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聞いてみなければ解らない!人物インタビューシリーズ 第65回

『三井住友海上火災保険(中国)有限公司 伊藤 幸孝 董事長・総経理 インタビュー!』2019/11/28

<strong><font style="font-size:19px">中国駐在20年で体得した中国人社員との付き合い方 </font></strong>

中国駐在20年で体得した中国人社員との付き合い方

<strong><font style="font-size:19px">——三井住友海上火災保険(中国)有限公司 伊藤 幸孝 氏</font></strong>

——三井住友海上火災保険(中国)有限公司 伊藤 幸孝 氏


 

三井住友海上火災保険(中国)有限公司

伊藤 幸孝 董事長・総経理

 

1983年慶応大学商学部卒後、大正海上(当時)に入社。大阪で企業営業を担当し、91年に会社からの語学留学生として台湾と北京で学ぶ。帰国後は東京で企業営業を担当し、98年に上海事務所へ赴任する。その間2001年に支店設立と経営に従事し、06年に支店の経営を軌道に乗せて帰任。09年から東アジア・インド本部部長を務め、12年4月より三井住友海上火災保険(中国)有限公司董事長・総経理に就任し現在に至る。

 

◆◆◆ アジアでは、世界トップクラスのネットワークを誇る ◆◆◆

三井住友海上火災保険株式会社は、2001年10月に、三井海上火災保険と住友海上火災保険の合併により誕生した。2008年4月には、グループ全体のより高度な事業多角化を目的として、持株会社体制に移行し、2010年4月には、三井住友海上グループ等が経営統合し、「MS&ADインシュアランス グループ」が発足、グループの中核事業会社として国内外のお客様に高品質の保険商品やサービスを提供している。

同社は、世界42カ国・地域に営業及びサポートネットワークを有し、特にアジアでは、世界トップクラスのネットワークを誇っている。

中国への進出は日系企業の中では比較的早く、93年に上海に代表処を設立した。その後2001年に上海分公司を設立し営業を開始、07年に上海支店を改変する形で三井住友海上火災(中国)有限公司を設立した。

営業面においては、04年に太平洋保険グループと戦略的包括提携関係を締結し、主に同社が提供する自動車保険の再保険を引き受けている。

中国事業の内容について伊藤董事長は、「中国では再保険の売上比率が比較的高く、再保険と直接販売の売り上げ比率は1:1となっています。お客様に直接販売している保険では、火災保険や運送保険等を主に取り扱っています。」と説明してくれた。


 

◆◆◆ お客様とリソースを共有し共に学ぶ ◆◆◆

同社は、毎年全国の各都市で「三井住友海上大学堂」を開催し、現地のお客様を招待している。この研修を始めたきっかけを尋ねると、「もともとは自社の社員研修として開催していました。しかしせっかく優秀な講師を招いて実施する研修を、自社の社員だけで受講するのはもったいないのではないかという声があがり、それならいっそうのこと日頃お世話になっているお客様を招待して一緒に学習してもらおうと考え、現在の形式になりました。」と伊藤董事長は答えた。「それに普段、我々が接している日本人駐在員や経営層の方々だけではなく、業務担当としてお世話になっている方々に対するおもてなしとして、この様な研修であればお客様も喜んで参加できるという理由もあります。」

今年、「三井住友海上大学堂」は上海、広州、北京の三都市で開催され、中智日本企業倶楽部・智櫻会は今年のプロジェクトにおいて専門的なサービスを提供した。



 

◆◆◆ 念願の障害者支援を中智上海のリソースで実現する ◆◆◆

三井住友海上火災保険(中国)では、CSR活動に積極的に取り組んでいる。これについて、人力資源行政部の鄥情 総経理は、「CSR活動は、各支店単位で行っており、例えば更新で使われなったパソコンの小学校への寄贈や貧困地域の小学生に対する文房具の寄贈、養老院への慰問、地域の清掃活動、ほかには公益植林活動や防災研修など幅広く行っています。」と、同社が取り組んできた様々なCSRを紹介してくれた。

ところが、ひとつだけ同社が以前から取り組みたいと考えていたが、実現できずにいた事業があると伊藤董事長は言う。「障害者の採用を積極的に行いたいと考えていましたが、障害者の方々に安心して働いていただけるような施設や制度面で十分な配慮を行うことができず、残念ながら実現できていませんでした。」その様な中で、中智上海が国の「十三五プロジェクト」に則り、実施している障碍者スポーツ支援事業「ドリームプロジェクト(円夢計画)」を知り、参加を決めた。「これまで実現できなかった障碍者の方々の雇用を、中智さんの支援で実現する事ができ、大変感謝しています。」と伊藤董事長は中智に対し感謝を表した。


上海市障碍者スポーツセンターを訪問


 

◆◆◆ 世代ごとの特徴に合わせて指導や研修、機会の与え方を工夫 ◆◆◆

伊藤董事長は社会人としてのキャリアの大半を中国と関わってきた。1983年に大正海上(当時)に入社し、大阪での企業営業を経て国際関係業務を担当する。その間の91年に社費留学で語学研修生として台湾と北京で学ぶ。帰国後、東京勤務を経て98年に上海事務所へ赴任し中国でのキャリアをスタートする。当時の上海での生活について尋ねると、「上海へ初めて赴任した当時は、外国人の居住地域が決まっており、買い物は専用バスで外国人専用の百貨店へ行かなければなりませんでした。確かに当時は不便が多かったが、皆で協力して克服しようという雰囲気があり、住民の皆さんから親切にしていただく事が多くありました。」伊藤董事長は、古き良き上海での生活を懐かしそうに語ってくれた。

伊藤董事長の長年にわたる上海市発展に対する貢献が評価され、2017年の「白玉蘭記念賞」に続き、今年の9月には「白玉蘭栄誉賞」が授与された。


伊藤董事長が初めて上海に駐在してから20年余り。中国そして上海は目覚ましい発展を遂げ、街並みや人々の暮らしは大きく改善された。伊藤董事長は、それに伴い従業員の価値観も世代により大きく変化してきているという。「60後や70後の社員は、経済的に貧しい時代を経験し、外国の優れた技術を学び追いつこうと必死に努力してきた世代です。この世代の人は責任感が強く努力家が多いように思います。しかし社会の変化が速く、自分たちが学生時代に学んできた知識がすぐに陳腐化してしまい、時代の変化に対応することに苦労しているように感じます。」責任感が強く努力家だが、時代の変化についていくことに苦労しているのが60後、70後の特徴のようだ。それに対し80後以降の若い世代について伊藤董事長はこう話す。「若い世代の社員たちは高度な教育を受け、経済的にも豊かな環境で育ってきたため、自己実現のための選択肢が多く恵まれています。しかし、挫折やつらい経験をあまりしていないため、プレッシャーや大きな障害にぶつかった時、乗り越えるのに努力が必要なようです。」能力は高いが逆境を乗り越える忍耐力が不足しているのが若い世代の特徴だという。

このことから、古い世代は一つの技術をつきつめ、スペシャリストを目指す志向が強いのに対し、若い世代は様々な分野に興味を持ちゼネラリストを志向する傾向が強く、それぞれの世代の特徴にあった指導や研修、機会を与えるよう配慮している。


 

◆◆◆ 従業員との積極的なコミュニケーションがイノベーションを生み出す ◆◆◆

三井住友海上火災保険(中国)は、会社を大きな家族と考え、従業員間のコミュニケーションを大切にしている。「毎日のように様々な部門の社員たちと食事をするようにしています。最初は緊張していましたが、何度も行っていると徐々に打ち解けて何でも気軽に話してくれるようになりました。」

一般の従業員たちとのコミュニケーションを重視する理由について伊藤董事長はこう語る。「社員一人ひとりが経営者と同じ方向と目的意識を共有し、私が何を思い、何をしたいと考えているかを理解し、積極的に提案してもらいたいと考えています。外国人である私より、中国人社員たちの方がより多くの情報を持っています。経営について判断する際、社員がより良い提案をしてくれた場合、私の判断よりそちらの提案の方が正しい可能性が高いと言えるでしょう。」

会社をひとつの大家族と考える同社では、毎月HRオープンデーという日を設け、社員たちの日頃の悩みをHRに直接に相談できるようにしている。人力資源行政部の鄥情 総経理はこう説明する。「普段かなかなか会社の上司に相談できない様な悩みを聞いてあげ、解決の手助けをしています。もちろん相談内容の秘密は厳守します。」従業員とのコミュニケーションを重視することで、特に核心人材の離職率が低下したという。




  

 



  

 



  


 

◆◆◆ 奪うのではなく、新たな市場を生み出すことで業界と共に発展する ◆◆◆

最後に、今後の展望について伊藤董事長に尋ねた。「変化のスピードの速い中国では、既存のビジネスモデルを維持するだけでは、発展するのは厳しいといえます。しかし、既存のお客様を他社から奪うのは、あまり良いアイデアではありません。我々は、省や市政府の制度作りに協力し、新たな市場を作るよう努力しています。そこに他社にも参入していただくことで、業界の利益にもなり、お客様の利益にもなり、更には省や市政府の利益にも繋がります。」

同社では既に、外航貨物のプラットフォーム”(非“外交貨物“)など、いくつかのプロジェクトに関し地方政府との協力を進めている。

【中智からのコメント】

伊藤董事長は、20年以上亘り、代表処時代から現地法人の設立、現在に至るまで、上海の発展と共に歩んでこられた数少ない日本人の一人です。その伊藤董事長から、当時の外国人の生活や、実際に接してきた世代による中国人社員の特徴について、とても貴重なお話しを伺うことができました。日系企業中国法人の成長史、貧しく物が不足する時代、駐在員と中国人社員が、一緒に努力してきた初心を忘れてはならない、と改めて感じました。


中智との記念写真