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在中日系企業の賃金制度に関する考察--日本企業の賃金制度の変化と今後(2)

在中日系企業の賃金制度に関する考察--日本企業の賃金制度の変化と今後(2)(2013/5/15):

2、年功序列制度の特徴

 年功序列制度は、日系企業の大きな特徴として、今もなお大きな影響力を持つ。年功序列制度は労働者の年齢と勤続年数によって賃金が増加する制度である。その出発点となるのは、業務能力と技術の熟練度の上昇が本人の年齢と正比例し、勤続年数が長いほど企業への貢献が大きいという考え方である。また、この制度は労働者が生涯その企業のために働くことを意味している。

 同制度には、次のような特徴がある。

 ① 履歴の重視。労働者の年齢、勤続年数、学歴を基本賃金決定の主要な要素としていること。

 ② 生活保障の色彩が強い。労働者及び家族の基本生活保障の割合が70~80%を占めており、インセンティブの賃金に対して占める割合はわずか20~30%に過ぎない。

 ③ 「賃金の後払い」という側面がある。40歳手前の労働者の賃金は低く抑えられており、賃金の増加が労働生産性の伸びより低い。企業は50歳以上の労働者に、彼らの賃金を還元する。すなわち賃金の増加が労働生産性の伸びを上回るのである。日本の高度経済成長期、企業は若年労働者を大量に雇入れ、人件費を低く抑え企業の資本力を蓄えた。同時にそれは、日本経済の成長速度を加速させることになった。

 職務等級別賃金とは年功序列制度を具体的に体現したものである。職務等級とは、業務の種類、業務責任によって決定された職務別の等級である。職務等級別賃金は職務別に賃金が決定される制度であり、多くの賃金曲線がこれによって構成されている。この「職務別賃金号棒表」に基づき毎年定期的に賃金が上昇するのである。

 ボーナスは年功序列制度の体現において重要な位置を占める。ボーナスは基本賃金(職務手当等を含む)に基づき決定され、基本賃金の大小がボーナスの差額となって現れるのである。個人業績の良し悪しがボーナスに与える影響は少なく、ボーナスの最高額と最低額の差は平均5%前後である。ボーナスの総額は一般的に2~6ヶ月分の基本賃金額に相当する。

 年功序列制度の長所は、団体協力、労働者の企業に対する忠誠心の形成、企業の長期に渡る人材の育成に有利である点である。

 短所は、労働者の能力・貢献度が賃金に反映されにくく、業務効率の上昇や労働者の士気に影響が出る点、年齢で賃金が決まる為、若い優秀な労働者が流出し、一方でベテラン労働者のコストが過剰に上昇する点、異質な(特殊な)人材を輩出しにくい;点が挙げられる。

 企業内部の環境分析から、年功序列の維持が困難である理由は、次の通りである。

 第一に、リストラが企業への貢献度を評価の基準とするやり方を変えてしまう点である。企業のオートメーション化、情報化の中、勤続年数と蓄積された経験・技能を頼りにしても、企業を再成長させる作用を持つことは無いのである。

 第二に、企業全般の財政状況が悪化している点である。外部の経営環境の悪化は企業を健全に成長せしめなくなり、年功序列における経済的な基盤を失わせる。

 第三に、労働者が高年齢化している点である。中高年労働者の比率が大きすぎ、経営コストの増加だけでなく、人材不足と国際競争力低下を招いている。 

 第四に、必要とされる人材が変化している点である。経営戦略が変化すれば、新たなマーケットや現代の情報技術を掌握した若年層へのニーズが大きくなる。

3、能力主義制度と成果主義の特徴

 能力主義制度も職能手当と称されるが、これも職能等級によって賃金が決定される。職能等級とは業務(職位)遂行能力を基に等級を決定するもので、職能資格制度とも呼ばれている。この賃金制度の特徴は個人の能力評価を基にして待遇が決定する点である。能力主義制度の賃金制度は職能手当と生活手当(年齢給+手当)で構成されている。70年代後半、80%以上の大企業が能力主義制度の賃金制度を導入した。

 能力主義制度は年功序列に比べ進歩したものであると言えるが、依然年功序列の色あいが抜けないものである。同じ能力等級内でも定期的に昇給(熟練昇給)があること、労働者の基本的生活を保障する年齢別賃金があること、年齢別賃金は歳を重ねるごとに定期的に増加していくこと、がその理由として挙げられる。

 能力主義制度は理論上かつての年功序列より合理的ではある。しかし、科学的評価に欠けることから、能力の有無が賃金を決定する、という目標の実現には程遠い。能力等級制度とその結果の年功序列性は、企業内労働者の高齢化と高級職務比率の増大がもたらす高コスト体質を何ら解決しない。1994年、日本企業の人事コストはアメリカより14%高かった。能力主義制度の高コスト体質を改善し、国際的競争力を高める為、日系企業は賃金制度改革をより進めなければならない。

 改革の方向性には以下のようなものがある。

 能力主義制度の修正。まず能力等級の評価制度を確立し、同時に定期昇給額を減少または取り払っていく。相当の賃金を得ている管理職への定期昇給を撤廃する。各人の能力等級規定に上限額を設け、上限に達した者から定期昇給を停止する。

 職務重視への転換。能力等級制度(職能資格制度)の職務等級と能力等級を統一せず、職務等級と能力等級を分けることにより、企業に能力等級と職務等級の逆転現象を起こさせる。すなわち能力等級の高い従業員が生産性の低い業務に従事することもありうる。賃金により「責任の大小」を体現することが改革の突破口となりうるのである。

 成果主義制度への転換。成果主義制度は労働者の能力や努力を考慮せず、完全に結果、成績、企業への貢献のみに基づき賃金・待遇を決定する方法である。その目的は、能力等級の昇進過程に存在する、職務と能力、貢献度が賃金に反映されないという問題を解決し、収入分配に差をつけることにある。

 日系企業の賃金制度の沿革歴史を簡単に振り返ると、日系企業における報酬制度発展の過程と原因をより明確に理解でき、また在中日系企業の報酬、奨励管理において直面している問題及びその後の趨勢がよりはっきりと見えてくる。これ以降の文章は、各々方其々の方法と哲学で綴って頂きたい。