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【寄稿】高齢者と介護施設から見た上海の介護サービス(2014年8月27日)

【寄稿】全ての高齢者に、豊かな老後を --
高齢者と介護施設から見た上海の介護サービス(2014年8月27日)

     上海市は中国において高齢化が最も進んだ都市であり、60歳以上の戸籍人口は既に25%を越えている現状で、上海市の高齢化とその趨勢は政府及び各界の注目を大きく集める社会問題となっている。

     近年来、上海市人民政府は「上海市老齢事業発展『十二五』規則」、「上海市人民政府の本市『十二五』期間養老機構建設推進に関する若干意見」等の文書を相次いで公布し、上海市における老人介護施設の発展を推進しようとしている。近日、国家統計局上海調査総隊は、上海にある67軒の老人介護施設に対し調査を行い、その中で老人介護施設サービスのニーズと評価、課題とボトルネックについてより理解を得た。

一、老人介護施設入居者の感想と評価

    現在、高齢者が介護施設入居を選択している主な要因は、介護者がいない(61.8%)、子供の負担を減らしたい(41.5%)近い年代の老人と話が合う(26.8%)(注:複数選択のため100%を超えます)という意見が多いが、老人介護施設に入居している高齢者はどのように感じているだろうか?

    1、入居一年程度で、8割の高齢者が生活に慣れる

     調査では、大部分の高齢者が一年前後で介護施設での生活に慣れており、その割合は83.3%に及ぶ。高齢者の入居期間が長ければ長いほど生活に慣れており、5年以上入居している高齢者においてはその割合が90.1%に及んでいる。

    2、子供とのコミュニケーションが、健康な高齢者にとって最大の楽しみである

     調査では、70%の高齢者が介護施設での生活に満足している。高齢者の身体的健康はその精神に大きく影響するが、子供とのコミュニケーションの有無はそれに劣らず大きな影響を及ぼす。健康な入居者の84.8%が、子供と毎日コミュニケーションを取っている入居者のが80.5%が、子供が毎日尋ねてくる高齢者の88.9%が、人生に楽しみを感じている。

    3、設備面では、住環境に最も満足を覚えている

     近年、介護施設では設備整備が急ピッチで進んでいる。調査では、介護施設の室内面積は平均25㎡で、全ての施設で室内にトイレ、テレビ、浴室、緊急呼出設備などが揃っている。多くの介護施設では屋外運動場や、公共健康娯楽施設などを揃えており、一部施設ではインターネットも使用可能である。高齢者の、施設設備に対する満足度は80.8%であった。

    4、サービス態度と価格については尚可

     介護施設のサービス態度と介護、価格について満足している高齢者は、それぞれ68.6%、64.1%、61%であった。公的介護施設の満足度はやや高く、サービス態度については11.7%、価格については18.3%、介護については8.9%民間施設より高くなっている。

    5、高齢者は介護だけでなく、楽しみを求めている

     调查反映,入居者が介護施設を評価するに当たり、文化的生活への満足度が最も低く39.4%、に留まっている。一方で27.5%の高齢者が何らかの組織的文化活動ができると考えており、介護施設で豊富な文化的活動を行い、心身の健康に有益な文化娯楽及び体育活動を楽しむ共に、体調に応じて旅行するなど豊かな文化的生活を送り、交流を深めたいと考えている。一部介護施設では高齢者へパソコンや絵画、書道などを教えており、介護だけでなく娯楽をも享受できるようになっている

二、上海の介護施設が抱える主な課題

    上海市では、家庭、社区、機関が三位一体となって高齢者介護を行う「9073」介護状況(90%の高齢者が在宅による介護を、7%が社区の介護サービスを、3%が介護施設での介護を受ける)が形成されている。
    介護施設に入居している高齢者の多くが80歳を過ぎた後期高齢者であり、その平均年齢は85.2歳である。
    「十二五」期間、「上海市人民政府本市「十二五」期間における介護施設建設推進に関する若干意見」によると、上海市は3万床の高齢者介護病床を新たに増設する。うち2万床は政府によって増設されるが、1万床は民間資本によって増設される。また、区域別の介護病床増設指標が明確になり、これを硬性指標として地方政府はその業務を考課される。しかし、現在介護施設はその経営において、いくつかの大きな困難とボトルネックを普遍的に抱えている。

    1、コストの増大による経営困難

     近年、介護施設のコストは上昇を続けている。調査を受けた介護施設は総じて利益が出ていないか、赤字状態であった。その主な原因は、まず従業員の賃金上昇が早く、例えばかつて千元前後だった介護職員の賃金は、現在三千元近くにまで上がっている。次に、食物のコストが明らかに上昇しており、2010年以降上海市の食品価格インフレ率は7.7%、10.8%、5.8%、4.4%となっており、介護施設の運営コストを大幅に上げている。三つ目に家賃などの施設コストが経営を圧迫しており、政府の支援などによって当面借り賃を納める必要がなくなり収支が安定しているとはいえ、一旦家賃などの納付が決定された場合、経営は更に困難なものとなるだろう。

    2、支払い能力の限界、料金アップは望めず

     コスト上昇圧力に面しているとは言っても、それを料金に転化することは難しい。

     調査では、現在9割を超える介護施設居住者が退職金や年金から費用を捻出していると答えている。うち36.2%が全額退職金及び年金から費用を支払っており、33.1%が子供達からの一部補助を得て費用を支払っている。また、19.2%的高齢者需要动用积蓄。本質的な観点からすると、まず高齢者の收入は普遍的に高くなく支払い能力に限界があり、介護施設の値上げはなかなか受け入れられない。

     次に、子供たちは介護施設の値上がりを認めない。三つ目には、一部介護施設が現在の政府主導による介護施設利用価格の低下を受けて料金を下げすぎ、まともな運営ができなくなっている、という問題が存在している。政府主導による、介護施設のサービスが低下しない前提で、許される範囲の合理的価格設定が待たれるところである。

    3、法的整備の欠如 高い賠償リスク

     現在高齢者の家族の多くが、介護施設で生活している高齢者について、その責任は全て介護施設が負うべきであると考えている。

     高齢者は身体が弱っているため、事故が容易に発生し得る。しかも高齢者は多くの病気を抱えやすく、大部分の介護施設では医療設備が整っていないため、発病時の一次救護ができない。一旦高齢者が怪我や病気、または死亡する事態が起ると、その家族が不合理なまでに巨額の損害賠償を請求してくる可能性がある。

     このことから、介護施設は高齢者一人当たり150元の介護施設自賠責保険に加入することで損害賠償金の支払いを3分の1に減らし(残りの額は市、区が折半して負担する)、ある程度まで介護施設のリスクを減らしている。しかし介護施設に言わせると、介護施設自賠責保険の額は低く、最高でも8万元までしか保障されないため、高齢者家族の求める賠償金を贖えないのである。

     また、一旦問題が発生すると、世論は往々にして高齢者の家族の肩を持つため、介護施設側にとって不利に働く。また、現在の法律は介護施設と高齢者家族の責任境界が不明瞭で、問題が発生した場合、介護施設側が法的手段による自己防衛を行うことはたいへん困難である。

    4、介護体制の不備 専門医療の欠如

     施設入居者の、医療機関設置を求める声はたいへん大きい。調査では、26.1%の入居者が介護施設内に衛生所を設置し、医療保険管理を望んでいる。また、同時に介護施設の医療サービス水準向上を求めている。23.7%の入居者が介護施設へ多くの医者や看護士を招き入れ、高齢者医療の向上を希望している。

     しかし現状では、大部分の介護施設で基本的な介護、医療人員が不足している。このボトルネックの主な要因は、まずハードな業務の割に収入が低いことが挙げられる。介護業務は家事サービスと違って求められる技能が高い割に収入が低く、仕事もきついため、介護職員がなかなか集まらないのである。

     次に、介護施設はコスト削減という立場から、若くない従業員を雇う傾向にあり、人材の範囲も限られてくる。結果介護施設には年齢の高い、素質の低い介護職員が集まることになる。三つ目に収入が低い、夜勤がある、就業時間が長い、将来性が無いなどの原因で、介護職員の仕事に対する意欲が低くなってしまうという点が挙げられる。

     撰稿:何愉    データ元:国家統計局上海調査総隊