう。海外では英語を共通語にビジネスをする事になりますが、そこで中国語が話せれば、お互いの距離がうんと縮まります。そうすると、世界中で中国とビジネスができる会社になります。現に外国で中国企業と協力してビジネスをするケースも増えています。

 

◆◆◆  中国の老百姓が必要とするものに関わっていれば、商売が減ることはない  ◆◆◆

(中智)

最後に、今後のビジネスの展望についてお聞かせください。

(水谷総経理)

中国の消費者が安全安心だな、美味しいなと思う商品に必ず伊藤忠商事が関わっている、そのような知る人ぞ知る存在を目指しています。中国の老百姓が必要とするものに関わっていれば、伊藤忠商事の商売が減ることはない、それどころか益々増えるものと確信しています。

将来的には、医療、教育、スポーツ、レジャーなどに注目しています。30数年前、私が初めて中国に来た頃は、動くとお腹が減るからと言って、スポーツをする人なんていませんでした(笑い)。ところが今では、世紀公園に行くと皆さんジョギングで汗を流しています。中国も豊かになり、健康やレジャーへの関心が高まっています。

(中智)

我々が気づかないだけで、実は伊藤忠商事こそが最も中国人の消費生活に深くかかわっている日系企業なのかも知れません。その中国最強商社の求める中国人社員像、中国を通じで世界とビジネスをするという発想は非常に新鮮に感じました。この度はご多忙なスケジュールの中、長時間のインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

 

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 【水谷 秀文(みずたに ひでふみ) 氏のプロフィール】

東アジア総代表補佐兼上海伊藤忠商事有限公司及び南京分公司 董事総経理
大阪外国語大学中国語学科卒、85年伊藤忠商事株式会社に入社し繊維製品貿易部に配属。86年に海外研修生として北京大学に留学、93年上海事務所、03年伊藤忠繊維(上海)有限公司駐在を経て、10年に伊藤忠繊維貿易(中国)有限公司総経理兼中国繊維グループ、14年には中国繊維グループ長兼伊藤忠繊維貿易(中国)董事長、15年からは東アジア総代表補佐(華東担当)兼上海伊藤忠有限公司総経理に就任、16年に上海伊藤忠商事南京分公司総経理を兼任し現在に至る。

 

水谷総経理インタビュー風景
水谷 秀文 董事総経理1

中智上海単総経理との記念写真
水谷 秀文 董事総経理2

  
 中智上海が総領事公邸での合影
水谷 秀文 董事総経理3

中智新春会ご挨拶風景
中智との記念写真

  


商いの三原則:かせぐ


けずる


ふせぐ