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【判例】使用者は機密保持補償金を支払わなければならないか(2013年11月22日)

【判例】使用者は機密保持補償金を支払わなければならないか(2013年11月22日)

案情

 某社は我が国随一の発電技術会社である。王さんは同社工程部へ入社した後程なくして新たな開発プロジェクトに携わることとなり、研究開発データ収集と統計を任されることとなった。この研究開発は会社側が巨大な人的、物的資本を投入して得た重要な資料であり、プロジェクトの過程、技術の発展は、同業他社との競争に重大な影響 を及ぼすものであった。そこで、会社側はさんと機密を保持すべき技術情報や経営データなどの具体的な範囲、競業避止制限範囲及び補償を定めた「機密及び競業避止協定」を締結した。

解説

 「反不正当競争法」に規定されている「商業機密」は、労働法の「機密情報」より厳格なものである。これは「公に知られること無く、権利保持者に経済的利益をもたらすもので、実用性があり、権利者が機密保持措置を取った技術情報と経営情報」のことを指す。商業機密は無形財産であり、企業へ経済的効果と競争へのアドバンテージを与える一切真似の出来ない資産なのである。この点において、商業機密の企業成長に対する影響は段々大きくなっており、もはや企業存続のカギとなっている。労働法における機密保持義務と法定商業機密は別物である。ゆえに、使用者は何が機密情報に属するか、その範囲を内部管理制度及び「機密保持協定」で明確に定めなければならないのである。

 現在、多くの使用者があまりにも広すぎる機密情報の範囲を定めているが、商業機密の境界線には・区が存在する。全ての企業情報が機密情報となり得るわけではなく、また機密事項を取り巻く内容全てが機密情報であると認められるわけではない。

 使用者が労働者へ機密保持を求める情報は、使用者の管理や企業の特徴と関係し、企業の成長、運営、管理、競争等に重大な影響を与えるものでなくてはならないのである。

 使用者が労働者へ機密保持義務を定めた際、当該労働者へ機密保持補償を支払う義務があるか否かについて、法的に明確な規定は無い。しかし、機密性という視点から見ると、商業機密の保護は法が企業へ与えた絶対的権利であり、それは不特定多数に対するもので、権利者はその権利行使に際し何ら義務を果たす必要が無いのである。つまり、商業秘密の保守は企業固有の権利の一つであり、機密情報を知るいかなる人であれ同意なくして知り得た機密情報を漏らし、権利者の合法的権益を侵害することはできないのである。絶対的権利行使の対象者は必ず義務を履行しなければならないのであり、機密保持費支払いの有無は前提とならないのである。企業の機密情報を保守し、守秘義務を履行する労働者には法定義務が課せられているが、企業側が機密保持費を支払う必要は無いのである。

 機密情報は一旦漏れてしまうと機密の意義を失い、「機密保持契約」で約定した事項に再び守秘義務を課すことは出来なくなる。

 但し、競業避止と商業機密保持は同じではない。競業避止は企業が労働者へ離職後の職業選択の自由を制限するものであり、労働者の経済的損失を補償するために、企業側は競業避止期間相応の経済補償金を支払わなければならないのである。機密情報保持は労働者の義務の一つであり、労働者は企業の機密情報を時間、地域、範囲の制限なく誠実に守らなければならないのである。