在上海日本国総領事館 片山 和之 総領事 インタビュー!(聞いてみなければ解らない!中智日本企業倶楽部 人物インタビューシリーズ 第53回) - HRM.com
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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第53回

『在上海日本国総領事館 片山 和之 総領事 インタビュー!』2018/7/5


 

在上海日本国総領事館
 片山 和之 総領事


  ●  我的芳華在中国—日本人外交官と中国の絆

  ●  より多くの中国人に本当の日本を見てほしい

 

(弊社インタビュアー)(以下中智)

中国の目覚ましい経済発展により、近年訪日客数は毎年のように過去最高を更新し続けています。また日本からの対中投資も再び活発化する傾向が見られるだけでなく、中国企業の日本に対する関心も高まりを見せています。この様に日中関係が新しい時代を迎えつつある中で、日中友好の懸け橋として、日中の経済文化交流活動に積極的に取り組まれている在上海日本国総領事館の片山和之総領事にインタビューしました。

 

◆◆◆  大学時代、外国人との交流から外交官を志す   ◆◆◆

(中智)

若いころから外交官を志していたのでしょうか。

(片山総領事)

私が生まれ育ったのは広島県の田舎にある、ごく普通の一般家庭で、高校までは外国人と交流する機会がありませんでした。大学に入学して初めて外国人の友人ができ、英語を使って話をする中で外国人とのコミュニケーションや外国との関係に興味を持つようになり、直接に外国と関わる外交官になりたいと思うようになりました。

(中智)

外交官になる為に、どの様な勉強をされたのでしょうか。

(片山総領事)

当時、外交官になるためには、他の国家公務員とは異なる独立した外交官試験を受ける必要がありました。試験科目について言うと、憲法、国際法、経済原論の3分野が最も重要でした。そのほか、外国語、外交史、行政法、民法、経済政策、財政学と、政治経済、法律、国際関係等幅広く勉強することが求められました。

(中智)

片山総領事は、外交官として中国だけではなく、世界を股にかけて仕事をされてきました。これまでの経験から、外交官として必要な資質について、どの様にお考えですか。

(片山総領事)

これについて、イギリスの有名な外交官だったハロルド・ニコルソンが、著書『外交』の中で外交官にとって必要な資質について「誠実、正確、穏やかさ、忠誠心、高潔、謙虚」の6点をあげています。
人間としての「誠実さ」は外交官として非常に大切です。確かに外交はお互い国の利益を代表し、衝突する事や騙し騙されの駆け引きが無いとは言えません。しかし人と人との関係なので、この人がここまで言うのならしょうがないと思うか、この人のいいなりにはなりたくないと思うのか、信頼関係を構築するには、人間として誠実かどうかが重要になります。「正確さ」については、外交では相手の言った事を正確に理解し東京に伝えなければなりません。もし間違えて伝えてしまい、相手が言ったことと東京の理解がずれてしまうと大きな問題になります。逆に東京の言った事も、相手に正確に伝えなければなりません。「穏やかさ」については、穏やかな性格のほうが話しやすいですよね。外交は相手の本心を引き出すことが大切なので、相手が話しやすいと思う穏やかな態度でなければなりません。「忠誠心」は当然で、自分の国に対する忠誠心がなければ仕事は務まりません。「高潔さ」も、中国語では「廉潔」といい、賄賂を受け取るなどは論外です。「謙虚さ」については、皆さん自慢話ばかりする人とは付き合いたくないでしょう。これまで外交官として、世界で一流の学者や経済人の方々と交流する機会がありましたが、総じて皆さん謙虚でよく人の話を聞かれます。自分の自慢話ばかりする人に一流の人物はいません。

(中智)

片山総領事は、外交官として中国との関わりが非常に深く、中国語も堪能です。さらに昨年は「対中外交の蹉跌」という日中外交史に関する著書を出版されました。学生時代から中国語や中国に関する勉強をされていたのでしょうか。

(片山総領事)

大学では、第二外国語には中国語ではなく、フランス語を専攻していました。しかし中国に関しては個人的に興味があったので、日中の近代史に関連する様々な本を読んでいました。中国語の勉強は、大学四年生の時に週一回の中国語授業を受講した事がある程度です。その当時の授業で教えてもらった事で、今でも覚えている内容が一つだけあります。菊の花の「キク」という発音は音読みですか、訓読みですかという質問です。多くの日本人は訓読みだと思っています。しかし正解は音読みです。菊は元来日本には自生しておらず、中国大陸から漢字と共にもたらされました。その時発音も一緒に入ってきたので、訓読みはありません。

(中智)

菊は日本のパスポートにも使用されるなど日本を象徴する花です。それが中国から伝わり、中国語の発音に基づいた音読みしか存在しないというのは興味深いエピソードですね。

 

◆◆◆  我的芳華在中国—中国を専門とする外交官へ  ◆◆◆

(中智)

片山総領事と中国の絆が深まるのは、外務省に入省後のことでしょうか。

(片山総領事)

私が大学生だった1979年から83年の頃は、まだ外国旅行は一般的ではなく、外務省入省時にも外国を訪れた事のない同僚が多くいました。当時の外務省では、入省して2年目に海外留学をさせてもらえ、そのとき、何語を勉強したいか希望を出す事になっていました。英語やフランス語は、流暢に話せる人が沢山いるので、習得してもあまり目立たないと考え、大学4年生の時に少し勉強した事があり、また以前から日中関係に関心があった事から、中国語を希望しました。当時は、中国語希望者が少なく、すんなりと希望が通りました。外交官として35年間、この間に中国の国際的な地位は飛躍的に上昇し、日中間においても、貿易や交流が何百倍にも拡大しました。この時、中国語で外交官の道を選んで本当に良かったと思います。

(中智)

中国での留学生活はどの様なものでしたか。

(片山総領事)

84年から86年までの2年間北京に留学しました。1年目は、北京語言学院で集中的に中国語を勉強し、2年目は北京大学に留学しました。北京語言学院の寮に住んでいた当時、100人近くの留学生達と一緒に暮らしていましたが、電話はダイヤル式の黒電話が管理人室に1台だけでした。電話がかかってくると放送で呼ばれ、管理人室まで行って電話をしていました。また、当時は電話回線の状況が悪く、タクシーを呼ぶために、タクシー会社に電話をかけても、繋がる前によく話し中になるため、何度も掛け直す必要がありました。やっと苦労して繋がったと思ったら、「没有」とすげなく断られる事がよくありましたね(笑)。

(中智)

80年代から中国を見てこられ、現在の中国の発展をどの様に感じますか。

(片山総領事)

留学当時、電話をかけるのにも苦労していたのが、今では皆さんスマートフォンを持ち、世界最大の携帯電話大国になっています。また、80年代に外国人が利用する様な高級レストランで食事をすると、一般の中国人の給料一か月分くらいの料金を請求されました。ところが今では、上海の不動産価格やコーヒーの値段は東京よりも高くなっています。モバイル化、キャッシュレス化も急速に進み、中国の若者たちは現金を持たずに生活をしています。当時には想像できなかったような大きな変化がありました。私自身もネットショッピングや「支付宝」などのモバイル決済を便利に利用しています。

 

◆◆◆  多くの中国人に、等身大の日本の姿を見て欲しい  ◆◆◆

(中智)

上海総領事館におけるビザの発給状況について教えて下さい。

(片山総領事)

昨年は、上海総領事館だけで約185万件のビザを発給しました。これは全世界のビザ発給件数の約32%を占める量です。最近は1日の平均ビザ発給数が1万件を超えており、御用始めの1月4日には今年最多となる2万件を超えるビザ申請を記録しました。

(中智)

中国人の訪日観光者数は、毎年増え続けており、特に上海総領事館からのビザ発給数が最も多いとお聞きしています。本来であれば審査期間が長くなると思いますが、総領事館の工夫でビザ申請手続きは、ますます速く便利になってきています。円滑なビザの発給を実現するため、どの様な努力を行っていますか。

(片山総領事)

まず日本政府の方針として、多くの外国人に日本へ訪れてもらいたいと考えています。日本へ来て自分の目で見て、日本の本当の姿を正しく認識していただきたい。また日本で消費していただくことで、日本経済にもプラスになります。訪日外国人の約四分の一は中国人の方々なので、これから東京オリンピック・パラリンピックを控え、訪日外国人を増やすには、やはり中国人の方々により多く日本へ訪れていただくことが大切です。
そして円滑なビザ発給を実現するために、ビザ発給要件の簡素化や最大10年のマルチビザの発給、総領事館スタッフの増員を行なう事で、ビザ発給数が増える中でのサービス向上に努めています。

(中智)

日本でお勧めの観光地はありますか。

(片山総領事)

東京・京都・大阪を結ぶゴールデンルートは皆さんよくご存じだと思います。沖縄や東北を観光していただくと3年のビザを出しています。雄大な景色が広がる北海道は、映画をきっかけに人気が出ています。世界遺産に登録されている鹿児島の屋久島は、巨大な屋久杉や豊かな自然から東洋のガラパゴスと呼ばれています。ほかには、日本各地にある温泉めぐりや地方のお祭り、新鮮な海の幸や和牛などの名物料理を味わってはいかがでしょうか。また、私の郷里広島にもぜひお越しください。

 

◆◆◆  今も続く震災への義捐金  ◆◆◆

(中智)

日中の友好関係について、特に昨年から今年にかけて、大きな進歩がありましたが、総領事館及び片山総領事の貢献が大きいと思います。約2年半の上海総領事館での仕事で、印象的な出来事をお聞かせ下さい。

(片山総領事)

2011年の東日本大震災、16年の熊本地震の際には、中国の方々から多くの義捐金が寄せられ、在上海日本国総領事館が直接受け付けた義捐金だけでも、東日本大震災の時は約四億円、熊本地震の時は約五千万円もの寄付をいただきました。個人だけではなく、上海の企業家の集まりである新沪商連合会からは、二千万円を超える寄付をいただきました。実は、今年の1月には、震災復興に役立てて欲しいと、上海の女性から個人として一千万円もの寄付をいただき、中国の方々の日本に対する温かい心を強く感じています。

(中智)

微信で発信されている総領事館の活動を拝見すると、朝から夜の公邸での懇談まで非常に忙しく活動をされています。土日も関係なく政事経済関係の業務、文化交流活動や大学生との交流、各種イベントへの出席など余暇を楽しむ時間があまり無いように感じますが、普段の趣味やストレス解消方法についてお聞かせ下さい。

(片山総領事)

ご指摘の通り土日に行事がある事も多く、半年近く休みのない時期もありました。確かに土日も仕事をしていますが、いつも終日予定が詰まっている訳ではありません。例えば土曜日の午前中や日曜日の午後の半日は時間が空いている日もあります。その様な時間をうまく利用して、公邸近くの旧フランス租界を散策したり、美術館や博物館へ訪れたり、映画館で映画を鑑賞しています。最近だと、中国映画の「芳華」を鑑賞しました。ちょうど自分は劇中の人物と同じ世代でもあり、私は中国人ではありませんが、懐かしさを感じました。旅行も趣味で、今回の上海勤務では、ついに中国の全ての省・自治区・直轄市・特別行政区を訪れることができました。

 

◆◆  日中関係をいかにウィンウィンの関係にするかという発想が大切  ◆◆

(中智)

片山総領事は、海外勤務の経験が豊富ですが、日系企業の駐在員にはどの様なマインドが必要だと思いますか。

(片山総領事)

駐在員の中には、中国が好きな人、特別な感情を持たない人、または嫌いな人もいるかも知れません。しかし日中関係は好き嫌いという感情のレベルを超えた経済関係ができており、日中関係をいかにウィンウィンの関係にしていくかという発想が大切ではないでしょうか。日本経済にとって、14億人の巨大市場である中国とどう関わっていくかは死活的に重要です。そのような観点で、ビジネスを行う必要があります。

(中智)

将来日系企業で働きたい、または現に働いている中国人の若者に対して、日系企業で仕事をするにあたっての心構え、将来性などについてアドバイスをお願いします。

(片山総領事)

まず初めに、日系企業で働く事に関心を持っていただいていることに感謝します。ご存じの通り日系企業、中国系企業、欧米系企業ではそれぞれ企業風土や雇用制度が異なります。日系企業について言うと、ボトムアップ、年功序列的な要素がまだ残っています。どれだけ優秀な若い社員であっても最初は下のポジションから始まり、少しずつ給料やポストが上がってゆきます。すぐに高い給料やポストを得られないけれども、安定していて解雇されることは少ないという特徴があります。能力に自信のある人からすると、いきなり高い給料とポストで処遇されるほうが有難いかも知れませんが、その様な企業は逆に、満足な成績をあげることが出来なければすぐに解雇されてしまいます。その様な日系企業の特徴を理解し、今はあまり待遇が良くないと感じても、全体的に中長期的な観点から、日系企業への就職を考えて欲しいと思います。

(中智)

最後に、中国の方々にコメントをお願いします。

(片山総領事)

中国の皆様には、ぜひ日本を訪れて自分の目で、冷静で客観的に日本の社会を見ていただくことを望みます。特に、中国の若い人たちには期待しています。実は、このインタビュー後に中国の大学生たちと、ケーキを食べながら交流する予定です。

(中智)

片山総領事の外交官としてのキャリアは中国からスタートし、世界を股に掛ける外交官としてご活躍されてきました。中国以外の国へ赴任している時も、その国と中国との関係を気にかけていたそうです。片山総領事が、インタビュー後の交流で言われた、「我的芳華在中国」という言葉が印象的で、片山総領事と中国との絆と愛情を感じました。
上海総領事館の総領事として、毎年中智上海主催の日本企業倶楽部・智櫻会新春賀詞交歓会でご来賓ご祝辞をいただき、敷居の低い総領事館という理念から、より日中友好事業に力を入れておられる事を感じています。昨年、出版された著書『「対中外交の蹉跌」―上海と日本人外交官』の中に、片山総領事と中国、そして上海の事が詳しく書かれています。
この度はご多忙なスケジュールの中、長時間のインタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

 

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 【片山 和之(かたやま かずゆき) 氏のプロフィール】

在上海日本国総領事館 総領事
1983年に京都大学法学部卒業後、外交官試験に合格し外務省入省。84年に外務省から北京語言学院、北京大学へ留学し、87~89年,97~99年及び08~10年の3回に亘る中国大使館勤務を経験する。その間、94年に外務省アジア局中国課首席事務官、96年に内閣官房副長官(事務)秘書官、02年に外務省国際エネルギー課長、04年に文化交流課長等を歴任する。海外では中国のほか、在アメリカ合衆国日本大使館、在マレーシア日本大使館、在ベルギー日本大使館に勤務し、13年には在デトロイト日本国総領事館の総領事に就任する。15年8月から在上海日本国総領事館の総領事として初めて上海に赴任し現在に至る。

 

片山総領事インタビュー風景
片山総領事インタビュー風景

中智上海単総経理との記念写真
中智上海単総経理との記念写真

  
 中智上海が総領事公邸での合影
中智上海が総領事公邸での合影

中智新春会ご挨拶風景
中智新春会ご挨拶風景

  
片山総領事ご著書
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