【寄稿】日本式人事管理モデルの中国における挑戦と変遷(3)(2013年8月20日)
【寄稿】日本式人事管理モデルの中国における挑戦と変遷(3)(2013年8月20日)
(3)
前回まで、我々は在中日系企業人材管理モデルの変遷を追った。日本の人材管理モデル形成はある特定の社会的、歴史的条件の下に生まれたのである。では、現代中国の環境下にあって、在中日系企業は日本式人材管理モデルの典型的特徴を発揮し得るであろうか?
(一)長期雇用から短期雇用へ
日本式人事管理の典型例として、従業員と長期雇用関係を結ぶ点が挙げられる。しかし筆者の見たところ、在中日系企業の長期雇用理念は著しく低下しており、人材管理は長期雇用から短期雇用へ、内部養成型から外部購入型へとシフトしている。人材管理政策と実践に関する18の調査項目のうち、「従業員へ長期雇用を保証する」程度はワースト1位であった。また「従業員が人材管理に関わる」「違う職位へ配置転換する」「同業他社よりもより多くの時間と金銭を従業員養成のために充てる」「従業員の業務態度や意見の調査を定期的に行なう」「利益を分かち合う」といった一連の長期的人材管理政策と実践はそれほど広範な支持を得られなかった。
在中日系企業駐在管理者への聞き取り調査で、この変化は証明されている。彼らはこう述べている。「日本では、会社は長期的視野から従業員に訓練を施し、会社へ思慕の念を持たせる。しかし中国で我々が成功できない理由もここにある。業績評価による賃金水準が外部市場の変化に追いつかなくなったとき、我々が養成した人材は他人によって掘り起こされてしまう。中国の環境に適応するために、我々も変わらなければならない」
(二)年功序列から業績主義へ
年功序列制度の下、従業員の報酬と昇進は在籍年数と密接な関係にあった。在中日系企業は強い実用主義を取っている。従業員の業績を在籍年数より重視している。これらの企業は定期的な業績考課を従業員のボーナスや昇給の重要な根拠としている。アンケート調査では「結果主義の業績考課」「業績に基づくボーナス」「業績の適時フィードバック」等の人材管理は在中日系企業の間で広く用いられている。訪問調査結果でも、在中日系企業駐在管理者は一般的に、中国の企業文化が結果主義指向であるとの認識を示していることが明らかになっている。駐在管理者は「我々は業績フィードバックを速めるなど中国の企業文化への適合をより一層推し進め、業績優秀者を昇進させていく」と述べている。欧米と日本的人事制度には其々利点があるが、業績考課に見て取れるように中国ではやや欧米的人事制度に適応する傾向にあるようだ。
(三)職位職責の明確化
日本の人材管理モデルにおいて、職位職責の境界線は曖昧であり、企業はしばしば従業員へ配置転換の機会を与える。企業管理の重点は部署であって人ではないのである。これに反して、在中日系企業の職位職責の境界線は非常に明確であり、またその多くが職位を固定している。調査結果では人材管理において「職位職責の明確化」程度が平均値より高く第二位であった。在中日系企業の雇用形態が短期的かつ業績主義的傾向にあるため、職責管理、業績管理、報酬管理等の方面で必然的に相応の変化が生じ、人材管理システムの内部整合を維持しているのである。日系企業管理者への訪問調査中、筆者は「日本では一つの仕事を多くの従業員が共に行なう(団結協力する)ので、職責はそれほど明確でない。しかし中国では業務を分解し、厳格で明確な目標を立て、それに合わせて業績考課を行なうという目標管理を行っている。同時に、定期的に外部の報酬データを購入し、自社の賃金水準に他社に対する競争力を持たせるようにしている」ことへの違いを感じ取った。また調査結果においても、在中日系企業における配置転換は非常に少ないが、日本では日常の光景であることが分かっている。
アンケート調査と訪問調査により、我々は以下の結論を下すことが出来る。「在中日系企業は既に長期的雇用や年功序列を前面に出した内部養成型人材管理モデルから、短期的雇用や業績主義を主とする市場購入型人材管理モデルへと転換している」。具体的には、在中日系企業の長期雇用、年功序列、配置転換、従業員の人材管理への関与、利益の分配等長期的指向の管理方法は基本的に広範な支持を得られず、結果主義の業績考課、明確な職位職責の規定、業績に基づくボーナス等短期的指向の管理方法が広く用いられているのである。駐在管理者への訪問調査でもこの結論は支持されている。「中国と日本の最大の相違は雇用前提の違いだ。日本では、名義上終身雇用制を謳っているわけではないが、事実上終身雇用を前提とした雇用形態を取っている。しかし中国では全て短期的雇用である。このような状況に際し、我々は2つの課題に面することとなった。一つは従業員への適切なフィードバック、もう一つは離職者が出たときの順調な操業である」
調査過程において筆者は更に、在中日系企業は短期的指向の人材管理モデルをいきなり採用したわけではなく、長期的指向の人材管理モデルのために中国において困難に直面し、変遷を経て適応した歴史を持つことが分かった。この変遷は長期雇用理念から短期雇用理念へのへの転換が、外部環境への適応という必要性によってもたらされたものである、ということを示している。人材管理、職責管理、業績管理、報酬管理等の具体的制度と技術においても、短期雇用理念に基づいた整合が為され、それによって制度技術の実現と理念の内部整合が為されるのである。
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