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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ

『旭化成(中国)投資有限公司 椋野 貴司 中国総代表 インタビュー!』2021/5/24

<strong><font style="font-size:19px">中国ビジネス成功の鍵は中国ビジネスフォーマットにあり </font></strong>

中国ビジネス成功の鍵は中国ビジネスフォーマットにあり

<strong><font style="font-size:19px">——旭化成(中国)投資有限公司 中国総代表 椋野 貴司 氏</font></strong>

——旭化成(中国)投資有限公司 中国総代表 椋野 貴司 氏


 
旭化成(中国)投資有限公司
中国総代表 椋野 貴司 氏

 

1981年に東京大学経済学部卒業後、旭化成株式会社に入社。入社後は特殊化学品の企画管理や営業を経て、2001年よりフォトプロダクツ・ヨーロッパ法人の社長、08年に旭化成アメリカ法人の社長を務める。17年より旭化成(中国)投資有限公司の中国総代表に就任し現在に至る。

 

◆◆◆ 世界で初めてリチウムイオン電池を発明する ◆◆◆

1922年に創業し、来年創業100周年を迎える旭化成グループは、日本を代表する総合化学メーカーだ。旭化成は、合成化学や化学繊維事業からスタートし、その後、日本経済の発展や社会・環境の変化に対応しながら積極的に事業の多角化をすすめ、現在では、繊維・ケミカル・エレクトロニクス事業からなる「マテリアル」、住宅・建材事業からなる「住宅」、医薬・医療・クリティカルケア事業からなる「ヘルスケア」という3つの領域で事業を展開している。

旭化成グループは世界20カ国以上に生産・販売・研究開発の拠点を配置し、グローバル市場で幅広いニーズに対応する体制を整えている。

2019年に旭化成の吉野 彰名誉フェローが他の科学者2名とともにノーベル化学賞を受賞したことは同社の高い技術力を証明している。「当社の吉野 彰名誉フェローは、世界で初めてリチウムイオン電池を発明した1人です。その功績が認められノーベル化学賞を受賞しました」と椋野中国総代表は話す。

吉野名誉フェローらが発明したリチウムイオン電池は、ノートパソコンやスマートフォン、そして電気自動車など、いまや生活に欠かせないものとなっている。

 

◆◆◆ 中国経済の発展に応じて取り扱う製品も多様化 ◆◆◆

1980年代から、旭化成グループは積極的な海外展開を進め、88年に北京事務所を設立する。「現在、中国には製造会社が10社、販売会社が10社(合弁会社を含む)の20社が存在し、さらに海外で買収した企業の現地法人を含めると、30社にのぼります」と椋野中国総代表は話す。

中国で取り扱う製品について、「中国においても、繊維から化学工業製品へと、中国経済の発展に対応しながら取り扱う製品を増やしてきました。現在では、住宅と建材を除くほとんどの製品を中国市場で展開しています。売上規模では、自動車用途の機能性プラスチック、繊維、電子材料等が比較的高くなっています。また、COVID-19の流行による巣篭もり需要から、サランラップの売上が好調です」と椋野中国総代表は説明する。


 

◆◆◆ 全国各地の現地法人の課題とその解決策 ◆◆◆

投資公司で中国各地の現地法人を人事面でサポートしている覚野 泰史副総経理に、人事面での課題と対策について尋ねた。

労務面での課題と対策について、「現地法人の責任者は、必ずしも人事のご経験がある訳ではなく、対応に苦慮するケースがありました。そこで、各現地法人の責任者を人事面から支える人事担当者を集めて、定期的に人事担当者会議を開催したり、労務マガジンを発行したりして、最新の人事労務政策情報や、ノウハウを共有するようにしています」

現地化の推進について、「日本と地理的に近いこともあり、日本のガバナンスが強くなりがちで、各事業部のトップを駐在員が占めていました。これにより現地社員の発展空間がなく、優秀な人材の流出に繋がってしまう恐れがあります。そこで、将来の経営幹部となり得る現地社員の育成に取り組んでおり、既に中国人総経理も輩出しています。そこからさらに各現地法人を超えて異動できるような制度を試みています」と覚野副総経理は話す。


年々厳しさを増す環境規制に対応するため、上海などの大都市から地方都市へ工場を移転する動きが増えている。旭化成グループでも、昨年に蘇州市の工場を常熟市へ移転した。その際に工場の移転を指揮した長谷川 聡副総経理に、移転に際し従業員への対応について話を聞いた。

「工場の移転にあたり、従業員にも新工場へ移籍してもらうことになるのですが、もとの工場と新工場は、直線距離にして約100km、自動車で移動すると1時間半近くかかってしまいます。そこで従業員の意見を聞くと、毎日通いたい人や会社近くに住みたい人、また会社の近くに住みたい人の中にも、寮を準備して欲しい人、住宅手当を支給して欲しい人など様々でした。このような様々なニーズに対応するにあたり、交通手当、提供する寮の品質、住宅手当の金額など、バランスを取るのに苦労しました」

長谷川副総経理のきめ細かな対応のおかげで、長距離の工場移転にもかかわらず、オファーを出した従業員のうち約95%が移籍に応じてくれたという。

「オファーを辞退した従業員は、皆さん比較的小さな子供を持つ女性従業員でした」と長谷川副総経理は話す。


 

◆◆◆ 異文化コミュニケーションは、その国の文化への理解を深めることから ◆◆◆

椋野中国総代表は、東京大学経済学部を卒業後、旭化成に入社した。17年に中国総代表へ就任する以前、ベルギーに本社を置くヨーロッパ法人とアメリカ法人の社長を務める。

椋野中国総代表に中欧米の違いを尋ねた。「ヨーロッパは一つのように見えますが、国や地域により言語や歴史が異なり、各々が自分の文化に誇りを持っています。私が社長を務めたヨーロッパ法人の本社はベルギーに位置し、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアに支社を置いていました。各国の社員たちと一緒に仕事をするなかで、業務が順調な時はよいのですが、うまくいかない時や意見が合わない時は、お互い意固地になり、なかなか譲歩せず調整が大変でした。各国の社員たちは、社長がどちらの意見を支持するのかと注目しており、バランスをとるのにとても気を遣いましたね」

「それに対し、アメリカ人はオープンで付き合いやすい人が多かったように思います。一般的にアメリカ人はビジネスライクで、自分の業務範囲外の仕事はしないというイメージを持たれていると思います。確かにその様な傾向は見られましたが、事前に事情を説明してお願いすれば、どの社員も柔軟に対応してくれました」

それでは中国はどうだろうか。「中国人は合理的で、意思がはっきりしている人が多いように思います。そこで会社のビジョンを明確に示し、あなたにはこういう事をやって欲しいと言えば、皆さんよく動いてくれます」と椋野中国総代表は、各国や地域の従業員の特徴と動かし方について話してくれた。

国籍や文化の異なる者同士がうまく仕事をするには、異文化コミュニケーションが大切だと言われる。「その国の人々が最も大切にしている文化への理解を深めるようにしています。具体的には、その国の美術を鑑賞し、その国の料理を食べ、その国のお酒を味わいます。現地社員たちとは、それらの話題から入り、家族の話題に触れるようにしています。欧米人も中国人も家族を非常に大切にしており、家族の話題になると、とたんに打ち解けますね」

   



 

 

◆◆◆ 中国には独自のビジネスフォーマットが存在する ◆◆◆

インタビューの最後に、今後の中国ビジネスの展望を尋ねた。「いち早く新型コロナを克服し、経済が復調してきている中国は、これからも巨大なマーケットとして自立的に成長していくことに疑う余地はありません。中国には、中国独特のビジネスフォーマットがあり、全人代で決められた五か年計画に基づき経済が動いています。そこで我々は国の政策に基づき、どの分野について深堀りをしていけばよいのかを検討する必要があります。旭化成が有する多角化された幅広い事業領域を、この中国独自のビジネスフォーマットにうまくはめ込み、中国市場で何が求められているのかを見極め注意深く追及しなければなりません。そのためには、数年で帰任する駐在員だけでは十分とはいえず、長期的に国の政策を追えるよう優秀な現地社員を中心に経営できる旭化成中国にしなければならないと考えています」



中智の感想:旭化成は世界でも有数の総合化学メーカーのひとつであり、中国に深く根を張っている外資企業です。複数の地域をまたぐ労務管理、工場の移転など、多くの外資企業が直面している困難な問題を、同社がうまく解決できている鍵は、労使の協調だと感じました。これは、椋野中国総代表が重視する異文化理解にも通じるように思います。

また、椋野中国総代表はインタビューの最後に言われた、中国には中国独自のビジネスフォーマットがあり、それに合わせたビジネス展開が重要であるという言葉が印象的でした。外部や内部環境が目まぐるしく変化する中国市場で勝ち残るヒントがそこにあるように思います。