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【判例】労働者の離職を一方的に前倒ししてはならない(2014年6月25日)

【判例】労働者の離職を一方的に前倒ししてはならない(2014年6月25日)

案情:

 某貿易公司人事部は2010年9月13日、市場部の劉さんから離職届を受け取った。劉さんはこれが一身上の都合による離職であり、30日後の10月12日に離職すること、離職まで引継ぎを行うことを明記していた。

 一週間後、人事部が劉さんに引継ぎの進捗を尋ねたところ、劉さんは既に引継ぎを終えていると回答した。人事部は市場部と話し合った結果、劉さんが引継ぎを終えている以上10月12日を待つ必要は無く、今労働契約を解除すれば三週間分の賃金を節約できる、との結論を出した。翌日、会社側は劉さんの賃金を清算し、退職日を2010年9月21日とした退職通知を手渡した。

 2ヵ月後、会社側は労働争議仲裁委の開廷通知を受け取ることとなった。劉さんは、一方的な解雇による経済補償金として3ヶ月分の賃金、総額2万元近くの支払いを求めてきた。会社側は、明らかに劉さん側から辞表を提出してきたのに、何故責められなくてはならないのかと理解に苦しむこととなった。劉さんは自ら離職したことを否定しなかったが、離職まで1ヵ月あったにも関わらず会社側が離職日を前倒しして労働契約を解除するのは、一方的な労働契約解除に当たると主張した。

分析:

 「労働契約法」規定では、使用者と労働者が労働契約を解除する際には、一ヶ月前の予告もしくは予告手当の支払いにより双方が契約解除の旨を知っておかなければならない。しかし労働者による労働契約解除規定は「労働契約法」第37条に規定があるのみである。ゆえに使用者にとっても労働者にとっても、労働者の離職手続はそれほど重要視されていないと言える。実際においては、労働者が使用者の中心的従業員であったり重要な職位についていない限り、一般的には業務に差し支えさえなければ、使用者は労働者が辞表を提出した後一ヶ月を待たずして契約を打ち切ることができるのである。しかしこれにより一つの問題が生じる。この案例がまさにそれだが、労働者は離職を表明した後必ず30日を待って労働関係を終了させなければならないのか?

 労働者の権益保護の観点から、法律は労働者へ一方的な労働契約解除における優位性を与えている。我が国の「労働法」第31条には、「労働者が労働契約を解除するときは、三十日前に書面により使用者へ通知しなければならない」とある。「労働契約法」にもこのような権利が規定されているが、これは労働者の一方的な契約解除の権利を立法という形で原則規定しているのである。権利には当然、義務が付随する。労働者には離職の自由が認められている反面、法的手続を遵守することを義務付けられている。これは使用者の人員引継ぎや業務の連動性、業務秩序を確保し、労働者の離職によって生産活動に影響を及ぼし、不必要な損害を出すことを避ける為である。労働者は30日前に、使用期間内ならば3日前に労働契約の解除を申し入れることが、労働者に課せられた法的責任であり、義務である。労働者には、労働契約解除を予告する義務がある。

 この案例においては、更にもう一つの問題が存在する。労働者が労働契約解除予告を遵守しなければならないのは、使用者の正常な経営を保障するためのものであり、使用者は労働者へ義務の履行を求める権利を有する。しかし、権利とは放棄することが出来るものであり、ならば使用者が権利を放棄した場合、労働者へ労働の継続を求めないこともできるのであろうか?我が国の憲法では、労働とは公民の権利であり義務である。法で定められた権利である以上、如何なる自然人、法人であってもこれを剥奪することはできない。ゆえに、この案例において、劉さんが離職を表明する際、10月12日まで働くと明確な意思を示しているにも関わらず、会社側がそれ以前に退職させることは、劉さんの労働の権利を剥奪したこととなり、会社側が一方的に劉さんとの労働契約を解除したこととなる。

 法律においては、労働者へ離職前の予告期間を規定しているが、これに反した場合の結果について、法律では特に明確な規定はない。このことから、実際上労働者の離職は随意であり、使用者の労働者離職手続についてはそれほど重要視されていないと言える。

 この案例は我々に一つの啓示を与えている。こと多くの退職届に最終勤務日が明確に記されていない状況にあっては、最終勤務日をしっかり確認しておかなくてはならない。もし劉さんのように引継ぎを終わらせているために、これ以上勤務を続ける必要が無いならば、双方で最終勤務日の変更をしっかり話し合っておくと、このような「胸の詰まる」ような結末を避けることができるのである。


        寄稿 --- 中智HR 法律諮詢部