聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第66回
『日鉄軟件(上海)有限公司 岡田 康裕 董事長 インタビュー!』2020/02/28
IT企業としての疫病対策ソリューション
―日鉄軟件(上海)有限公司 岡田 康裕 氏
87年大手ソフトウェア会社へ入社後、95年新日本製鉄株式会社のEI事業部へ入社する。2001年に新日鉄ソリューションズ株式会社の設立に伴い同社へ移籍し、金融ソリューション事業部、ITインフラソリューション事業部営業本部長を歴任後、2017年には営業統括部長と人事部キャリア採用センター長の兼務を経て、2018年10月より現職に就任し現在に至る。
◆◆◆ “鉄のDNA”を受け継ぎ、顧客にITソリューションを提供する ◆◆◆
日鉄ソリューションズの前身は、日本を代表する鉄鋼メーカーである日本製鉄の情報システム部門だった。鉄鋼メーカーと聞くと一般的に伝統産業というイメージを持つが、生産現場の安全を厳しく管理しつつ、高品質の製品を24時間365日ノンストップで生産することが求められるため、コンピュータによる制御が不可欠だ。日本製鉄が製鉄プロセスのオンライン制御に取組み始めましたのは1960年代。以降60年に渡りコンピュータシステムに携わっている。
「日本製鉄は製造工程が全てコンピュータ制御されており、所有するプログラム資産は数億ステップといわれております。日鉄ソリューションズはこの膨大なシステムの開発・保守・運用をワンストップ(1社)でサポートしており、その歴史、規模、複雑さ(技術力)において例のないSIerであると自負しております。そして、これらのコンピタンシーは製造、流通、金融、テレコム等様々な業界においてご活用をいただいております。」
現場で培われた技術・ノウハウをシステムサイクル全体にわたって展開するインテグレーション力は、“鉄のDNA”として受け継ぎ、顧客にITソリューションを提供している。
日鉄軟件(上海)は、2002年に上海で事業を開始して以来、大連、武漢、広州に開発拠点を設けており、主に中国に進出している日系企業のクライアント向けにITサービスを提供している。「中国におけるITの発展は目覚ましく、今では中国における最新のテクノロジー、とりわけDX関連のテクノロジーを日本で活用していただくということも珍しくなくなりました。」と岡田董事長は語る。
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◆◆◆ 武漢・上海。。。細心の注意を払いつつ疫病の中での営業再開 ◆◆◆
春節前に武漢で発生した新型コロナウイルスは、瞬く間に中国全土へ広がり、企業活動に対して深刻な影響を与えている。
「第一四半期(1~3月)は企業活動が停滞し工程の繰り延べやコスト増の影響が懸念されております。」
懸念を口にしつつも、岡田董事長はあくまで冷静に経済状況を見ている。
「しかしながら、1年を通じてみれば中国の経済成長は留まることはなく、疫病の終息後は停滞した分、その反動で例年並み以上のご要望に追われるのではないかと準備を進めております。」
日本ではたびたび大規模災害が発生しており、2011年には、福島県で発生した大地震の影響で日本中が大変な困難に見舞われた。しかし日本はこの困難を乗り越え、第二次大戦後で最長の景気拡大を達成している。
疫病の情況により、春節期間は延長され、政府から会社の営業再開の延期を通知されていたが、2月10日から徐々に営業再開が認められるようになり、同社も同日正式に営業を再開した。
しかし、疫病の発生は続いており、どの会社も社員の安全確保に神経を尖らせている。「オフィス付近の地下鉄駅にて感染者が出たため、不安感が高まりましたので、社員の安全確保を最優先し、2月21日まで在宅勤務を原則とし、出社が必要な場合上長の承認を取るようにしました。また、オフピーク通勤も励行しました。これにより約7割の社員が在宅で従事しました。」
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2月上旬に中智上海公司が外資、国有、民営企業等を対象に行った緊急の調査によれば、営業再開後もしばらくは、在宅勤務のみ、又は在宅勤務と出社を組み合わせて実施する企業を合わせると7割以上を占めていた。
出社する社員の感染防止措置について尋ねると、岡田董事長は「上海の疫病発生情況が安定していることから、2月24日から原則出社としました。在宅勤務が許される人は継続させ、出社する社員のオフピーク通勤は継続励行しております。そのほか、マスクの日本での調達、配布、アルコール消毒液と手洗い石鹸の準備、毎日4時間一回オフィス全体の消毒、エアコンを使わない、座席の座り方を工夫する等の施策を実施しています。」とその取り組みを紹介してくれた。
同社は武漢にも拠点があり、岡田董事長は、そこで働く社員とその家族の健康が今最も気がかりだと語った。「武漢の社員は外出禁止など他の地域より制限が厳しく長期化しているため、精神的に大きな負担となっています。現在3月10日まで企業活動が制限されているため在宅勤務としていますが、自宅で作業可能な業務を上海からフィードして、少しでも一体感や充実感を創出することに努めています。また、消毒液やマスク千枚ほどを上海や東京から関係者総出で調達し社員の自宅に提供しています。」
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◆◆◆ 実践を通じてリモートワークの可能性と課題を学ぶ ◆◆◆
春節休暇で日本へ一時帰国していた岡田董事長は、2月12日に上海へ逆行する。その時の心境について岡田董事長は言う。「船が嵐に見舞われているときに、船長ひとりブリッジを離れる訳にはいきません。」乗客と船員の安全を確保するまで決して船を離れない。岡田董事長から日鉄軟件のキャプテンとしてのプライドと責任感を感じた。
上海へ到着した時の情況について、「あの賑やかな上海に静寂を感じるほど防疫対策が徹底し、検温や自宅待機などの水際対策も万全で、かえって安心感がありました。」と岡田董事長は当時の印象を語った。
今回、疫病による特殊な期間を経験したことで、得たものも多いと言う。「今回、在宅勤務を原則としたことで私自身新たな気づきがありました。Face to Faceのコミュニケーションはもちろん大事ですし、そうでなければできないこともありますが、オンラインでもできる仕事も相当あるということです。今回必要に駆られて在宅勤務+ビジュアルコミュニケーション(Web会議や企業微信)をしてみると、リモートでもかなりのことができることがわかりました。もちろん、リモートワークに必要な環境が全て整っているわけではありませんが、今回のことで課題が明確になり、企業活動が減速している間に整備してしまおうと思っています。」
インタビューの最後に今後の中国ビジネスの展望について尋ねた。「この度は思わぬ事態となり、生産、物流、販売はじめ金融機関の皆様も大きな危機にさらされたことと存じます。ただ、政府の徹底した対応でSARSの時よりは早く終息する期待感がでてきました。グローバルサプライチェーンの中で中国が果たす役割は変わらず大きく、疫病終息後は必ず旺盛な経済活動が再開されます。」
「むしろ正常化した時の勢いについていけるかどうかが課題と認識しています。この渦中のなかで、当社社員からは業務効率化やリモートでの業務推進及びデジタルトランスフォーメーションにまつわる様々なアイデアが寄せられており、検討の上皆様にもご提案、還元していきたいと思っております。日系企業の皆様とは引き続き協力関係を強固にしてこの危機を乗り越え、日系企業の付加価値を共に向上させていきたいと考えます。また、一連の騒動を通じてBCP対策を取る中で数多くのことに気づかされました。この貴重な経験を日本の企業活動にも生かせるようにしていきたいものです。」
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【中智からのコメント】
中国で疫病が発生した時、岡田董事長はそのまま日本に留まることなく、中国人社員たちと共に会社を守ることを選択しました。岡田董事長は“鉄のDNA”を受け継ぎ、さらに“人事”の経験を有しています。日鉄軟件(上海)は、中智日本企業倶楽部の上級会員で、岡田董事長は中国に赴任され、人材を非常に重視されていることを日常会員サービスの中で深く感じました。岡田董事長は同社を率い、人材の募集や教育、定着において多くの課題を克服し、2019年には積極的に大学と提携し、IT人材の育成において社会に多くの貢献をされました。従業員満足度を向上させ、社員の日常により配慮するため、今年の2月に中国人社員の人事業務を中智上海へアウトソーシングしていただき、正式に中智の両会員企業となっていただきました。
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日鉄杯コネクト6AI大会 |
最後に、日系企業の中国での発展を衷心よりお祈りいたします。中智日本企業倶楽部智櫻会は引き続き、日中経済友好発展の懸け橋として努めてまります。
中智との記念写真 |