【寄稿】日本式人事管理モデルの中国における挑戦と変遷(4)(2013年9月22日)
【寄稿】日本式人事管理モデルの中国における挑戦と変遷(4)(2013年9月22日)
(4)
戦略的人的資源管理理論において、企業内部の人的資源管理システムは外部環境と整合して初めて、企業の競争力に寄与することができるのである。日本の人材管理モデルが日本的社会環境や文化の上に成り立っていることに疑いの余地はなく、それは例えば家族的経営形態や忠誠を強調する会社主義、協調性を重視した集団主義的空気、業務への敬意と自己鍛錬による勤勉な態度によく現れている。しかし、在中日系企業の人材管理モデルは長期的なものから短期的なものにシフトしており、人材管理システムは外部環境への適応過程において事実上変質してしまったと言える。在中日系企業の現在抱える主要な課題について以下に記す。
(一) 労働力市場への適応
中国の環境下にあって、日本の人材管理モデルはまず外部労働市場への困難に直面する。外部の労働市場が未発達な状況下においては、企業は容易に内部で労働力市場を形成でき、長期雇用モデルを維持することができる。更に日本では、一般的に競合他社への転職が禁じられているので、転職によってより高い賃金を得ることが難しくなっている。これに反し、中国では既に外部労働市場が高度に発達しており、中国経済の急速な成長による人材ニーズも相まって、多くの中国人社員は市場を通じより豊かなキャリアアップと賃金を得ることができる。ゆえに、外部労働市場が発達した状況において、もし企業が年功序列制度を採用すれば、人材流出という深刻な問題に直面してしまうのである。在中日系企業が長期雇用を望んだとしても、社員は往々にして長期的労働契約を結びたがらないだろう。この、中国の労働市場に合わせて、日系企業は短期的、成果主義的雇用へのシフトを開始した。雇用理念のリS化は、報酬管理、業績管理や職責管理といった人事管理制度や技術において、変化を生み出している。
(二) 社会保障体系への適応
大部分の中国人社員は、日系企業の長期的雇用関係が、整備不良である中国の社会保障とマッチしていない、と感じている。訪問調査中、筆者は多くの中国人社員が強く危機意識を持っており、社会保障の不備が彼らの目を短期的利益に向けさせていると強く感じた。社員の、企業への忠誠心は芽生えにくい環境にある。なぜなら忠誠心は、長期雇用モデルをキーとしているからである。中国において、若年層の経済的圧力は非常に大きく、住居、医療、教育などコストの増大によって短期的な高収入に頼らざるを得ず、若年時の低賃金低保障を受け入れ、高齢時に高賃金高保障を享受する方法を採る事ができないのである。ゆえに、現代中国において日本企業の「若いときの苦労が、歳を取ってから実る」やり方はそれほど作用しないのである。また、日本の社会保障体系は比較的完成されたものであり、これが長期雇用制度を実施するために必要な条件であるといえる。
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