ホーム > HRニュース > 中国HRニュース > 【判例】賃金歩合制に関する紛争の分析(第三回)(2013年8月20日)

【判例】賃金歩合制に関する紛争の分析(第三回)(2013年8月20日)

案件三:彼は何故インセンティブをもらえなかったのか?

 梁さんは設計会社の運営部の経理を担当していたが、後に労働仲裁判決を不服とし、法院へ契約成立のインセンティブ3割分、16000元の支払いを求めて同設計会社を提訴するに至った。

 梁さんは、毎月の基本賃金2500 元と食事手当160 元、インセンティブ契約を結んでおり、契約期間中5つの異なるプロジェクトを成立させたそうである。梁さんは法院へ設計会社の領収書などの証拠を提出している。

 設計会社は、双方共に歩合制について同意しておらず、同社に存在する奨励制度は対外プロジェクトを担当する者を対象としているが、奨励金は賃金の範囲でありその支払いは同社の規定に則っている。設計会社は赤字状態にあるため、梁さんへ奨励金を支払うべきではなく、梁さんの5つの異なるプロジェクトを成立させたという主張も認める駅ではない、との主張を行った。

 法院は、本案件に関する工事がまだ竣工しておらず、梁さんの証拠が不十分であるとして、同氏の提訴を退けた。

案例分析:

 梁さんの提出した受取証明のコピーは、設計会社の認可が無い為証拠能力が無い。また、設計会社も双方のインセンティブ約款を認めておらず、同社に奨励金制度があることを表明したに過ぎない。この他、梁さんは既に成立させたとされる5つの異なるプロジェクトをについての証拠を提出していない。ゆえに、梁さん敗訴の要因は双方に約定があり、またその根拠、性質及び算定方法を証明できなかった点であると言える。

 証拠保全の重要性は言うまでもないが、実務上労働者と使用者との間で締結された労働契約上には報酬・インセンティブの算定方法が明記されておらず、その算定方法が複雑かつ曖昧であったり口頭のみの約束であったりと、書面によらないものが多い。

 また、使用者は往々にして労働者へ給与明細を支払わない。ゆえに労働者の主張する支払うべき賃金額の証明は困難を極め、ついには法院での金額の証明どころかその存在の証明までも困難なものとなっている。

 証拠を如何に保全し収集するかは労働者、使用者双方が面している問題である。双方はまずインセンティブの具体的内容を具体的にすることが重要であり、もし事前に業務を行うのならば賃金の名目に注意を払い、証拠を残すことが必要である。