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【判例】離職協議書への署名は慎重に(2014年7月23日)

【判例】離職協議書への署名は慎重に(2014年7月23日)

案情:

 顧さんは2008年8月より、上海の某企業管理コンサルティング会社で総経理助理として働いていた。彼女は2010年4月30日まで15000元の賃金で働く旨の労働契約を結んでいた。労働契約期間満了後、会社側は顧さんとの労働契約を放ったままにしていた。顧さんが何度も催促した結果、会社側は2010年12月20日、2010年5月1日から2011年4月30日までの労働契約を改めて締結し、顧さんは契約した当日の日付をもって署名した。

 2011年4月20日、会社側は顧さんへ労働契約の打ち切りを伝えた。会社側は規定に基づき経済補償金を支払うと共に、「離職協議書」にその場でサインするよう求めたため、顧さんは協議書にサインした。「離職協議書」には会社側が顧さんへ経済補償金35064元を支払う旨が記載されていたが、その条項には「双方は労働者と会社及び関連会社の二者間における一切の請求権(賃金、賃金二倍払い、各種手当、福利厚生、経済補償金、賠償金及び社会保険、退職手続など)は本協議において全て解決したものであり、一切の争いが無いことを確認する」と記されていた。

 顧さんは離職後、会社側との離職協議において、労働契約未締結による二倍の経済補償金が盛り込まれておらず、離職協議は不公平であり撤回すべきだと感じた。2011年5月20日、顧さんは労働仲裁を申し立て、会社側へ2010年6月1日から2010年12月19日まで、書面による労働契約が為されなかった期間の賃金の倍額である98965.52元を請求した。先日結審した本案件で、顧さん側の訴えは退けられた。

分析:

 本案件は主に使用者が労働契約を締結しない事に対する責任と義務、離職協議の履行と撤回の可否が焦点となっている。本案件の分析をもって、使用者の労働契約や労働者の離職協議における手助けとしたい。

一、使用者には賃金二倍払い、労働契約の締結の二つの義務が生じている

 「労働契約法実施条例」第六条には、使用者が労働者を使用した日から起算して1ヵ月から1年の期間において労働者と労働契約を締結しなかったときは、労働契約法第八十二条の規定に基づき労働者へ毎月2倍の賃金を支払うものとし、書面による労働契約を締結するものとする、とある。このことから、使用者が1ヵ月を経過しても労働者と書面による労働契約を締結しなかったときは、賃金二倍払いと書面による労働契約締結の二つの義務が生じることになる。

 本案件において、顧さんと会社側の労働契約が2010年4月に満了した後、会社側は自身の責により労働契約を結ばなかった。2010年12月20日に顧さんと書面による労働契約を締結したとしても、賃金二倍払いの義務は免れ得ない。

二、成立した離職協議は絶対有効とみなされる  労働者は署名の際に細心の注意が必要

 「最高人民法院労働争議案件審理における適用法律に関する若干問題の解釈(三)」第十条には、労働者と使用者が労働契約解除または終了の協議手続において、支払われるべき賃金報酬、時間外手当、経済補償金その他賠償金において協議が成立し、これが法律その他行政法規の強制規定に反せず、また詐欺、強迫及び『乗人の危』が無いときは、これを有効とする。前項の協議において重大な錯誤及び著しく公平性を欠く状況があり、当事者が請求したときは、人民法院はこれを認める、とある。この規定によれば、使用者と労働者が離職協議に署名した場合、法律その他行政法規の強制規定に反しなければそれは有効と見做される。ゆえに労働者がその詳細を確認せず書名したとしても、一旦署名すればそれに基づいて履行される。

 本案件において、会社側と顧さんが離職協議書に署名した際に、会社側による詐欺、強迫及び『乗人の危』があったことが証明されていない以上、双方の署名した離職協議書は有効なのである。会社側が顧さんへ支払う経済補償金が会社側の支払うべき二倍賃金の額を満たさないことは、確かに「公平性を欠く」と言える。但し、二倍賃金支払いの性質は法律責任に属しており、労働の対価としての労働報酬とは異なる。顧さんが離職協議書に署名したということは、会社側の労働契約未締結への法的責任追及を放棄したことを意味するため、公平性の問題は存在しないということになる。顧さんが離職協議に署名し、会社側と他に争う事実が無いことを確認した以上、離職協議の成立後にこれを撤回する事には法的根拠が無く、認められないということになる。

関連事項:

 使用者は入社後すぐに労働者と書面による労働契約を締結しなければならない。さもなくば、契約しなかった期間について二倍の賃金を支払うこととなる。労働者は使用者との離職協議において、その内容を細部までしっかりと確認し、支払われるべき賃金、時間外手当、経済補償金及び賠償金の支払い、仲裁申立の放棄、その他の争いの有無には特に注意を払わなければならない。一旦署名すれば、もう後戻りできないのである。


        寄稿 --- 中智HR 法律諮詢部