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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第61回

『兄弟機械商業(上海)有限公司 藤澤 則彦 董事長・総経理 インタビュー!』2019/5/27

<strong><font style="font-size:19px">海外勤務未経験の営業担当が中国事業を成功に導くまで</font></strong>

海外勤務未経験の営業担当が中国事業を成功に導くまで

<strong><font style="font-size:19px">——兄弟機械商業(上海)有限公司 董事長・総経理 藤澤 則彦 氏</font></strong>

——兄弟機械商業(上海)有限公司 董事長・総経理 藤澤 則彦 氏


 

兄弟機械商業(上海)有限公司

藤澤 則彦 董事長・総経理

 

愛知工業大学卒業後、1988年にブラザー工業に入社。入社後は一貫して工作機械部門で国内営業を担当する。2000年に中国事業へ配属され、中国での製造販売事業を企画、西安市の工場と上海市の販売会社を立ち上げる。04年から上海へ赴任、18年4月から董事長・総経理に就任し現在に至る。

 

 

◆◆◆ 70年前に初めてミシンを輸出して以来、海外売上比率が83%を占める ◆◆◆

ブラザーグループの歴史は、1908年に創業者の安井兼吉が開業したミシンの修理業にさかのぼる。

ブラザーとういうユニークな名称の由来とそのDNAについて藤澤総経理はこう説明する。「兼吉の家業を継いだ正義と弟の実一は、当時輸入に頼っていたミシンの国産化を志し、1932年に家庭用ミシンの開発に成功しました。兄弟で力を合わせてミシンを開発し事業を拡大したことから、その後の社名や商標にブラザーを用いるようになりました。その際、ミシンを作る機械までも自分で開発する事にこだわり、この「自前主義」や「品質第一主義」はその後もブラザーのDNAとして継承されています。」

その後、ミシンで培った技術を活かして事業の多角化を推進し、現在ではミシンだけではなくコピー機や電子文具、産業機器、通信カラオケシステム等の幅広い分野で製品やサービスを提供している。

1947年に家庭用ミシンを中国上海向けに初めて輸出して以来、その後70年以上を経た現在では、ブラザーグループの海外売上比率は83%を占めるまでになり、そのうち米州が29.4%、欧州が25.4%、アジアが28.2%と全世界でバランスの取れた売上げ収益構成を実現している。


 

◆◆◆ 転勤制度を整え、人材育成に力を入れる ◆◆◆

兄弟機械商業(上海)は、兄弟(中国)商業有限公司から工業ミシン事業、兄弟机械(西安)有限公司から産業機事業の各販売部門が合併し、2010年に設立された。主に中国の西安工場で生産された工作機械と工業用ミシンを中国国内向けに販売しており、顧客の約80%を中国ローカル企業が占めている。近年、縫製工場が中国から他のアジア地域へシフトしている影響で、同社の工業用ミシン販売も中国からその他アジア地域へシフトしているが、工作機械の売り上げは順調に伸びており、同社はこれまでグループ全社から選ばれる社長賞を3回受賞している。今では中国の売上げ額は工業ミシンで全世界の20%を占め、特に工作機械においては全世界の売上げの約半数を占めている。

「当社の工作機械は、高い生産性と環境性能から自動車やパソコン、スマートフォン、高級時計等の部品加工において、お客様から高い支持をいただいています。」政府が進める中国製造業のアップグレードも追い風に、工作機械市場の発展余地は大きいと藤澤総経理は語る。


同社は中国各地に販売拠点を設けており社員の出張や転勤が少なくない。「中国全土に13拠点を設け、上海から各地方への出張や転勤だけではなく、各地方間の出張や転勤もあります。転勤先を決める際には、なるべく社員の出身地を考慮するようにしています。そのほか転勤者には、住宅補助や転勤手当、引っ越し手当等の各種手当を支給しています。さらに単身赴任者には毎月一回の帰宅旅費を支給しており、ほぼ日本本社と同じ水準の制度を整えています。」一般的に中国人社員は転勤に消極的だと言われるが、きちんと制度を整え、会社からどの様なサポートを受けられるか明確にすれば、多くの社員が転勤に応じてくれると藤澤総経理は言う。

中国は地域によって法律や政策が異なる点について、確かに拠点が多いと人事管理が難しくなるが、中国全土をカバーする中智のサポートがあるため、安心して業務に専念できると付け加えた。

順調に事業が拡大する中で優秀な人材の育成が課題となっており、藤澤総経理は、社員教育に力を入れている。「営業部門とサービス部門、技術部門で教育方法が異なります。サービス部門と技術部門では毎月集めて研修を行っています。営業部門では年に3回、営業に必要な知識のテストを実施し、営業の成功事例と失敗事例を各参加者に発表してもらいます。そして最後に、私が講師となり営業のノウハウやお客様との信頼関係を築く方法を教えています。」藤澤総経理自ら講師を務める「藤澤塾」は社員達に好評で、最近では、ブラザーの社員からこの話を聞いた代理店からも講師を依頼される事が増えているという。


 

◆◆◆ 日本国内営業の担当者から、中国事業立ち上げの責任者へ ◆◆◆

藤澤総経理は、ブラザー工業に入社以来、一貫して工作機械部門で日本国内営業を担当してきたが、2000年に会社から中国担当を命じられる。

「正直に言うと戸惑いました。入社以来ずっと国内営業を担当しており、外国は仕事ではなく、観光に行くものだと考えていました。英語は苦手でましてや中国語はさっぱり理解できない私が、突然に中国担当を命じられたのです。」2000年は運悪く、ちょうどITバブル崩壊の時期と重なる。

「当時、工作機械部門は主にハードディスク業界のお客様がメインだったので、ITバブル崩壊の影響が直撃して売上げが激減、工作機械部門の売却が検討されるほど深刻な事態に陥りました。」

最悪のタイミングで中国事業を担当する事となった藤澤総経理だったが、すぐに起死回生の新たなプロジェクトを提案する。「中国で工作機械を製造販売する新たな事業を企画し提案したところ、当時の副社長の目に留まり、すぐに事業化の指示を受けました。そこで現在の川那辺代表取締役専務執行役員とマシナリー事業の渡辺製造部長それに私の3人でプロジェクトを開始し、03年に西安市に生産委託先を、翌04年には上海市に販売事務所を設立しました。」中国担当になってからも、しばらくは駐在せず日本で指揮を執っていたが、04年に販売事務所を設立したのを機に上海へ駐在することになる。それ以来、途中日本へ一時帰任するも、中国駐在は累計13年間に及ぶ。

「中国事業を立ち上げた頃は、大きな旅行カバンを持って北は黒竜江省から南は香港まで、中国全土の工場へ営業に駆け回りました。当時は慣れない外国勤務に交通事情が今ほど整っておらず苦労しましたが、これまでの人生で最も充実した日々でした。あの頃はお客様を西安の工場へアテンドする事がよくあり、その際には必ず兵馬俑へ案内していました。」兵馬俑へ案内する理由を尋ねると、藤澤総経理はおもむろに名刺入れから兵馬俑の入場券を取りだして私たちに見せてくれた。入場券の裏にはブラザーの広告が印刷されていた。


海外での勤務経験のないまま、いきなり中国法人のマネジメントを任され、当初は中国との文化の違いに戸惑ったという。「初めの頃、全く理解できなかったのが中国人社員の面子に対するこだわりです。日本と同じ様に、部下を皆の前で叱責するなど、意識せずに社員の面子を潰すような接し方をしてしまい、社員達から反発を受けたこともありました。」

ほかにも、責任に対する捉え方に違いを感じるという。「日本では、たとえ平社員でも会社を背負っているという責任感をもって仕事をしなければならないと考えるのが一般的です。それに対し中国では、職務と責任を一体として捉える傾向にあり、権限が無い=責任が無いという考え方をする人がよく見られます。中国での人材マネジメントにおいては、職務や権限と責任を明確にする人事制度のほうがうまくいくように思います。」

現地化が進む中で、駐在員の役割や目的も変化してきている。「駐在員の役割で最も重要なのは、日本本社からの方針や指示を現地社員に正確に伝えることです。」また最近ではグローバルで戦える社員を育成するため、日本から若手社員を積極的に海外へ派遣して経験を積ませている。多くの日系企業では、日本で管理職経験のない若手社員でも中国に駐在員として派遣されると、管理職として部下を持つことになるため、マネジメント能力不足から中国人社員との仕事がうまく行かないという話を耳にする事がある。これに対し藤澤総経理はこう答えた。「当社では、日本で管理職経験の無い若手駐在員をいきなり管理職につけることはありません。駐在員であっても一般社員として、中国人上司の下で働いてもらう事もあります。」


インタビュー現場風景


中智との記念写真

インタビューの最後に今後の中国ビジネスの展望について尋ねた。「中国は、世界の工場から世界の市場へと変化しつつあり、消費の拡大は、我々のBtoBビジネスにとっても大きなチャンスだと考えています。これからも顧客第一主義、at your sideの精神で、お客様に認められるサポートを心がけ、中国のモノ作りに貢献していまいりたいと思います。」


brother showroom


【中智からの感想】

藤澤総経理が中国事業を立ち上げる前、中国での年間売上げ金額は、わずか2億円に満たない程度でした。それが現在ではブラザーグループにとって重要な市場の一つにまで成長しています。藤澤総経理は、うまく経済成長の波に乗れただけだと謙遜しますが、生き馬の目を抜く中国市場は、運だけで勝ち残れるほど容易ではありません。今回のインタビューを通して、中国市場で勝ち残るには、適切な人事制度と社員教育、そして何よりトップのマネジメント能力が重要だと感じました。


 


2014年社長賞


2016年社長賞


2017年社長賞