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【判例】労働者の生み出した損失に対し、使用者は損害賠償を請求できるか?(2014年1月24日)

【判例】労働者の生み出した損失に対し、使用者は損害賠償を請求できるか?(2014年1月24日)

案例:

 2006年12月5日、張某は某アパレル企業に就職し、2年の労働契約を締結した。張某は営業の代表者として働いた。張某と会社側は代理販売方式の賃金支払いで同意しており、会社の規定によれば、営業代表の月給は最低保証賃金1500元とインセンティブで構成されていた。契約締結時、会社人事公司人事担当者は張某へ以下のような社内規定を提示している。:販売代表者が代理販売を行った際、もし3ヶ月以内に服飾代金を回収できなかったとき、または服飾を回収できなかったときは、未収金部分について損害賠償の責を負う。

 2007年11月、張某は企業規定の業務過程に則り顧客へ2万元分の衣服を卸したが、顧客は代金を支払わなかった。2008年3月、会社側の定めた期間を過ぎた後、張某が再び代金支払いを要求した際、会社オフィスがもぬけの空であることに気づいた。会社側は、2万元の損失は張某の信用調査能力の欠如と、売掛金回収における監査不足に原因があると見ていた。そこで、会社側は張某へ2万元の損害賠償請求を決定し、2008年4月より張某の賃金から毎月500元ずつを差し引いて行った。会社側の決定に対し、張某は「労働契約の約定以外の管理規程に法的拘束力は無く、それによる損害賠償決定は出来ない。また顧客リスクは会社側の経営リスクであり、出荷までの過程においては会社規定に則り、自身も支払催促を行っている。顧客が夜逃げしたのは自身の予知できる範囲を超えたものであり、多額の賠償金を請求して会社自身は何ら責任を負わない点は明らかに不公平である。更に、毎月1500元の最低保証から500元を差し引けば生活もままならなくなる」との見方を示した。張某は会社側へ夜逃げした顧客の捜索と賃金の支払を求めたが、会社側はこれを拒否した。

 張某は仲裁委へ不足分賃金の支払を申し立てた。司法審議の結果、会社側は経営上の損失を法的権益の逸失として直接的に労働者へ転嫁できないとして、会社側へ損害賠償の支払を命じ、また張某の賃金差し押さえに何ら法的根拠が無いとして、未払分の差額賃金支払を命じた。

争点:

 1. 会社側は販売担当者への損害賠償を規定できるか?

 2. 会社側は販売担当者が与えた損害について、販売担当者へ損害賠償を請求できるか?

解説:

1.合法かつ有效な規則制度のみが使用者の管理の根拠となる。

 「労働契約法」は使用者の規則制度における原則的規定であるため、使用者は法に基づいた規則制度を設け、労働者の権利を保護し、義務を履行しなければならない。「最高人民法院労働争議案件審理における適用法律についての問題と解釈」第十九条において、「使用者は民主的に規則制度を定めなければならず、法律、行政法規、制作規定に違反してはならない。これは労働者へ公示して初めて、人民法院における労働争議案件審理の根拠とすることができる」とある。このことから、民主的な制定、合法的内容、労働者への公示が、使用者の管理制度を合法有效たらしめる三つの条件であり、これらを満たして初めて使用者の内部管理と違反行為に対する処罰が有効となるのである。使用者は規則制度制定においては、その内容の合法性を十分に考慮しなければならない。案例中、売掛金回収不能という事態は必然的に経営リスクとして存在するので、会社側は経営リスクに対し有効な予防措置を採らなくてはならない。会社側の規則制度ではこのリスクを販売担当者に転嫁し、自身は責任を免れており、労働者の義務を増加させるものとして、合法性に欠けると言える。

2.経営リスクに対し、使用者は法に基づき権利を主張すべきである。

 使用者が経営において避けられないリスクに直面したときは、その逸失利益は会社側が負担しなくてはならない。リスクに対して、使用者は法に基づき債権者に自身の権益を主張することで、その損失拡大を免れることができる。

3.リスクを回避できないときは、労働者の過失の程度に基づいて損害賠償を請求できる。

 本案件の使用者の処置においては、2万元の掛売が会社規定に叶っているか、張某が売掛金回収を催促したか否かを含む張某の負うべき責任を考慮しなければならない。もし張某が管理制度に基づき業務責任を履行しており、かつ顧客の詐欺を張某が知らなかったとするならば、売掛金回収不能の経営リスクは会社側が負い、法律に基づいて顧客へその権利を主張しなければならない。もし張某が販売業務において、顧客の信用力考察に不備があり、また会社規定に乗っ取らず催促や顧客の異常な状況の会社への報告を怠ったときは、会社側は不利益を被ったとして、張某の業務における過失の程度に基づき損害賠償を請求できる。

 使用者は内部規程に基づき販売担当者へ相応の職責に応じた規範管理を行うことができるが、それは使用者と社員の共同利益が基礎となっている。経営において発生した損害について使用者が管理または処理を行う際には、証拠を揃え客観的事実に基づいてその権益を主張しなければならない。