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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第57回

『資生堂中国 藤原 憲太郎 CEO インタビュー!』2019/1/31


 

資生堂中国
藤原 憲太郎 CEO


  ● 上海を日本、米国と並ぶイノベーションの拠点に


  ● 外国人社員とうまく働くには、目的を明確にすることが重要

 

(弊社インタビュアー)(以下中智)

1872年に東京銀座で創業し、147年の歴史があり、100年以上前から美白化粧品や日焼け止めなど、先進的な価値を提供し続けている資生堂。中国には1981年と比較的早く進出し、順調に業績を伸ばしてきました。一時期、中国市場で苦戦が伝えられましたが2015年に藤原 憲太郎氏が中国CEOに就任し、重要な改革に着手されました。現在では、中国の若い女性を中心に高い支持を受けており業績も順調に伸びています。そこで今回は、中国資生堂CEOの藤原憲太郎氏に中国ビジネスとグローバル人材育成の取り組みについてインタビューしました。

【藤原 憲太郎(ふじわら けんたろう) 氏のプロフィール】

資生堂中国(地域本社)CEO

大学卒業後、91年資生堂に入社し営業を担当、その後、会社の研修制度によりドイツで研修を受ける。帰国後は主に海外事業を担当し、国際事業部、フランス駐在、韓国資生堂社長を経て、15年から中国CEOに就任し現在に至る。

 

◆◆◆  資生堂の社名は中国古典の『易経』に由来  ◆◆◆

(中智)

資生堂グループの沿革をご紹介下さい。

(藤原CEO)

資生堂の社名は、中国古典の『易経』にある「至哉坤元 万物資生」から来ています。西洋の最先端の薬学をベースに興す一方で、社名は東洋哲学から命名するという、西洋の科学と東洋の英知を融合した先取りの気質が、資生堂の成り立ちです。

資生堂は、1872年に福原有信が日本初の民間調剤薬局として東京銀座で創業したのが始まりです。1897年に化粧品業界へ進出し、「オイデルミン」を発売、1902年には日本初のソーダ水、アイスクリームの製造販売を開始、1919年には現存する日本最古の画廊である資生堂ギャラリーを開設するなど、創業当時からかなりイノベーティブな会社でした。


(中智)

「オイデルミン」は今でも販売されていますが、120年以上もの歴史があるのですね。

(藤原CEO)

そのほか、美白化粧品や日焼け止めも100年前から発売しており、当時から様々な新しい化粧の価値を提案してきました。

(中智)

グループの事業内容について教えて下さい。

(藤原CEO)

全世界で約120の国と地域に展開し、従業員数は約4万6000名、生産拠点は11カ所、研究開発拠点は7カ所となっています。2017年度の実績では、マーケットシェアは日本で1位、グローバルでは6位であり、売り上げ全体に占める海外比率は約57%と過半数に達しています。商品は大きく分けて高級化粧品のプレステージと手ごろな価格帯のコスメティクスやパーソナルケアを展開しています。

 

◆◆◆  上海をイノベーションのグローバル拠点に  ◆◆◆

(中智)

中国には1981年と比較的早い時期に進出されましたが、進出当初から経営は順調でしたか。

(藤原CEO)

中国事業は、1981年の進出から38年の歴史があり、大きく4つのフェーズに分けることができます。進出当時、外資メーカーとしては先進だったと思いますが、中国発の化粧品である「オプレ」を開発して着実に事業を伸ばしてゆきました。続く04年からは、コスメティックストアを地方に出店するチェーンストアビジネスを展開して大きく売上げをのばしました。

ところが、11年から業績が低迷しました。外部環境の原因だけではなく、これまでの成功体験に対する慢心から、急激に変化する市場やお客様の気持ちの変化に応えることが出来なかったのだと反省しました。そこで15年から過去の負債を清算すべく改革に着手し、おかげさまで業績は回復傾向にあります。

(中智)

当時の中国事業の苦戦は、日本でも報道されていました。そして15年から藤原氏が中国CEOに就任して改革に着手され、特に高級化粧品の売り上げが好調で業績を伸ばしているそうですが、現状と今後の成長戦略はどの様に考えていますか。

(藤原CEO)

15年からの3年間は、これまでの負債を清算し、構造改革とチャネルの整理を行いつつ、お客様のトレンドをしっかり捉え、積極的な投資を行ってきました。近年お客様の所得が急激に伸びていることから、投資もプレステージに大きくシフトさせることで、他の分野をはるかに上回る成長を実現しました。今後については、まだ導入できていないブランドがあるので、導入していきたいと考えています。また、中国のお客様を見据えたローカルブランドは当社の強みであり、将来的にはこれら中国生まれのブランドを海外に展開できるよう育てていきたいと考えています。そのほか、Eコマースへの投資も積極的に行っています。

(中智)

今年の1月1日付で「中国事業創新投資室」(イノベーションセンター)を上海に設立されましたが、これはどの様な役割を担っているのでしょうか。

(藤原CEO)

中国は、過去に世界の工場と言われ、現在は世界の市場と言われています。そしてこれからは、世界に価値を発信する市場になっていくものと確信しています。そこで、中国から世界に向けて価値を発信すべく、今年イノベーションセンターを上海に設立しました。中国では若い人たちを中心に多くの新しいアイデアにあふれています。このセンターでは、既存の事業をイノベートするだけではなく、彼らと一緒に新しいビジネスやアイデアを見つけ、資金援助を含め様々なサポートを行い育てていこうとしています。

さらに中国国内だけではなく、既に設立しているアメリカや日本のセンターと連携してイノベーションを起こす成長のドライバーになってくれることを期待しています。



上海オフィス移転式典

(中智)

資生堂の化粧品は中国の消費者からどの様なイメージを持たれていると思いますか。

(藤原CEO)

当社化粧品のイメージについては、品質や商品に対する信頼、高い技術力という声をお客様から寄せられています。また、中国市場では他地域と比べて若いお客様が多いのが特徴的です。技術に関して、国際化粧品技術者連盟(略称IFSCC)の研究発表大会において合計26回の受賞を誇り、2018年まで7大会連続で最優秀賞を受賞中で、技術力の高さが証明されているものと自負しています。


(中智)

弊社で調べたところ、受賞回数2位の企業は合計8回と御社とは大きな差があり、品質や技術の高さはイメージ通りだと納得しました。また、中国の女性からは、アジア人の肌に合うイメージも持たれているように思います。

 

◆◆◆  文化の違いが新しい価値を生み出す   ◆◆◆

(中智)

藤原CEOは、資生堂に入社後、日本国内では主に海外事業を担当し、海外経験もドイツ、フランス、韓国、そして中国とグローバルに活躍してこられました。これまでの経験から、外国人社員とうまく仕事をするためにはどの様なことを心がける必要があると思いますか。

(藤原CEO)

まず違うという事を認識するところからスタートしなければなりません。化粧品について言えば、その国の文化や生活に根付いています。それぞれの国の異なる文化をリスペクトすることが大切です。

お互い異なる文化や経験を持っているため、仕事のやり方でぶつかることはよくあります。これは習慣の違いによるものなので、ある意味仕方のないことです。この様に異なる価値観を持つ社員が一緒に仕事をするためには、目的を明確にすることが重要だと思います。目的がはっきりしないと、お互いの意見交換が難しくなります。

(中智)

確かに、日本人同士とは異なり、お互いの文化や価値観が異なる人間が一緒に仕事をするには、一定の配慮と理解が必要ですね。

(藤原CEO)

日本人がたくさんいる中で働くのは、コミュニケーションでは楽な面もありますが、これまでの経験を振り返ってみると、外国人の方々と一緒に働く方が様々な文化の違いが発見でき、その違いが新たな価値を生み出すきっかけになるように感じます。

(中智)

昨年の10月14日、上海市政府と中智の主催で第一回目となる『2018年世界著名企業青年人材発展上級フォーラム』が上海で開催され、藤原様にはパネルストとしてグローバル企業の経営者の皆様と人材発展戦略について議論していただきました。率直なご感想と、御社のグローバル人材戦略についてお聞かせ下さい。


2018年世界著名企業青年人材発展上級フォーラム

(藤原CEO)

日本人だけではなく、中国人や欧米人の経営者が交流する、多様性のある良いフォーラムだと思いました。 これからのビジネスを考えると、中国のお客様やマーケットの理解が土台に無ければ、グローバルに活躍出来ない時代が訪れることでしょう。当日会場にいた方々と交流して、グローバルに活躍できる高い素養を持っておられるのに感心しました。そこで当社では、ビジネスの専門性だけではなく、リーダーシップやマネジメントのトレーニングプログラムを強化しているほか、英語教育にも力を入れており、昨年は社員のうち約520名の英語トレーニングをサポートしました。そのうち一部の社員には海外での英語研修を受けてもらいました。ほかには、中国人社員が海外で働けるモビリティ制度を採用しており、昨年の4月まで当社で勤務していた中国人社員が日本本社でブランドSHISEIDOのマーケティングのトップとして活躍しています。

(中智)

御社の紹介資料を拝見すると、世界6地域本社のうち日本と中国以外は全て外国人が地域代表を務めており、伝統的な日系企業のイメージとは異なり、人材面でもグローバル化が進んでいることに驚きました。

 

◆データを活用し、お客様の価値観に合った新しい商品ブランドを創る◆

(中智)

最後に、今後のビジネスの展望についてお聞かせください。

(藤原CEO)

今後数年については、引き続きプレステージのブランドをファーストプライオリティとして強化していく事が必要ですが、昨年からの変化としてお客様が益々スマートになってきています。つまり、自分たちの買う商品が自分たちの価値観やライフスタイルに合うかどうかという情報を取捨選択しながら選んでおり、価格に見合う価値を提供するためにお客様のニーズを素早く知って対応する事を加速させなければなりません。そこで、アリババと提携して彼らのデータと我々の化粧品に対する理解を掛け合わせ、新しい商品やブランドを作る取り組みを始めています。リスクを取りながらイノベーションを起こし、新しい価値を創っていくことにチャレンジしてまいります。

(中智)

世界の工場から市場へ、そして価値を発信する市場へと中国のビジネス環境は止まることなく絶えず変化しています。その中で資生堂は、過去の成功にとらわれることなく消費者のニーズに応える商品を提供し続けています。さらに将来を見据え、上海にイノベーションセンターを設置して中国から新しい価値を創造する取り組みを開始されました。中国から多くのグローバル人材が育ち、中国発の化粧品ブランドが世界中で、そして東京で目にする事ができる日を楽しみにしています。

このインタビューを通して、藤原CEOの人柄について知的で謙虚、内に秘めたパワーを感じさせない穏やかな印象を受け、中国人社員に尊敬される上司だと感じました。長時間のインタビューにご協力いただき、有難うございました。

 

インタビュー風景
インタビュー風景
資生堂中国 藤原 憲太郎 CEO

インタビュー風景
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資生堂中国 藤原 憲太郎 CEO

  


インタビュー風景

 

オフィス風景
オフィス風景

オフィス風景
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